キ. 私は十勝人

札幌から乗車した特急の指定席の窓側が空席だった。

誰か乗ってくるなと思っていると、千歳空港駅から若い女性が座った。

列車が大きくカーブして少し走った頃、通路をへだてた席の家族らしい4人組が、小さな牧場を見ながら「まあー広い!」「すごく広いわねえー。」と感嘆の声をあげているのを聞いた私は、隣りの女性に「どちらからですか?」と、はじめて話しかけた。

OLのように見えるきれいな女性は「神戸からです。初めての北海道なんです。」と答えたのを皮切りに、トマム駅でその女性が降りるまで話し通しとなった。

御主人が出張で一足先に来ているので、トマムで落ち合い北海道旅行をするという事で、かなりの認識はあるらしかった。

私はトマム迄なら山ばかりなので、後30分足をのばして、御主人と是非十勝平野を見てほしい。

一番北海道らしい風景だからと、誰に頼まれもしないのに力説した。

レンプクソウ

その女性は、明日富良野へ出てラベンダーの花を見てから、旭川へ行く予定と話した。

お土産には友人達からお金を預かってきた「夕張メロン」を買い求める。自分の為には「わかさいも」を買いたいという。

そして北海道で一番見たいものは「流氷の海」という。

本州人が北海道に期待と要求するものが、これで全てとは思わないが、パート勤めをしているという若い女性の代表として、これらも参考になるのではと考えながらも、クイズの解答ではないが、「それはないんじゃない私の住む十勝が全然出てこないのは変ですよ。」と心の中でつぶやいているうちにトマムに着いた。

(1992年7月)