ヌ. 姑になる心得

人並みに、ようやく姑(しゅうとめ)になる事が出来た。息子がいるので何時かは姑の立場になるとは、思い暮して来たのではあるが。

早い人なら40代で姑になっている。友人、知人との話が孫の話になると、いい年になり孫のいない私。

ましてお嫁さんもいないとなれば、少々悔しい思いをしたものである。

30を過ぎてしまった息子に、こちらがあせったりもした。やっとお嫁さんが決まり、この程結婚してくれた。 無性に嬉しく浮浮と暮らしている。

こんな私に夫は水を浴びせる。

「お嫁さんには気をつけて話をしなくてはな。姑の一言は針千本という事だぞ。」と針ならぬ釘を差す。

センダイハギ

「でも私は姑さんと同居の経験があるから、うまくやれると思うけれど。」

「こればかりは、経験してもだめらしいな。」

と夫は言う。私はその時、亡き姑との長い年月にわたる葛藤の日々を思い出した。私は姑という文字も、立場も好きではなかったはずだ。こんなに浮かれて良いのだろうか。

そんな私が、息子夫婦の所へ引越しの手伝いに行った。何かとお嫁さんが気を遣って「おかあさん!、おかあさん!」と言ってくれる。どこやらがむずがゆい思いをしながら嬉しくなってしまった。

二人で仲良くスーパーのカゴを持って、広い店内をあちらこちらと、新世帯の買物をして居る。長い時間が掛りそう。私は、それをベンチに座り、じっと眺めて居た。

(1986年12月)