Petty & Cacioppo 特集③ 商品広告でもELMは適用される

投稿日: Jul 26, 2016 9:11:46 AM

Petty & Cacioppo の特集の第3弾です。今回は1983年にJournal of Consumer Researchに掲載された,Petty, Cacioppo, & Schumann (1983) について紹介します。これまでの特集でも「関与度」を操作していましたが,今回は「問題に対する」関与ではなく「商品に対する」関与に注目したものになります。

消費者行動研究における説得研究

「商品広告が消費者の心にどれだけ影響するのか」という問いは,消費者行動研究のメイントピックスです。消費者の態度形成・変容に関する実証研究はたくさんあるだけでなく,その理論は多種多様です。そこで,この研究では,態度変容には中心ルートと周辺ルートの2つのルートがあるという考えを適用します(これについてはPetty & Cacioppo 特集②を参照)。

消費者研究では,「いつ消費者は製品に関連する情報を積極的に探し求めたり,処理するのか?いつ製品に関する情報をぞんざいに処理するのか?」が重要な問いになります。この論文が掲載された当時には,消費者行動研究や社会心理学では,説得的コミュニケーションによって引き起こされる情報処理の量やタイプに「関与度」が重要な媒介要因になることが言われていました。そこで,この研究では「商品との関与度」に注目して以下のような実験を行いました。このとき,広告との関与が大きい場合には,問題に関連することをあれこれ考える(中心ルートを通る)一方で,広告との関連が小さいメッセージの時には,周辺的な特徴によって態度を変容させると予測しました。

説得と関与

この論文の序論では,広告における消費者の態度変容プロセスの理論の中でも,説得と関与に関する情報処理について3つの理論を紹介しています。

まず,社会的判断理論(Petty & Cacioppo 特集①を参照)では,自己との関与が大きくなるほどメッセージに対する抵抗が大きくなるといいます。一方で,消費者研究で広く知られているKrugman (1965) の主張では,説得への抵抗が大きくなることではなく,説得の効果の大きさの順序が変わるといいます。関与度が高い時には,認知⇒態度⇒行動の順に説得の影響が大きい一方で,関与度が低い時には,認知⇒行動⇒態度の順に影響が大きくなるというのです。

さらに,この研究で注目する精査可能性モデル(elaboration likelihood model (ELM); Petty & Cacioppo,1981) があります。ELMは説得に対してどれだけ精査しようとするのかによって,中心ルートと周辺ルートのいずれの処理がなされるかが異なる説明をするものです。この精査可能性を左右するものとして,「関与度」が挙げられています。しかしながら,社会心理学で扱われてきた「関与度」は「問題に関する関与」で,その「製品への関与」についてもELMで説明ができるかどうかはまだ明らかではありません。したがって,この研究では,ターゲット広告の商品が消費者の居住地域でも販売されるか否かというようにして,「商品への関与」の高低を操作しました。

方法

大学生160名は,無作為に2 ( 関与度:高/低 ) × 2 ( 論拠の質:強/弱 ) × 2 ( 手がかり:有名人/一般人 ) の条件のうち1つに割り当てられました。参加者は2種類の冊子を受け取りました。1つ目の冊子は広告刺激で,参加者はいくつかの商品の広告を見ました。この冊子の商品が,参加者の居住地域でも発売されるか否かによって関与度が操作されました。さらに,その冊子の6番目のカミソリの広告がターゲット刺激となっており,論拠の質,周辺的手がかりが操作されていました ( Figure A )。でした。2つ目の冊子は従属変数の態度を測定するもので,製品に対する態度と購入意図の測定項目がありました。

メッセージの関与度,論拠の質,手がかりは以下のように操作されました。

関与度は,地元でも購入できる商品か否かによって操作された。

論拠の質は,論拠の質が強い条件では,「科学的にデザインされた」というような機能性を重視した広告で,論拠の質が弱い条件では,「デザインが美しい」というようなデザイン性を重視した広告になっていました。

周辺的手がかりは,有名人条件では,広告の見出しを「プロのアスリート達も納得」とし,一般人条件では,この前半部分を「カリフォルニア州・ベーカースフィールドの皆さんも納得」という見出しにした。

結果

その結果がFigure Bです。関与度が高い時には,論拠の質が強いほうが説得に対して好ましい態度を表明していました。一方で,関与度が低い時には,有名人がうたったほうが一般人が主張した場合よりも,説得に対して好ましい態度を表明していました。この結果は,関与度が高い時には論拠の質に基づいて態度変容(中心ルート)がなされ,一方で関与度が低い時には有名人が賛同しているといった,周辺的な手がかりに基づいて態度が変容される(周辺ルート)という予測を支持する結果でした。

購入意図についても,論拠の強弱の効果は関与度が高い時のほうが低い時よりも大きいことが分かりました。一方で,関与度が低い時には,周辺的手がかりに基づくという予測は支持されませんでした。態度と購入意図の相関を算出したところ,関与度が高い条件の時のほうが低い条件よりも強い正の相関関係がありました。つまり,今回の結果は,関与度が大きい条件では,論拠の強弱による効果が態度と行動(意図)の両方にあったが,関与度が低い条件では,周辺的手がかりによる効果は,行動意図ではなく態度のみ論拠のみ見られたということを示します。

この結果は,関与度が高いときは態度>行動で検出がしやすく,一方で関与度が小さい場合には行動>態度の順で予測が大きいと説明するKrugmanのsequence formulationとは一致しない結果でした。むしろ,関与が高い時のほうが,態度と行動の相関が強いという点において,関与度が強い時には論拠の質に基づいた処理(中心ルート)がなされ,弱い時には周辺的手がかりに基づいた処理(周辺ルート)がなされるというELMのほうが適していると考えられます。

周辺的手がかりを侮ってはいけない

これまでの社会心理学やマーケティングにおける研究では「論拠」が重視されてきたが,本研究の結果から,いくらかの状況では,有名人からの同意があるほうが,一般人の同意よりも影響力が強いことが示されました。もちろん広告の論拠の質が強いことが重要であるが,それと同時に周辺的手がかりの影響を軽視してはいけない,ということだろう。

【引用文献】