Chaiken 特集③ 正確志向動機と印象志向動機

投稿日: Aug 19, 2016 2:57:59 AM

Chaiken 特集の第3弾です。今回はJournal of Personality and Social Psychologyに掲載された,Chen, Shechter, and Chaiken (1996) を紹介します。

HSMに関連する動機づけ

この研究では,正確志向と印象志向が動機づけられた個人におけるヒューリスティック処理とシステマティック処理について検討しています。HSMの初期の研究では「正確志向動機」によってヒューリスティックかシステマティックか区別されていました。しかし,HSMでは正確志向動機以外にも,防衛志向動機と印象志向動機が関連するといわれています。防衛志向動機は既存の自身の信念と一貫させたいというもので,印象志向動機は社会的目標を達成したいというものです。印象志向動機は社会的文脈によって与えられる特定の判断の表出における,対人関係の結果として引き起こされます。

正確志向動機と2つの処理

判断の妥当性を目標とするとき,正確性を動機づけられたヒューリスティック処理とシステマティック処理は,より公平に情報を扱うようになると特徴づけられます。正確志向の動機づけが低い時には,正確な判断を達成するために最適だと考えられるヒューリスティック手がかりに基づいて態度変容すると考えられます。その一方で,認知的資源が十分にあり,正確志向の動機づけが高い時には,妥当な判断をすることを目的としたシステマティック処理がなされると考えられます。

印象志向動機と2つの処理

印象志向が動機づけられた処理は,即時的な社会的目標を満足させることが目標とした選択的バイアスと特徴づけられます。印象志向が動機づけられたヒューリスティック処理は,ヒューリスティックの選択的使用が含まれる。たとえば,「郷に入っては郷に従え」というヒューリスティックは,他者とのスムーズなインタラクションを目的を達成するために使われます。一方で,十分な容量があり,印象志向動機が高い場合には,より努力が必要な処理をしようとします。ただし,印象志向動機が高まったシステマティック処理はしばしば社会的目標を達成するために情報の処理量についてもバイアスがかけられます。たとえば,他者によく思われたいと願う人は,インタビューされるときにインタビュアーから反論されるときの準備として,問題に関連する情報をより処理しようとします。印象志向動機の研究は,正確志向動機の研究と比較して知見が少ないのです。

実験1

実験1では,相手との説得トピックについて議論が控えていることを想定した状況(参加者によって動機づけを引き起こすことができる状況)で,印象志向動機の高低を個人のセルフモニタリング傾向の高低によって区別し,正確志向動機と印象志向動機による2つの処理の違いについて検討しました。

実験にはニューヨーク大学の学生304名が実験に参加しました。説得トピックは,「ハイジャック事件の報道を減らすこと」についてで,強論拠メッセージと弱論拠メッセージともに375 wordsで,5つの論拠で構成されていました。

実験の手続きとしては,事前態度測定時にSnyder (1974) のセルフモニタリング尺度に回答してもらいました。そして実験では,まず導入情報を読み,次に議論相手の意見を読み(このとき相手の意見がトピックに賛成か反対かが操作されている),そして説得的メッセージ(強論拠 or 弱論拠)を読みました。そのあと,説得トピックに関する態度を測定し,思考リスト課題を2分間行いました。

※ここでは記述を省略しますが,少なくとも2週間開けたのちに,再度電話で態度測定し,説得後の態度がどれだけ持続しているかも検討しています。

2(セルフモニタリング)×4(相手の態度)×2(論拠)の分散分析をした結果,セルフモニタリングと相手の態度との間に交互作用が見られました(Table 1)。高セルフモニターは低セルフモニターと比較して,相手が好ましい態度を表明している場合にはより好ましく,好ましくない態度を表明している時には好ましくない態度を表明する傾向が見られた。これは,印象志向動機が高いことは,「郷に入っては郷に従え」ヒューリスティックの影響を受けていることが明らかになりました。

また,認知反応の結果は,態度の結果と同じく高セルフモニターはパートナーに関する思考が多い傾向にありました。しかしそれだけでなく,高セルフモニターは問題に関連した思考も相手の態度によって差があった一方で,低セルフモニターでは,問題に関連した思考は相手の態度の影響を受けていませんでした。この結果は,印象志向動機の高さは,社会的目標を達成するためにより情報を処理しようとバイアスをかけていることを示します。

実験2

実験2ではプライミング課題を用いて動機づけを操作しました。ニューヨーク大学の学生67名が参加しました実験1とおおよそ同じ手続きであるかが,実験1と異なり,説得メッセージは425 wordsで構成され,支持する論拠と支持しない論拠の3つずつの論拠が含まれるようにしました。

実験前に事前態度を測定し,そして実験では,まず動機づけ課題を行いました。この課題は,3つのシナリオ(2段落で構成)を読み,それぞれ以下のようなことに注意して答えるというものでした。正確志向動機群では「客観的に考えて答えること」を強調し,印象志向動機群では「社会的場面を考えて答えること」を強調しました。この後,議論相手の意見を読み(このとき相手の意見がトピックに賛成か反対かが操作されている),そして説得的メッセージを読みました。そのあと,説得トピックに関する態度を測定し,思考リスト課題を2分間行いました。

2(プライミング)×2(相手の態度)の2要因の分散分析を行った結果,好ましさの主効果が有意で,相手が好ましい態度を表明した時のほうが,参加者自身も好ましい態度になっていた。さらに交互作用が有意でした (Table 4 )。印象志向動機群では相手の態度が好ましい時のほうが好ましくない時よりも,好ましい態度を表明していたが,正確志向動機群ではそこに差がありませんでした。また問題に関連する思考の数においても,印象志向動機群では相手の態度によって差があったが,正確志向動機群ではその差がありませんでした。これらの結果から,印象志向動機が高いということは,社会的な目標に関連したヒューリスティックを使うということだけでなく,社会的目標を達成するためにより情報を処理しようとバイアスがかかっていることを示します。

まとめ

印象志向動機は正確志向動機とは異なり,社会的文脈に従うことを目的としたヒューリスティックを使うだけでなく,社会的な目標を達成するために,相手に合わせてどれだけ情報を処理するかということが異なるという特徴を持ったシステマティック処理が行われることを示しました。著者らは今後の展開として,それぞれの動機づけの水準による違いについて検討することを述べています。この点は,今後 Nienhuis, Manstead, and Spears ( 2001 ) が印象志向動機の高低と正確志向動機の高低の組み合わせによって,どの処理が優勢になりやすいかといった研究で明らかにされています。ひとえに動機づけといっても,どういう動機づけが高いかによって,ヒューリスティック処理やシステマティック処理の性質が異なることを区別したのが新しいところなのかと思いました。

【引用文献】