Chaiken 特集② 減弱効果と加算・バイアス効果

投稿日: Aug 17, 2016 6:48:13 AM

追記(2016/11/22):これまで加算効果とバイアス効果を区別せずに一緒くたに「加算効果」と誤って表現していたため,「加算・バイアス効果」というように,より適切な表現に修正しました。

Chaiken 特集の第2弾です。今回は,1994年にJournal of Personality and Social Psychologyに掲載された論文を紹介します。今回の論文では,減弱効果と加算・バイアス効果といったヒューリスティック処理とシステマティック処理の互いの影響関係について検討をしています。

HSMの仮定のおさらい

HSMでは異なる2つのシステムを想定しています。システマティック処理では,説得的論拠についてよく考え,認知的熟慮をしていることが指摘されています。その一方で,ヒューリスティック処理では,「専門家だから信用できる」などのヒューリスティックによって生じるといわれています。HSMでは,これらの2つの処理は同時に働くことも仮定しています。

減弱効果

しかし,2つの処理が同時に働くというHSMの仮定とは裏腹に,これまでの研究ではシステマティック処理がなされる場合にヒューリスティックの影響がほとんどみられていません。これに関する可能性の1つとして,システマティック処理がヒューリスティック処理の発生を抑制するというように,ヒューリスティック処理とシステマティック処理は相互排他的な関係にあることが考えられます。つまり,システマティック処理がより判断に関連した情報を受け手にもたらす結果,ヒューリスティック処理が取り除かれるということです。これを減弱効果といいます。

加算・バイアス効果

また,システマティック処理によってもたらされた情報が,ヒューリスティック処理と矛盾(あるいは圧倒)しない場合には,判断は両方の処理が反映されるだけでなく,ヒューリスティック手がかりがシステマティック処理を促すという加算・バイアス効果が適用されると考えられています。しかし,これまでのHSMやELMの研究では,論拠の強弱が明確であったため,システマティック処理によって論拠重視の情報がもたらされ,その結果ヒューリスティック処理との矛盾を打ち消そうとし,減弱効果が生じてしまいます。しかし,論拠の強弱をあいまいにすると,システマティック処理でもたらされる情報とヒューリスティック処理とのが小さくなるので,減弱効果が生じず,加算・バイアス効果が見られると考えられます。

※追記(2016/11/22):厳密には,ヒューリスティック処理とシステマティック処理の両方の処理が反映されることを加算効果といい,ヒューリスティック手がかりがシステマティック処理を促すというのがバイアス効果です。この研究の本文では,加算効果とバイアス効果の両方をまとめて“additivity and bias hypotheses (加算・バイアス効果) ”と表現しています。

研究方法の概要

この研究では,ヒューリスティック手掛かり(情報源の信頼性),メッセージの曖昧性,システマティック処理の総量(課題の重要性)を操作して,このバイアスについて検討しました。したがって,あいまいなメッセージの場合,情報源の信頼性といったヒューリスティック手がかりは,システマティック処理が行われているかどうかにかかわらず態度に影響する予測されます。しかしこの手掛かりは,関与度が低い時には,ヒューリスティック処理の直接的な影響(単なるヒューリスティック手がかりとして働く)が,関与度が大きい時にはシステマティック処理にバイアスをかけて非直接的な影響をもたらすと考えられます(加算・バイアス効果が生じる)。

方法

ニューヨーク大学の学生367名が実験に参加しました。参加者は,「新しい留守番電話機の“XT-100”」についての意見について読み,それについての自身の態度(「XT-100」の購買意図,好ましさ,使いやすさと良さ(9件法))について回答しました。そのあと最後に3分間メッセージを受けている最中に思い浮かんだことを書き出させて,認知反応を測定しました(※認知反応についての記述は省略します。)。独立変数は以下のようにして操作されました。

課題の重要性:XT-100に関する調査に選ばれた数少ない人々で,参加者自身の回答がこの地域一帯の人に大きな影響をもたらすと教示される群(重要性高条件)と,XT-100に関する大規模なアンケートで,個人の意見が反映される割合は少ないと教示される群(重要性低条件)を設定しました。

情報源の信頼性の操作:高信頼条件では「カスタマーレポート(という新製品に関する科学的な検証をしている雑誌らしい)」による説明といわれ,低信頼条件では「Kマートの販売スタッフ」による説明といわれました。

メッセージの種類:Table 1にあるように,明確強論拠(US),明確弱論拠(UW),あいまい2種類(A1とA2)の4種類あり,それぞれ470 words で構成されていました。それぞれ論拠は6つあり,その論拠は重要な属性かそうでないかのどちらかでした。たとえば,USでは重要な属性について好ましい記述が4つあり,重要ではない属性について好ましくない記述が2つあるということになります。

結果

その結果,予測通り情報源の信憑性の主効果が有意で,信憑性が高い情報源の時のほうが低い時よりも,商品に対する態度が好ましかったです。さらに,課題の重要性×情報源の信憑性×メッセージの種類の2次の交互作用が有意でした(Figure 1)。これまでのHSMでの知見と同じく,課題の重要性が低い時には,情報源の信憑性の主効果のみ有意でした。注目すべきは,Figure 1の下のパネルです。曖昧メッセージ条件では,信憑性が高い時には低い時よりもXT-100への態度が好ましいことが示されました。これは,システマティック処理によってもたらされた情報が,ヒューリスティック処理と矛盾(あるいは圧倒)しない場合,すなわちここでいう,あいまいな論拠の時には,判断は両方の処理が反映されるという加算・バイアス効果を支持する結果でした。その一方で,明確メッセージ群では,信憑性の高低によって差がありませんでした。また,明確メッセージ群では,その論拠の強弱によって説得の効果に差がありました。これらのことから,システマティック処理の時には,ヒューリスティック処理の効果が見られないという,減弱効果を支持する結果です。

まとめ

HSMではシステマティック処理とヒューリスティック処理が同時に生起することを仮定しています。これまでの研究では,減弱効果によって同時生起の影響が見られなかったが,この研究では,論拠の強弱をあいまいにすることでシステマティック処理とヒューリスティック処理の矛盾を小さくし,その結果ヒューリスティックな情報がシステマティック処理を促進させ,説得的メッセージに対する熟慮を強化するという加算・バイアス効果を見出すことができました。

【引用文献】