ネ. 外人とおばさん

ある日、私は野幌に居る息子の家へ行く為札幌駅のホームに居た。次の発車予告の出ている所へ入って来た列車は、「札幌行」の標示のままずっと停車していたが、私は車内に乗りこんだ。

端の方の横に向かい合う長い座席にすわった。大人にまじって、中学生、高校生も居る。そこへ発車間際に二人の外人女性が乗って来た。

すぐに向かいの席の中学生に、一人、また一人と何か問いかけている。その中学生達は二人共首を横にイヤイヤをするように振っている。

くるっと、こちらを向いた外人女性達は、何とこのおばさんの私に近づいてくるではないか。私は覚悟を決めた。勿論会話は出来ないと思うので「ノーノー」とでも言えば良いと目を合わせた。はじめの言葉は聞きとれなかったが、

「シンリンコウエン!」と語尾の上がった発音で問いかげてきた。

「はい、行きますよ。」とうなずきながら、私は頭を縦に振った。

シャジクソウ

安心したらしい二人の女性は、車内の奥の方へ歩いて行ったり私は向かいの見知らぬ中学生達に、

「森林公園駅へ行くかと聞いたらしいわね。」

と言うと、二人は「ウン、ウン」とうなづいた。

私の隣に居た女子高生は甲高い声で

「英語かと思っちゃった!」というので私は

「英語のわからないおばさんが返事をしてしまったわねえ。」と周りの大人達と笑ってしまった。

やがて森林公園駅に到着した。

二人の中学生と隣りの女子高生も降りていった。私は伸び上がって大勢の乗降客を必死に見た。一段と背の高い二人の外人女性の姿を見付けて、私はホッとした。

(1989年8月)