シ. 小さな個室

どうしてこんなに簡単なことを、もっと早く考えつかなかったのだろう。

1、2月の厳寒期には、たとえ2、3日でも家を空けられないと考えていた。

正月の温泉行きも、札幌へ孫の顔を見に行く事も、ボイラーのないわが家なのであきらめてきた。

水道は落として水抜きをすれば、今の家ならなんでもない事。ただ一つ、夫が大切にしている植物の鉢が数個あるために空けられなかった。

それが今年の正月過ぎ、よん所ない事情で家を無人にする羽目になった。

夫と私は、

「植木鉢はお隣に預かってもらうのが一番いいよ。」

「いえ、ハイヤーで図書館へ運んでお願いしようか。」

「それとも、前のようにムロの中へ入れておいたら。」

「日が当たらないから、変になっただろう。ダメだ。」

という具合に植木鉢の処置について話し合った。

夫は、これはどうかな、とふろ場に小さなパネルヒーターを置いて、一日中の温度を計り、観察のため鉢を一個置いてみた。

そのパネルヒーターは寒中にトイレで使用してきたものである。

私の頭にぱっとひらめきがきた。夫に私は、

「トイレの方が狭いので暖房効果はあるんじゃない。」

というと、夫は考えもつかなかった顔で、

「そうだなあー。だが全部置けるかな。」

そこで早速その晩予行練習をした。小さい鉢類は壁ぎわに置き、大きな鉢二個は台をして洋式の便座の上に置くことにした。

翌朝、トイレの方が良いとの結論が出た。

わが家で一番小さな個室である。

さあーこれで何の心配もなしに、どこへでも出掛けることができるというものだ。

(1993年3月)