トランプ現象の解明:政治に関係する誤報の処理の観点から

投稿日: Apr 24, 2017 8:54:59 AM

Swire, B., Berinsky, A. J., Lewandowsky, S., & Ecker, U. K. (2017). Processing political misinformation: comprehending the Trump phenomenon. Royal Society Open Science, 4(3), 160802.

たとえば,支持している政党が政権の時には失業率の高さなど重大な問題を容認してしまうように,政治に関しても,支持政党かどうかによって,人はしばしば事実であることを認めることができなかったり,誤った情報を訂正することができなくなったりすることがあります。Swireら(2017)の研究では,このような政治的情報の真偽に関する有権者の認知的プロセスを検討するために,実際の2016年の大統領選挙中のトランプ氏の選挙遊説の主張を用いた2つの実験を行いました。

実験1は,アイオワ州の党員集会よりも前の2015年の11月ごろに,1776名を対象にAmazon.com’s Mechanical Turkで行われました。その当時は,トランプ氏以外にも13の候補者がいました。実験のデザインは,3(参加者自身の党派性:民主党,トランプ支持の共和党,トランプ不支持の共和党)×2(情報の帰属:なし/トランプ氏)×2(情報の真偽:事実だと確認された主張/誤りがあると訂正された主張)×2(再評定のタイミング:直後,1週間後)のデザインが用いられました(Figure 1)。

手続きとしては,たとえばTable 1にあるように,「ワクチン接種は自閉症を引き起こす」という主張に対してそれがトランプ氏の発言だと明示されている場合(上の段)と,誰の発言なのか明示されていない場合(下の段)がありました。ここで提示された主張は,トランプ氏が実際の選挙遊説で発言したもので,事実だと確認されたもの(4つ)と,後に誤った情報であると撤回した主張(4つ)がありました。その主張見て,まず参加者はどのくらいその主張の内容を信じるか回答しました。それから,その主張は正しいか,誤っているのかを知らされます(Table 1の例では,誤りだと書いてあります)。この主張があっているかどうかの情報を見たのちに,再度,その主張が正しいかどうかを答えさせました。

その結果がFigure 3です。Pre-examinationの部分を見ての通り,情報がトランプ大統領候補者のものだと提示された場合には,トランプ支持の共和党支持者は,誰の主張か明示しなかった時よりも,その情報を信じると評価していました。その一方で,民主党の支持者はその反対,つまり,トランプ氏に帰属された情報を信用していないことが明らかになりました。

さらに面白いことに,トランプ氏の支持者は,その主張が間違いであると訂正された場合に,その主張を「正しくない」と評価していた(Figure 3のimmediate retention intervalの赤色の点線)にも関わらず,トランプ氏に投票する意図は,情報が間違っていることが分かった後でも変化しませんでした(Figure 6)。

実験2では,トランプ氏の主張が真実だと確認する人や間違いだと訂正する人の党派性を操作して実験を行いました。参加者960名で,Survey Sampling Internationalで募集し,2016年の7月に実験を行いました。実験のデザインは,2(情報の真偽:事実だと確認/情報が誤っていると訂正)×3(説明する人の帰属:なし/自民党支持者/共和党支持者)×3(参加者自身の党派性:民主党,トランプ支持の共和党,トランプ不支持の共和党)でした。その結果,Figire 9で示されているように,トランプ氏の主張に対して誰が説明をするかということはほとんど影響がありませんでした。

以上をまとめると,嘘でも本当でもあれ,その主張の正確さを判断するときに「どの政治家の主張」であるかということを一つのヒューリスティクスとして使っている。しかし,トランプ氏を支持者がその主張自体の真偽を認識していたとしても,トランプ氏を支持する意図を持ち続けたように,候補者を支持するための前提条件として,主張の正しさは必ずしも必要というのではなさそうだ。