第1ユニット 第4回研究会報告

東敬治と井上円了

第1ユニットの第4回研究会が、12月21日に東洋大学白山キャンパス第2会議室で開催された。発表者は吉田公平研究員で、題目は「東敬治と井上円了」であった。吉田研究員は儒学の系譜から明治期の思想を見ていくことの重要性を指摘した。発表要旨は以下の通り。

明治期に活躍した思想家は、江戸時代末期に生まれた者たちであった。当時仏教思想が低調だったこともあり、彼らの思想的バックボーンは儒学であった。それ故、明治期の思想・哲学を理解するためには、儒学の影響を見過ごすことはできない。また、儒学が西洋思想の受容に果たした役割も大きい。三島中洲がJ.S.ミルの功利主義を義利合一説の立場から受け入れたということや、キリスト教を説明する言葉を提供したといった点からも、西洋思想受容に果たした役割の大きさを窺い知ることができる。また、西洋の言葉を日本で翻訳して作った漢語はそのまま中国で受け入れられるなど、漢籍での国際的なつながりといった点も重要である。

さまざまな儒学者のエピソードを交えて展開された吉田研究員の発表と、その後の質疑で明らかになったのは、豊かな伝統から哲学的な思考が生育したということである。西洋から輸入されて突然哲学が始まったわけではないのだ。だが同時に、例えば西田幾多郎の哲学の根本テーマが「実在」であったことからも分かるように、仏教や儒学では中心的ではなかったテーマが、西洋哲学の受容によって浮上してきたのも事実である。伝統からの連続性と、伝統との断絶、その両者に目配せをしながら明治期の哲学を扱うことが求められるのである。興味深い提題と活発な討議によって、充実した研究会となった。