⑲娘の気持ち

北海道自分史友の会「会員作品集」掲載 2015年11月発行

平成27年の春、義妹の法要があってひさしぶりに東京へ向かった。飛行機が大好きな娘と苦手な私のふたり旅である。「日がくれないうちに東京へ着くようにしたい」という娘の希望で、私はいやいや同調してしまった。乗ったと思ったらあっという間に着いてしまった。これならたびたび乗る人はやみつきになるはずだ。

私の夫は弟とふたりきりの兄弟だった。義弟は三年前になくなり、私より三歳下の義妹も亡くなってしまったので、その後東京へ出かける機会はなくなり淋しく思っていた。

それだけに今回の東京行きは久しぶりで、法要とはいえどこか胸がはずむ思いがあった。

法要が終わり、新橋のホテルに一泊した。翌日、夫の若い友人夫妻が尋ねてきてくれた。しばらく歓談したあと、羽田へ向かう私たちを駅まで送ってくれることになった。

友人の奥さんが私の腕をがっちり支えて、人波を避けながら歩いてくれた。私は足が具合悪いわけではないし、ふだんそんなことをされたことがないので、かえって歩きにくかったが、好意を無にすることも失礼かと思って、甘えるようにそのまま歩き続けた。少し離れて娘がじっとそのようすを見ていた。

電車に乗ってふたりきりになると、娘は云った。

「かあさんはああいうふうにしてほしかったの?」

私はちょっとびっくりしながら、

「いやぁそんなことないよ。かえって歩きにくかった……」

と、答えた。そう答えながら私は、娘がなぜこんなことを聞いてきたのだろうと気になっていた。

その夜、私はその友人の家に電話を入れた。介助していただいたお礼がすらすら出たが、歩きにくかったなどとはとてもいえなかった。奥さんのほうが、

「かえつて歩きにくかったんじゃないですか。実は私の母がペースメーカーを入れていたので、外出の時は腕をがっちり組んでいたんです。それがすっかり習慣になってしまって……」と逆に恐縮されてしまった。その気遣いにあとから私が恐縮してしまった。

そしてきかん気の娘でも、ひとさまに母親が介助されているのを見れば、やはり気になり心穏やかでなくなるのかと、ちょっと微笑みがこぼれ嬉しくなった。

カワセミ

カワセミ