ちょいドジbotによって共同作業のパフォーマンスが最適化!

投稿日: Jun 06, 2017 6:9:27 AM

共同作業で全体のパフォーマンスを向上させるのはかなり難しい。それはメンバー同士やあるメンバーと集団の間に葛藤が生じるということのみならず,「足を引っ張る」という言葉にあるように,ある個人の能力が共同作業の全体の成果につながるからです。たとえ一人ひとりが良く振る舞ったとしても,全体の成果は最適なものになるとは限りません。

共同作業に関する先行研究では,驚くべき(逆説的な!)方法で,この問題の解決策を提案しました。それは「ノイズ(noise)」を加えることです。一般的に,ノイズは「意味のない情報」で,多くの場合,それが問題を引き起こすものであると定義されます。しかし,ノイズは全体のパフォーマンスを最適化するのに役立つこともあるというのです。

Natureに掲載された,Shirado and Christakis (2017) の論文では,人間の集団に自律ソフトウェアエージェント(bot)を加えて一緒にある課題をさせる実験で,ノイズのポジティブな影響について検討をしました。

参加者が行った課題は,20のノードからなるネットワークの中で,自分と隣合うもの同士が互いに異なる色になるように,3色のうちから1つを選んで自分に割り当てられた色を変えるというものでした。この課題は,5分以内にそのネットワーク全体のノードの隣同士の色が異なるようになればクリアできたことになります(ネットワーク全体と5分間でどういう動きをしていたかは,こちらの動画をご覧ください。)。ただし,参加者は自分が属するネットワークの全体像が見えておらず,自分と直接結びついた相手の色しか見ることができません(下図のような状態)。

このネットワークには,全部で11種類のパターンがありました。うち1種類は人間のみで構成されたネットワークです。残りの10種類には,自律ソフトウェアエージェント(bot)が3体混じっていました。そのうち9種類は,3(botのエラーの比率(間違った色を選択する比率):0%,10%,30%)×3(3体のbotのネットワーク上の位置:中心(隣がたくさんの状態),周辺(隣があまりいない),ランダム)で構成されていました。残り1つは,botが最初から正解の色から一切色を変えないというものでした。

さて,結果はというと,botがたまに誤った判断をし,なおかつそのbotがネットワークの中心に位置している場合(エラーが10%で中心に位置する条件)では,集団のパフォーマンスの有意な改善が示されました。これは問題解決までの時間の中央値でみると,人間のみの時よりも55.6%も早くなっていました(Figure 2)。また,botのエラー率が低いとその近くの人間のエラーは減るものの,エラー率が10%の時には,botに近い位置の人間のエラーを増やすが,周辺個体のエラーを減らすことが明らかになりました(Figure 4b)。さらに,botがエラーすることは,botと直接相互作用する人間の判断に影響するのみならず,人間同士の相互作用にも影響しました(Figure 4e)。このようにして,人間とbotといった異質なシステムにおいて,共同作業によってたくさんの利益が生まれました。

シンプルな戦略を持った自律エージェントを社会的システムに加えることは,一緒に行う人間の集団全体のパフォーマンスの最適化につながるかもしれません。本研究では,たまにミスする自律式のbotの存在によって,集団のパフォーマンスが改善されました。これは前もって答えが分かっているbotが存在するときと同じくらいのパフォーマンスでした。この影響はbotが直接関係する部分のみならず,人間同士のインタラクションの部分も改善されたことも示します。