第3ユニット 第5回研究会

「プラシーボ効果から見た心身関係」

2012年10月31日(水)、東洋大学白山キャンパス第3会議室において、第三ユニット第5回研究会が行われた。発表者は横浜市立大学非常勤講師の石田安実氏、題目は「プラシーボ効果から見た心身関係」であった。発表の要旨は次のとおり。

偽薬や真正ではない医学的処置が患者に与えられるとき、薬理作用や真正な医学的生理学的効果がないはずであるにもかかわらず、患者や被験者に治療的効果が現れることを「プラセボ効果」とよぶ。この効果は「心的なもの」から「身体的なもの」への作用を含意するように見える。現代の物理学や医学・生理学は、「物理的(身体的)なもの」の原因は「物理的なもの」だけであるとする、「物理主義」とよばれる一元論の視点を持つが、上のように解されたプラセボ効果は、そうした視点に背く作用であるように見える。その理解ゆえに、プラセボ効果が心身二元論の根拠とみなされることが多い。

H・ブローディは、プラセボが患者や被験者に与えられるとき、患者等の側で過去の経験に基づく「条件づけ」や「期待感」によってある「意味づけ」がなされ、それが身体的な変化を引き起こし、治癒的な効果をもたらすとした。「プラセボ効果」を、患者等の側の認識的かつ身体的な「反応」であると解釈したのである。

この解釈を用いると、現代の物理主義の枠内でプラセボ効果が理解できることを示すことができる。プラセボ効果がまず意識や認識を通して身体に生化学的な変化(物理的変化)を起こし、それが治癒の物理的基盤となる身体的部位に生化学的変化を引き起こすと考えれば、「物理的なもの」だけの関係でプラセボ効果が出ることを説明することができよう。これは十分に整合的な物理主義の枠内での理解である。代替医療もふくめて、プラセボ効果が必ずしも心身二元論や「心から体への因果関係」を導くのではないことも示される。