ム. 突然クラシック

音楽には殆ど関心がなかった夫が、最近クラシック音楽を聴くようになった。退職して三年経った夫の大きな変身の一つである。今一つは検査のために言い渡され、その後半年続いている禁煙がある。

古いラジオが故障した。冬期間で退屈していた夫は、この際に新しくとカタログを沢山集めて来て、一人で決め注文した。

CD付きのダブルラジカセとは聞いていたが、届いたのは最新型だった。夫も私も、CDなるものにさわった事もない。

子供達に「余っているCDはない?」と電話したが、

「余っているものなんてあるわけないでしょう。」と冷たい返事だった。そこで近所の家から何枚かクラシックCDを借用した。

夫は「ホ短調とは? 二短調って何だ?」と聞くが、私にしても音楽は好きというだけで、正式には勉強していない。

他の音楽用語と共に辞典で調べて紙に書きならべた。

CDの取扱いの手軽さやラジカセの珍しさもあり、夫は片っ端からクラシック音楽をかけては「これは良い曲だ。」「これはたいした事はない。」と批評する。

どんな基準で決めるのかと聞く私に「感じだけだ。」と答える夫。

FM放送もたまに聞いている夫に、今までは足を運ばなかった生の音楽鑑賞を是非体験したらとすすめている。その時、どんな感想をもらすかと楽しみにしている。

(1990年7月)