ト. 男と女

こんなテーマで文章を書いてみようと、少し前から考えていた。映画の題名のようで、甘い恋物語かと誤解されそうだが、私にはそんなロマンチックな文章は書けない。

ある日、街の中をぼんやり歩いていた私は、一様に同じ服装をして自転車に乗っている小学生の一団を見た。男の子達であった。眼の前をその子達は猛スピードで通り過ぎて行った。人を轢くような事はないだろうが、お年寄には気をつけてほしいものと、ふっと思った。それにしても、女の子達のこんな集団行動は、あまり見かけることはない。

自分も女の一人として、これは今更ながらの事だが、男と女では根本から違っているのでは、とその時考えたりもしたのである。

ある人が「人間には男と女しかないが、全然人種が違うのではないかと思う事が沢山ある。」と話しているのを聞いた事があった。

気を付けて見ると、男には小さい時から仲間意識というものがあり、他人には負けたくない気持ちを持ちながら、常に大勢で行動する事が多い。

それに引き替え女の子は、一人か二人の親友を作り親にも言えない事を語り合い、それが高ずると友の悩みに同情して、手に手を取ってビルの屋上から飛び降りてしまう、などというところまで行ってしまう事がある。

男の子が、友達と同調して心中などする事は先ず考えられない。何年か前に、また最近も度々あるようだが、年少者の自殺も男の子の場合は殆ど一人である。

女の子は、根本的にやさしいからと言えばその通りだが、そのやさしさと共に、自分の殻の中に深くとじこもってしまうのではないだろうか。

暗い事ばかりになってしまったが男の子と女の子が成長して一人前の大人になった時には、歴然とした違いがでてくる。

男は殆どの人が、勿論生活の為であるが、集団の中の職に就く。そして出世したい気持ちを隠して、日夜コツコツと仕事一途に遭進する。そして人生の大半を一つの職場で過ごし、定年となって家庭に入ってしまうと、その時には疲れ栗てているようである。

女は、結婚後もそれ迄の仕事を続けて行ける人は少ない。たとえ、パートなどで働いても、主婦業が源にあるので、まず家庭第一主義である。

ところで、昔から戸主である男主人が一国一城の主と言われてきたが、はたしてそうであろうか。

そうではない。それこそが女だと私は思う。家庭のきりもりをしているのは、ほかならぬ主婦だからである。

日常生活、家族構成は似かよっていても、どれとして同じ条件の家族は無くそこに占める主婦の位置は実に大きい。

男は大勢の中の一人として一生を終り、女は最初から終り迄一人である。

だから、妻に先立たれた夫は、まして仕事も無くなった状態では、生ける屍である。

しかし女は、たとえ未亡人になっても、はじめから一人なのだから生き抜いて行く力が備わっている。そんな方達を何人か見たり聞いたりしている。

やはり男と女は人種が違うのではないだろうかと、私は考え込んでしまうのである。

(1983年7月)