説得における順序効果 ① 関心の高い時には初頭効果,低い時には新近性効果が生じる

投稿日: Aug 12, 2016 5:37:57 AM

説得研究の大半が1方向1回きりの説得場面を設定している中で,2つの異なる唱導方向に説得を行う場面に注目した研究がごく少数あります。特に,順序効果に関する研究は,今回紹介する論文の第一著者であるHaugtvedtが精力的に研究をしています。今回は,1994年にJournal of Consumer Research に掲載された,説得における順序効果についてELMの観点から検討した論文を紹介します。

現実場面では1つの物事に対して異なる唱導方向のメッセージを受け取ることのほうが多い

これまでの説得研究の多くが,ある1つの問題や商品について1方向1回きりの説得を行う方法を用いていました。マルチメッセージパラダイムの研究でも,ある1つの問題や商品について,同じ唱導方向の複数のメッセージを提示するという方法が用いました。しかし,現実の消費者行動場面を見ても,1つの問題や商品について異なるメッセージを受け取ることのほうが多く,先行研究で検討されてきた実験状況は稀です。

初頭効果 vs. 新近性効果

これに関する初期の研究のLund (1925) では,関税を支持or 支持しないメッセージを読ませたのち,最初に読んだメッセージと反対のメッセージを提示しました。その結果,最初に提示されたメッセージのほうが最終的な態度への影響が大きいことを示し,これを「説得における初頭の法則(law of primacy in persuasion)」と言っています。その何年間後に,Hovland and Mandell (1957) では,primasy-recncy パラダイムを用いた一連の研究を行っています。しかし,説得題材として関税を用いた場合には「初頭効果」が,原子力潜水艦を用いた場合には「新近性効果」がみられ,「初頭効果」と「新近性効果」のいずれが優勢であるかを結論づけることができなかったのです。ただ彼らは,著書の最後に「なじみのないものだと初頭効果,慣れ親しんだものであれば新近性効果が生じる」という仮説を立てています。

その後,Lana (1957) はHovlandらの仮説を検証する実験を行いました。しかし,Hovlandらの指摘と反対に,親しみのある問題で初頭効果が見られ,親しみのない問題で新近性効果が見られました。それ以降の研究でも同様の結果が得られています。Lanaの知見は他の研究者へ反響を呼んだものの,理論的な枠組みが欠けているとの指摘から,これに関する研究は1960年半ばには減少していきました。それ以降は,初頭効果あるいは新近性効果を支持する論文がいくつか報告されるくらいになってしまいました。

態度の強度と記憶との関連

メッセージの順序効果の研究の一つの意義として,態度の強さ,すなわち説得への抵抗の程度を検証できることが挙げられます。最初のメッセージを受けて態度変容が生じたならば,次に反対方向の説得を受けたときの変化量を最初の説得で形成された態度の強さの指標としてとらえることができるだろう。この態度の強さの観点は精査可能性モデル(ELM)に由来し,Haugtvedt & Petty (1992) では,認知欲求の高い時のほうが最初に受けた説得の態度が強いことを示しています。つまり,精査可能性が高い時のほうが,態度が強固であることを示しています。この知見から考えると,初頭効果は最初の説得の態度の強さ(抵抗が大きいこと)による可能性があり,新近性効果は最初の説得に対する態度の強さが弱いことによって生じている可能性があります。

もしそうであるならば,初頭効果はメッセージに対する動機づけが大きいときに生じると予測されます。一方で,新近性効果は動機づけが低いときに生じると予測されます。これは,たとえば最終的な態度として直近に提示された情報を使うため,2つ目のメッセージの影響が大きくなると考えられます。メッセージの論拠に対する記憶がすべての順序効果を説明できるのではないけれども,最近の研究では,これが精査可能性が低いときにおける態度変容に重要な役割を果たすことが示されています。一般的に,再生率の高さは精査の度合の高さを反映しています。ただし,精査可能性が低い条件では,質問に答えるまでに完全に意見が形成されておらず,態度の質問に反応をする時にメッセージの内容を引き合いに出すと考えられる。その一方で,精査可能性が高い条件では,同時にメッセージの評価や意見が形成されると同時に態度が形成されています。この説明が正しければ,精査可能性が低い時にはメッセージの内容(2つ目のメッセージの論拠)と態度に正の相関関係があるだろう。その一方で,精査可能性が高い時には2つ目の論拠と態度は関係なくなると予想されます。

本研究の仮説

仮説1A: 精査可能性が高い場合には初頭効果を示す(賛成―反対のほうが反対―賛成よりも好ましい態度が形成される)

仮説1B: 精査可能性が低い場合には新近性効果を示す(反対―賛成のほうが賛成―反対よりも好ましい態度が形成される)

仮説2A: メッセージの順序は精査の度合が高い条件のほうが低い条件よりも認知反応の影響を受ける,つまり,精査の度合が高い条件では,賛成―反対の順のほうが,反対―賛成の順よりも認知反応が大きくなる。一方で,精査の度合が低い条件では反対の結果になる。

仮説2B: 精査可能性が高い時は,2つ目のメッセージへの反論が多くなる。一方で,精査可能性が低い場合にはその反対になる。

仮説2C: 精査可能性が低い場合のほうが高い場合よりも,最終的な態度と2つ目の論拠の再生との間に正の相関関係がある。

実験1

大学生55名は,無作為に2 ( メッセージの順序:賛成―反対, 反対―賛成) × 2 ( 個人的関与度:高/低 ) の4つの条件のうち1つに割り当てられました。そして参加者は,卒業試験の導入に関する,賛成のメッセージと反対のメッセージを読みました。それぞれ,論拠は5つずつあり,420 wordsでした。関与度は卒業試験が来春から導入される(高関与)か,2年後に導入される(低関与)かで操作されました。そして,参加者は態度に関する4つの項目(11件法)に回答しました「よい―悪い」「愚かな―賢い」「有害な―利益のある」「否定―肯定」の4項目(11件法)。認知反応の測定として2分間思考リスト課題を行いました。最後に,説得の論拠について書き出させました。

その結果がFigure 1です。精査可能性が高い場合には,賛成―反対の順のほうが反対―賛成の順よりもより肯定的な態度を示していました。これは初頭効果が見られたことを示しています(仮説1A支持)。一方で,精査可能性が低い場合には,反対―賛成の順のほうが賛成―反対の順よりも肯定的な態度を示していました。これは新近性効果が見られたことを示しています(仮説1B支持)。

続いて認知反応について,被験者が説得メッセージを読んでいる最中にリストアップしたものを2名のコーダーがポジティブ,ネガティブ,ニュートラルに分類し,さらに2つ目のメッセージに対する反論かどうかを判断しました(一致率80%以上)。精査の度合が低い条件では,メッセージの順序によって認知反応に差がなかったが,高い条件では賛成―反対の順(X = .246)のほうが反対―賛成の順(X = .165)よりも認知反応の数が多かった。ただし,これらは交互作用もその単純主効果も有意ではなかった(仮説2A不支持)。また精査の度合が高い条件(X = .65)では,低い条件(X = .33)よりも2つ目のメッセージに対する反論の数が多いことが明らかになりました(仮説2B支持)。さらに,再生率と態度の関連について調べたところ,精査の度合の高低によって再生数に差がなかったにもかかわらず,再生数と態度の相関は精査の度合が低い条件では有意で(r = .48),高い条件(r = -.33)では有意ではありませんでした(仮説2C支持)。※1

実験2

基本的には実験1と同じ実験デザインと手続きを用いて実施されました。実験2では大学生137名の商学部の大学生が参加し,原子力発電について賛成か反対かというメッセージを参加者に読ませました。メッセージはいずれも7つの論拠があり300 wordsで構成されていました。関与度は近くの都市の原子力発電に関するものか遠くの都市の原子力発電に関するものかで操作されました。

その結果,実験1の結果が再現されました。つまり,関与度が高い時には初頭効果が見られ,低い時には新近性効果が見られました(Figure 2)。さらに,実験1では有意な効果は得られなかった認知反応について,実験2では関与度が高い時には賛成―反対の順(X = .332)のほうが反対―賛成(X = .209)の順よりも有意に好ましい反応が生成されているという結果が得られました。さらに,2つ目のメッセージに対する反論も,精査の度合が高い条件のほうが低い条件よりも多くなっていました。最後に,再生数と態度の相関は精査の度合が低い条件では有意な正の相関がみられ(r = .34),高い条件では有意な負の相関(r = -.29)が見られました。※2

広告への応用 両面提示との違いに注目して

消費者研究では,一面提示よりも両面提示のほうが説得の効果が大きいことが示されています。受け手が許せる程度のネガティブな情報はむしろ情報の信頼性を高めるといいます。この点について,本研究の結果を踏まえて考えると,関心の高い商品の広告については,先に同意を求める情報を出したほうが好ましいと判断される可能性が高く,一方で関心の低い商品であれば後に同意を求める情報を出したほうが好ましいと判断されやすいと考えられます。ただし,Pechmann (1922) らは,説得における順序効果はそもそも2つの情報の情報源が異なるが,両面提示の文脈では情報源は1つであるという違いを指摘し,このように情報源が異なるからこそ,順序効果が生じるのだと述べています。これに対し,著者らはたとえ2つの異なる情報源が必要だとしても,2種類の広告を作ることや,同じ広告の中で別の人がコメントするような形をとるなどの方法をとればよいと提案しています。

【引用文献】

※1 有意傾向はある。

※2 反論数を統制すると非有意になる。