Chaiken 特集① ヒューリスティック処理とシステマティック処理

投稿日: Aug 15, 2016 7:27:15 AM

Chaiken 特集の第1弾です。今回は,1980年にJournal of Personality and Social Psychologyに掲載された論文を紹介します。説得の2過程モデルと称されるものには,Chaiken が提唱したヒューリスティック-システマティックモデルとPetty & Cacioppo の精査可能性モデルがあります。これら2つの理論は,ほぼ同じ時期に提唱され,非常に類似しているものの,いくつか異なる点があります。Chaiken 特集とPetty & Cacioppo特集の両方を見比べて,2つの理論の理解を深めていきたいと思います。

説得におけるヒューリスティックとシステマティック

この研究では,説得における受け手の態度変容プロセスのパターンとして,システマティック処理とヒューリスティック処理の異なる2つのプロセスを提案しています。システマティック処理は,メッセージ内容の詳細とメッセージベースの認知の役割が強調されたプロセスで,ヒューリスティック処理は,詳細な情報処理を強調せず,単純なルールや認知的ヒューリスティックが説得の重要な媒介要因となるプロセスです。ヒューリスティック処理では,過去の経験や観察によって得られた一般的なルール(スキーマやスクリプト)が使われるといいます。

どういうときに2つの処理が使われるのか?

ヒューリスティック処理は認知的努力が最小限しかいらないという点で経済的に有利です。したがって,メッセージを処理する際に,経済性への関心が優位な時にはヒューリスティック処理を行うと考えられます。しかし,ヒューリスティック処理は判断の妥当性という意味で確実性に欠けています。たとえば,ヒューリスティック処理が行われる場合には,タイプ1エラー(ないものをあると判断してしまうエラー)とタイプ2エラー(あるものをないと判断してしまうエラー)を膨らます可能性があります。

一方で,メッセージの処理を行う際に受け手の関心が,経済性よりも確実性を重視する時には,システマティック処理がなされると考えられます。これまでの研究では,個人的に重要なトピックや自分の意見が自分自身に重大な影響をもたらす場合に確実性への関心が勝るといわれてます。

2つの処理の特徴

すでに述べた通り,システマティック処理では,受け手はメッセージの内容を第一に焦点にあてた処理です。だからと言って,情報源やそれ以外の内容に関係ない手がかりを一切使用しないのではなく,これらの手がかりは,メッセージの内容の二の次に,説得の論拠の妥当性の判断に使用されています。つまり,システマティック処理は,メッセージの特徴のほうが情報源の特徴よりも説得に大きな影響を与える処理ともいえます。

一方で,ヒューリスティック処理は,受け手はメッセージの内容を精緻に処理するのを避け,その代わりに情報源の特徴といった情報に依存します。つまり,ヒューリスティック処理が適用される時には,情報源の特徴がメッセージの特徴よりも大きな影響を持つといいます。

本研究の目的はシステマティック処理とヒューリスティック処理の有用性について体系的に検討し,情報源とメッセージの手がかりの影響について検討します。

実験1

実験1では,マサチューセッツ大学の大学生207名が実験に参加しました。参加者はこの実験は,2つのセッションで構成され,2つ目のセッションでは,自分の態度を表明したのち集団で討議を行うと教示されました(実際は1つ目のセッションしかなく,議論は行っていない)。参加者は好ましい/好ましくない説得者(学生組織と一緒に働く大学の男性事務員で,大学について肯定的なコメントをする人が好ましい人で,否定的なコメントをする人が好ましくない説得者というように操作された)から、6つ/2つの論拠が含まれた説得的メッセージを読みました。このとき,参加者は2つのトピック(「睡眠時間を8時間以下にすべきだ」「大学を2学期制から3学期制に変更すべきだ」)のうちいずれかを読み,自分が読むメッセージが2つ目のセッションで議論しなければならないトピック(関与度高条件)であったかそうでなかったか(関与度低条件)が操作されました。そのあと,説得者の主張について同意できるか否かを15件法でたずねました。そのあと,3分間説得的メッセージを読んでいる間の思考をリストアップさせました。これは2人のコーダーによって,メッセージ中心か説得者中心の思考かを分類し,またその思考がポジティブ・ネガティブ・ニュートラルのいずれかに分類されました。さらに,実験1では説得後の態度の一貫性も測定しており,実験後10日後に電話で再度参加者の態度を5件法で測定しました。

この説得について関与度か高い時には,システマティック処理が採用され,それに従って,説得者が好ましいか否かにかかわらず,論拠が6つあるほうへ態度を変容させると予測しました。一方で,関与度が低い時には論拠の数にかかわらず,好まし説得者のほうへ態度を変容させると予測しました。

※ここでは認知反応については省略します。

その結果が,Figure 1です。関与度の高い条件では,論拠が6つの時のほうが2つの時よりも説得者の主張への同意の程度が大きかったものの,説得者の好ましさによっては同意の程度に差がありませんでした。一方で,関与度の低い条件では,好ましい説得者の時のほうがより同意していたが,論拠の数によって同意の程度に差がありませんでした。これらは予測を支持する結果でした。

実験2

実験2では,トロント大学の学生80名が参加しました。説得のトピックは参加者自身の大学で2学期制から3学期制に変更するというもので,1981年(高関与)から,あるいは1985年(低関与)から導入されるというように関与度を操作しました。そして,参加者は,好ましい説得者(同じ大学の事務員)で論拠が1つしかないメッセージ,あるいは,好ましくない説得者(他大学の事務員)で論拠が5つあるメッセージを読みました。そのあと,15件法で同意できるかどうかをたずねました。

その結果がTable 2です。関与度が低い条件では,好ましい説得者で論拠が1つの時のほうが,好ましくない説得者で論拠が5つの時よりも態度変容の得点が高いことが明らかになりました。一方で,関与度が高い条件では,好ましくない説得者で論拠が5つある時のほうが,好ましい説得者で論拠が1つしかない時よりも態度変容得点が高いものの,ここには有意な差はありませんでした。この結果は,予測を一部支持する結果となりました。

※態度変容得点は,各参加者の回答から,実験参加者とは別に設けた統制群(N=125)の平均値(M=10.33)を引いた値を用いています。

まとめ

一部支持されていない部分はありますが,システマティック処理は説得内容に関係のない手がかりの影響が小さく,一方でヒューリスティック処理は説得内容に関係のない手がかりの影響が大きいという特徴を裏付ける結果でした。

この論文では言及されていませんが(というより,Petty & Cacioppo が周辺ルートや中心ルートと提唱し始めたのが,この論文の1年後の1981年くらいだからなのか),システマティック処理では,説得内容に関係のない手がかりも処理されるという点など,HSMとELMで2つのプロセスをどう仮定しているのか,その違いが見られますね。

【引用文献】