外集団(特に道徳性が対立する外集団)に同調しない:大統領選挙における候補者の支持・不支持を使って検討

投稿日: Jun 06, 2017 6:5:38 AM

Stein, R. (2017). “Trumping” conformity: Urges towards conformity to ingroups and nonconformity to morally opposed outgroups, Journal of Experimental Social Psychology, 70, 34-40.

要約

これまでの先行研究では,人には他者に同調する傾向があることが示されているが,本研究ではどんな他者にでも同調しやすいわけではなく,同調の傾向は集団成員性や道徳性の不一致と関連することを示す。参加者に,まずストループ課題で,ミスが促進されたと推測したときに生じる心的状態がどのようなものかを認識させ,その後行った選好課題で自分自身の選好を思い出させる際に,ストループ課題で感じたときと同じような「ミスが促進された感じ」がどのくらい生じたかを答えさせた。先行研究と一致して,3つの研究では,参加者は内集団の多数派が同意していない製品の選好を思い出させた時に,内集団が同意する製品の時よりも,干渉を受けていた(ミスが促進された感じが高かった)。しかしながら,この同調傾向は,イデオロギー的に外集団である時に弱まり,さらにその外集団の道徳性が強く対立する場合には同調は生じなかった。

背景

人は他者に同調しやすい。こうした同調傾向は,産後間もない時から協力の意図を示すことや,多数派に同意しない時には脳のエラー信号が出ることなど,かなり根強いものである。しかし,政治的な観点において,これらの先行研究とは矛盾する可能性がある。

2016年のアメリカ大統領選挙を振り返ると,この選挙は保守と革新で二分されており,これらの対立が激しかった。このような保守・革新の違いは道徳性によって生じるといわれている。

Haidt (2007, 2012)によると,道徳性は,その意図が同じコミュニティーの中の人同士を結び付け,その反対に道徳的に対立する集団に対して盲目的になるという。保守・革新もまた道徳的意図によって区別されることからも,道徳的に対立する外集団には,先行研究とは異なり同調が生じないと予測した。

各研究の対象者

    • 研究1a

2016年1月にAMTで実施した。参加者は285名のアメリカ人。ターゲットとなる多数派として,「アメリカ人(内集団)」「カナダ人(道徳的な対立が少ない外集団)」「トランプ支持者」の3パターンを用意した。

    • 研究1b

2016年9月にAMTで165名のアメリカ人が参加した。今度は多数派の条件をすべてヒラリー氏にした。

    • 研究2

2016年9月にAMTで304名が参加。うち,148名は保守。156名は革新であった。

実験の手続き(実験1aを参考)

まずは,参加者はストループ課題を行った。このストループ課題は,参加者自身に「ミスが促進された」感じを認識してもらうものであった。課題終了後に,「ミスが促進された」感じって,こんなのですよと説明した。次に,トランプ支持多数派条件の参加者のみ,トランプ氏に関する質問(支持者かどうか,好ましさ(2項目),トランプ氏に同意しないことに道徳的な問題があるかどうか(2項目))に回答させた。そのあと,2つの商品のうち1つを選択する課題を行った。選択の後に,どちらが多数派なのかを示した(多数派は78%~85%の間で変動)。最後に,選択課題時の自分自身の回答を思い出させ,思い出させたときに,どのくらい「ミスが促進された感じ」がしたのかを答えさせた。これを同調の指標とした。

結果

研究1aでは,トランプ氏と道徳的に立場が異なると回答した人のみ,トランプ支持者が勧める商品に対して,勧められていない商品よりも「ミスが促進された感じ」が生じていた。1bでも道徳的にヒラリー氏と立場が異なると回答した人で,同様の傾向が見られた。

さらに,研究2では,自分と政治的イデオロギーが対立し,中でも,道徳的に対立する場合に,同調傾向が逆転することが示された。

まとめ

多数派が内集団である場合には,先行研究と同じ結果が得られた。しかし,外集団,特に道徳性が一致しない外集団に対しては同調が生じなかった。