第3ユニット 連続研究会「自然と共生―その表現形態」第2回

連続研究会「自然と共生―その表現形態」第2回

 7月26日、東洋大学白山キャンパス6号館文学部会議室にて、第3ユニット研究会が開催された。これは、「自然との共生―その表現形態」というテーマのもと、共生概念を芸術や美術といった具体的な表現形態から探ろうという企図のもと開催されている研究会であり、金子智太郎氏(東京藝術大学助教)による「同調の技法:デヴィッド・ダンのサイト‐スペシフィック・ミュージック」という発表がなされた。司会は長島隆研究員、コメンテータは伊東多佳子客員研究員(富山大学)が務めた。発表者による要旨は以下の通り。

デヴィッド・ダン(David Dunn, 1953-)は環境音の聴取という活動を通じて音楽と科学を結びつけ、実践的な環境保護運動の枠組みを提案したことで、国際的な評価を受けている作曲家である。本発表は彼が1970-80年代に作曲したサイト‐スペシフィックと称される初期作品を対象とする。この作品群を1960年代以降のアメリカ現代音楽のポスト・ケージ的(Post-Cagean)展開に位置づけながら、同時代の現代美術とこれらの関連も考察した。第1節では、ダンおよび同時代の作曲家のサイト‐スペシフィックな作品を概観し、その成立の背景と多様な手法を確認するとともに、ダンの手法である「同調(entrainment)」の特徴を明らかにした。第2節では、60-70年代にダンに大きな影響を与えた作曲家、ハリー・パーチ(Harry Partch)の「身体主義(corporealism)」とケネス・ガブロー(Kenneth Gaburo)の「作曲言語学(compositional linguistics)」を取りあげ、ダンの同調という手法の成立の背景を考えた。第3節では、ダンがサイト‐スペシフィックな作品を手がけるきっかけとなったランド・アートの作品との比較を通じて、現代美術におけるサイト‐スペシフィシティの文脈を参考にダンの手法を再考した。ここで主張したいのはダンの初期作品における録音の重要性であり、それをロバート・スミッソン(Robert Smithson)のランド・アートにおける鏡の役割と比較した。結論では、まずジョン・ケージ(John Cage)が作曲の手法としての録音の働きを高く評価していたことを確認した。それをふまえて、ダンの初期作品をアメリカ現代音楽における録音の利用をめぐる重要な展開のひとつとみなす解釈を提案した。 

発表後、伊東氏が、とくにロバート・スミッソンについて、スライドを提示しつつ30分ほどのコメントや発表者への質疑を行い、自然との共生に関する議論を深めた。10名程度の参加者のある密度の濃い研究会となった。