③札響、英国公演と娘

34号 平成15年3月発行

あの日から、早一年の月日が過ぎようとしている今日此の頃、 背中がぞくぞくする思いで日を送っていた事を、あらためて思い出す。

昨年11月1日の早朝、新千歳空港ロビーに、不安な顔で佇む私達夫婦がいた。

ほどなく、その場の緊張した空気を突き破るように、国際線到着口から、 娘が元気な姿をあらわした。何かとお世話下さったと思う、同行のS夫人と一緒に大きな荷物を持って、にこやかに笑っていた。

米国中枢同時テロ事件から続いていた私達夫婦の肩の荷が、 一瞬の間に軽くなったのを感じた。

札幌交響楽団の40周年記念事業として、 10月に英国公演が予定されていた。札響会員である娘が、ロンドンへ演奏を聴きに行くと、 春頃言い出した時、勤務に支障が無いのならと承諾した。 まさかその後ニューヨークで、 あんな事件が起きるとは夢にも思っていなかったので。

団体ツアーが中止になり、日を追って情勢は厳しくなっていった。そんな中で個人でも演奏を聴きに行くという娘に、 一度言い出したらなかなか意見を曲げない、日頃からの娘の性格について、

「父親そっくりなんだから・・・」

「半分は、母さんの娘でもあるんだぞー・・・」

こんなセリフを何度繰り返した事か。

10月27日、ドイツに三年程滞在された経験のあるS夫人と、二人きりで娘は出発して行った。

その後の毎日は、私より夫の方が心配をあらわにして暮らしていた。

ロンドン公演が成功したというテレビのニュースや、新聞記事を見て、 何事も無かったと知り、ホッと胸をなでおろした。 でもその後、テレビのニュースで、ロンドンにアルカイダのテロが十数人居るらしいと伝えているのを聞き、又々ぞっとしたりした。

炭そ菌によるテロ被害も広がっていた。 我が娘の無事ばかり望んでは申し訳ない思いもしていた。

貿易センタービル・炭そ菌の犠牲者のご冥福を心からお祈りしたいと思う。

二十一世紀の幕開けの年に、世界中を震撼させた事件に、我が家が関わる事になろうとは信じられなかった。

大変な年も無事に新年を迎えられた今、遠く離れ住む私達はあんな事件があった事を忘れかけて 、又、元の平凡な日常生活を送っている。

しかし、今も世界のあちらこちらでは、 テロにより罪の無い人々の生命が失われている。

どうして同じ地球の人間同士、 平和に暮らす事が出来ないのだろうか。誰彼に問い質したいおもいがする。