ユ. 初めての運動会

札幌の4歳の孫の朝美が幼稚園に通いはじめて半年、初体験の運動会を迎えようとする頃、私は孫にはがきを出した。

二人の子供がかけっこをしている絵はがきに、少し読めるようになったひら仮名で大きく書いた。

いつもならすぐに電話で孫が「ありがとう」といってくる。それが何日たってもうんともすんともいってこない。

運動会の前日に、夫と私は出かけて行った。息子がそっと「日頃活発な孫が、日を追って落ち込んでいる。」という。

「私はそんなに早く走れないから・・・。」と友達とくらべては、小さい声で話していたという。

そこへ私のはがきが届いたのだった。「この絵のようには、がんばらなくてもよいけれど、運動会は、がんばってね」と、何もしらずに追いうちをかけてしまった。

運動会の話は禁句にした。

当日、場所取りを終え食事後、夫と息子に手を引かれ、一足先に朝美は出かけていった。

昼の弁当を女3人で作り「さあー始まるからそろそろ行きましょう。」と言っている所へ、息子が朝美を連れて戻ってきた。

「どうしても門の中に入らないんだよ。」

と、べそをかいている朝美を見ている。

旗のかざり付けと、いさましい音楽に身が縮んでしまったのか?

「主役の居ない運動会に行ってもねえー。そうだ一緒に朝美も見学しよう。」と皆で連れ出して行った。

さすがに先生の力である。朝美は気をとり直して元気にかけっこなどに出場した。

離れて居ると我が子でも、最近の心の動きは分からない。ましてや孫となれば・・・。

(1992年11月)