ア. 国際車掌

青森駅を出発した特急「ゆうづる」は進行方向が変わり、先頭車だった夫と私の乗っている車輌が最後尾になった。

少し走った頃、4年前に遭遇した列車事故の現場近くを通った。その日の事を思い出して一寸いやな気分になった。

検札の車掌が入ってきて、切符を調べ始めていると、

外人青年が追いかけてやってきた。

「ワタシ、サッポロヘイキタイノデスガ、コノレッシャイキマスカ?」と車掌を問いつめている。

ああ逆戻りしたと感違いしているのだと私は思う。

「・・・この列車は函館でチエンジし・・・北斗11号が札幌へ行きます・・・。」

車掌は、適当に英語をまぜて必死に答える。先ず進行方向の事と「ゆうづる」が函館行なので、その先が心配らしい。車掌は盛んに「チェンジ。チェンジ。」をくり返す。

おせっかい屋の私は夫に小さい声で「私達も北斗11号に乗り替えるのだから、案内してあげようか」「でもこの外人さんは離れた列車かもしれんぞ」と夫。ああなる程と私。

やっと納得したらしい外人青年が自分の列車へ戻った後、車掌は私の顔を見てニヤッと照れ笑いをした。私も笑顔を返した。

次に車掌が入ってきた時は、キリッとした職業顔に戻っていた。そして

「オリジナル、オレンジカードは如何ですか?」と売りはじめた。私はすかさず一枚買っていた。乗りやすい人間だなと思いながら。

(1992年5月)