動画データを用いた連続的な動作の測定・分析技法
投稿日: Jun 06, 2017 5:40:12 AM
Hilliard, C. & Cook, S. E. (2017). A technique for continuous measurement of body movement from video, Behavior Research Methods, 49, 1-12.
はじめに
ヒトはさまざまな動作が可能であり,こうした動きは意味や情報を伝達する機能を持っています(たとえば,「うなずき」は「同意」を意味すること)。こうした身体動作は連続的に変化します。
身体動作の研究は心理学・言語学など,多岐にわたるものの,そこで使用される動作のコーディングや測定のシステムの多くは,動作をカテゴリーにまとめてしまい,その動作に含まれる情報を取りこぼしてしまうという問題があります。
そこで,本研究では動画データから身体動作を(カテゴリーに分類せずに)コーディングすることで,身体動作の連続的な情報をとらえる方法を紹介し,このアプローチを用いたちょっとした実験でジェスチャー研究への利用可能性について紹介します。
連続的な動作をとらえることの必要性
これまでの研究では,動作の詳細な情報を得るためにmotion-tracking system が使われてきました。たとえば,手話の研究では,Stokoe, Casterline, and Croneberg (1976) が提唱した,4つの基準(形,位置,動き,方向)に基づいて,どれに当てはまるかカテゴリー分類する方法でコーディングされます。
しかし,コーディングシステムに基づく動作の測定は,カテゴリーの中での変化しか追えないという問題があります。たとえば,ある動作が「横」に分類された場合,カテゴリー分類によって得られたデータには,方向や距離,角度などの,情報は含まれていません。つまり,カテゴリーで分類して連続的に追うことは,カテゴリーの中での微細な変化をとらえきれていないことになります。
また,カテゴリーを分類してコーディングする方法には分析上の問題もある。カテゴリカルデータを連続的変数として分析で扱うと,偽の結果がでたり,効果が小さくなったりしてしまいます(Jaeger, 2008)。
このような問題を認識していながら,上記した方法が最も使われ続ける理由に,カテゴリーに分類せずに動作をコーディングするのは骨の折れる作業だ,ということがあげられます。
とはいっても,近年のモーショントラッキング技術で,素早くデータにすることができるようになっています。
しかし,その技術をもってでも,体にセンサーを付けなければならないという制約や,カメラのアングルを固定するため室内での動きというような制限があります。
そこで本稿では,多様な身体動作をとらえつつ,技術とソフトウェアを使って簡単利用できる方法を紹介します。
測定方法:ELANを使ってコーディング(Fig. 1)
具体的には以下の方法(Fig. 1)で身体動作をコーディングします。
①動作のタイミングの情報を紐づける
②開始時間からコマ割りしたものをエクスポートする
③1コマずつ,マウスでポチポチ動作を追っていく
ポチポチし終わったイメージ図が本文のFig. 2。
試しに簡単な実験をやってみた
では,この方法を用いて,身体動作の簡単な研究を実施しました。
この実験では,4名の大学生に「画面に提示される点の動いた方向を説明する」という課題をさせ,説明時の動作を,上述した方法でコーディングして分析しました。
画面に表示される点の動きは位置(top/middle/bottomの3水準)とスピード(600 pixels(p)/s,300 p/s,200 p/s,150 p/sの4水準)が操作されていました。
その結果,課題自体は,点の動いた方向だけで,位置やスピードは説明する必要なかったにもかかわらず,説明時のジェスチャーは,その点の位置やスピードにつられていることが分かりました。
たとえば,点の位置によるジェスチャーの高さの違いはFig. 3に示す通りです。
こうした微妙な上下の位置の違いは,従来のカテゴライズする方法ではとらえきれませんでした。
この方法でやることの利点と限界
利点
①カテゴリーで分類するよりも多種多様な変数を測定することができる。
②この方法で得た変数は客観的な指標で,(従来の方法では必要だった)正確にコーディングするためのトレーニングがいらない。
③誰がコーディングするかによる誤差が小さい(10 pixelsよりも小さい!)。
限界
①x軸とy軸の方向しかとらえられない。奥行情報が測定できない。
②カメラの位置と角度の制約が厳しい。複数人が動くという状況が困難。
③カメラと体の位置を一定にする必要がある。
本研究で紹介した方法は,これまでのコーディングシステムに取って代わるようなものではないけれども,とらえきれなかった細かな変化がみれるようになります。