チ. コルチカム

待ちに待ったコルチカムの芽が出て来た。この花の名前をおぼえるのに随分暇がかかった。

この花を一株私にくれた奥様に、何度も聞いては忘れてまた聞き、メモ用紙に書き取って常に身近に、たとえば手提袋に入れておき、外出の時でも出して眺めやっとおぼえた名だ。

これほ不思議な花で春は、スズランかアイヌネギに似た葉をこんもりと繁らせる。

夏の終りにはその葉が全部枯れてしまう。そして今頃ホワイトアスパラの頭のような芽を出して、それがぐんぐん伸びてうす紫の百合のような可憐な花が上向きに咲く。

コルチカム

一昨年前まではあちこちの家で一せいにその花が咲き出したのを見て、ほしいとは思っていたが、花が咲く迄にそんなうつり変りがあるとは、全然知らなかった。花はこの世に何千いや何万とあるだろうが、こんな珍しい咲き方をする花が外にもあるのだろうか。

我が家では、花も野菜も夫が植え付けから手入れ迄殆どするが、よそから頂いてきたり交換するのは私の役目である。そしてその後は何だかんだと注文を付けるのも私である。

活け花をしている人が、或る時、この花の事だと思うが「一般に、花に葉無しともいわれている花があるが名前がわからない。」と言った時、私はすかさず「それはコルチカムというんですよ。」といばって言ったが、果たして、本当にコルチカムの事だったのかしらと、後で考えたものである。真相はわからない。

(1985年8月)