ウェブ国際会議「理性と経験―スピノザ哲学の方法―」

2014年10月11日(土)東洋大学白山キャンパス8号館7階特別会議室において、4回目となるウェブ国際会議が、「理性と経験―スピノザの方法について」をテーマに開催された。この会議は日本とフランスをインターネットで結んで行なわれ、フランス高等師範学校リヨン校のピエール‐フランソワ・モロー氏が参加した。そして日本側からは、特定質問者として東洋大学国際哲学研究センター客員研究員の大西克智氏、同じくセンター客員研究員の渡辺博之氏、日本学術振興会特別研究員の藤井千佳世氏、そして司会に同センター長の村上勝三が参加した。今回の会議では、日仏の同時通訳がつき、来場者は、スクリーンおよびモニターに現れた会議空間を見ながら、レシーバーを通じて2ヵ国語を同時に聞くことができた。

会議は、司会の村上研究員による会議の概要およびモロー氏の業績の紹介から始まった。モロー氏は、スピノザの初期の著作『知性改善論』冒頭部分の分析から、スピノザ哲学における共同の生という経験の次元が、哲学的な探求の出発点として重要であると論じた。例えば、人は、快楽、名誉、富という三つの経験的な善を追求する中で、それらが結局は滅びてしまうという失望に直面するが、しかしそれこそ最高善へと向かう探求の契機となり、経験との結びつきをもたらすのだと、モロー氏は述べた。  

これらの議論を受け、日本側から三つのコメントが寄せられた。まず、藤井氏は、モロー氏が『知性改善論』において共同の生と知の欲望という探求の出発点の違いを強調しているが、それがどのような倫理的な射程の違いを生むのか、そして死の観念は、『エチカ』における「善―悪」概念の展開を考慮したとき、どのような意義を有するか、『知性改善論』における内在主義(最高善へと向かう道程)と、『エチカ』における内在主義の違いはどの点にあるのかという三つの質問を提示した。そして次の渡辺氏の質問も、この道程において、『知性改善論』のすべての可能な読者が、三つの善の性質に関する反省的な考察に導かれると考えてよいか、そしてその経験において、「経験」という語がある一義的な意味を持つのであれば、その一義性は、いかなる根拠に基づいているのかという二つの質問をした。

そして最後に大西氏は、デカルト研究者の立場から、モロー氏の述べるデカルトとスピノザの親近性の否定について、再考する余地があるのではないか、「善」の概念が人間の意識に先行しなければ、「(哲学的な)回心」も起こりえないのではないかという質問をした。  

その後、モロー氏の三人の問いへの応答において、活発な議論が展開した。時差の関係から土曜の夕方に開催されたウェブ国際会議であったが、学内外から多くの参加者があった。ウェブ会議という、インターネットで接続し、同時通訳で専門的な議論を行なうという企ても4回目を迎え、技術的な問題も大幅にクリアになり、円滑な進行ができた。それに応じて、非常に密度の濃いディスカッションになったと言えよう。

また、会議後にモロー氏から、「スピノザ文献年報le bulletin de bibliographie spinoziste」へ、日本におけるスピノザ研究の現状についての寄稿を提案していただいた。日本のスピノザ協会とフランスのスピノザ協会とを結びつけるという点で、この提案はとても大きな意義を持つだろう。

 なお、当ウェブ会議の原稿は、『国際哲学研究』第4号(2015年3月公刊予定)に掲載される予定である。