ル. 二人きりの正月

結婚して30数年、はじめての二人きりの正月を迎えた。いつも二人で暮らしているのにとは思うが、矢張り正月というと何かが違うもののようである。

本来ならば、水いらずならぬお嫁さんも含めての五人で、賑やかなお正月を迎えるはずであったのだが・・・。

暮の30日には、若夫婦と娘が息子の車で札幌から来る予定になっていた。

28日の夜の電話で、お嫁さんが風邪で熱を出したと知らせてきた。そして行くのが少しのびるかもしれないとの事だった。

それから一日のばしになった。「無理をしないでね。」と言いながらも、ああ五人で食べるつもりで揃えた沢山の食物はどうしたらいいの、という思いが頭をかすめた。

二人だけと思うと、もうそれはひどいもの。食物はともかくとして、年一度使う雑煮のお椀や重箱、おとその器具なども出すのをやめてしまった。

律儀な夫は、不満顔で食べて居る。結婚してからはいつも姑と弟が居たり、其の後は子供二人も加わり二人だけの正月はなかった。

私の顔との付き合せで、例年のような元旦の抱負や願いをこめた演説も出てこない。

形ばかりの雑煮などの祝膳がすんだ頃、「おめでとうございます。順子です。御心配をおかけしましたが良くなりました。あしたの朝に熱が出なければ、そちらに行きます」と、思いがけないお嫁さんの元気な声が電話で届いた。「無理をしないで。」とまたしても同じ事をくり返しながら急に嬉しくなった。

夫も急に張り切り、あれこれお嫁さんに注意をしている。

さあ!大変な事になった。掃除も半端、座敷も物置場になったままである。先ず目立つ所をきれいにし、座敷を片付け、三人分の寝具を全部出して揃えた。冷凍した食品を食べられるように用意もした。

くたくたになって布団に入った元旦の夜は、複雑な気持で仲々眠れない。はじめて我が家にお嫁さんを迎えるのである。年末には気を張って片付けたり掃除をしたりしていたが、来られないかもとなると、急に気がゆるみ途中でやめてしまった。そして今大あわてしている自分におかしさが、こみ上げてくる。

2日の昼過ぎに、三人の元気な顔を見たが、4日はどうしても用事があり一晩だけですぐ帰えるという。娘も仲良く付き合うとの事。

それからの約24時間は、はじめて嫁と姑のむずかしい感情の行き違いをちょっぴりあじわったり、嬉しい事があったりのあわただしい一日であった。

(1987年1月)