国際井上円了学会 ハンガリー研究集会

国際井上円了学会 ハンガリー研究集会―井上円了と明治時代の日本:哲学・宗教・教育を巡って―

2014年4月24日(木)から4月25日(金)の2日間にわたって、ハンガリーの古都ブダペストにあるエトベシュ・ロラーンド大学との共催で国際井上円了学会ハンガリー研究集会を開催した。企画にあたってご協力いただいた梅村裕子氏(エトベシュ・ロラーンド大学人文学部)を含め、ハンガリーからは共催校エトベシュ大学より3人、加えて同国のカーロリ大学とドイツのチュービンゲン大学からも参加があり、東洋大学からは竹村牧男研究員を始め6人が参加し、テーマも多岐に渡った。今回は試みとして、午前中は日本語、午後はハンガリー語による発表とした。初日は「日本人の宗教生活と仏教」と題して竹村牧男(Ircp研究員・東洋大学学長)による公開講演を開催した。エトベシュ大学は創立379年を誇る古い大学で日本学科は特に人気も高いとのことで、学生を中心に多くの参加者があった。

翌日に「井上円了と明治時代の日本-哲学・宗教・教育を巡って」と題して研究集会を開催した。まずブレンネル学部長補の挨拶に続き、最初に三浦節夫(Ircp研究員)が「井上円了の生涯」で東洋大学設立や学術上の業績について詳しく紹介した。次に竹村牧男(Ircp研究員)が「明治期の仏教界と井上円了」と題し日本の仏教界に果たした円了の多大な影響、役割について発表した。続いて岩井昌悟(Ircp研究員)が「井上円了の教育と仏教」という発表の中で教育勅語についての円了の立場、意図について述べた。休憩をはさみフレデリック・ジラール(Ircp客員研究員)が「明治時代に於ける哲学と宗教学-円了の場合とその周辺-」と題して円了が哲学にも宗教にも属する仏教をどのようにとらえていたかを論じた。ライナ・シュルツァ(Ircp客員研究員)は「後期円了の良心論」という発表で円了の先天的良心論を複数の角度から述べた。続いて朝倉輝一(東洋大学法学部)が「井上円了の後期の思想について」との題で円了が晩年、修身協会でどんな具体的活動を行ったかを中心に論じた。

午後はハンガリー語による発表で、まず梅村裕子氏が「『政教日記』における井上円了のキリスト教観」で再度円了の業績を紹介し、その著作を通して欧州キリスト教の実践を円了がどう観ていたかについて述べた。エシュバッハ-サボー・ヴィクトリア氏(チュービンゲン大学日本学科)は「上田萬年と新しい言語学」として明治時代の言語学に足跡を残した上田の複合的な活動と成果について論じた。ファルカシュ・イルディコー氏(カーロリ大学人文学部)は「伝統は架空か実存か?明治時代のイデオロギーについての考察」と題し、最近の西欧における日本学で提議される明治維新の新しい解釈と評価について紹介しつつ論じた。サボー・バラージュ氏(エトヴェシュ大学人文学部)は「西洋哲学の流れを汲む明治の思想」で西周らの思想に観られる西洋哲学の影響について述べた。タコー・フェレンツ氏(エトヴェシュ大学大学院生)は「丸山真男は明治維新の『新』をどう観たか?」と題し丸山が明治維新をどう評価していたか、またそこに現れるヘーゲルらの影響や江戸後期の思想に触れつつ説明した。いずれもハンガリーやドイツにおける日本研究の水準の高さを示す発表であった。

発表後には発言に応じて日本語、ハンガリー語、英語による質疑応答が展開された。今回のシンポジウムはハンガリーであまり知られていない井上円了を紹介すると共に、テーマに導かれて東洋大学とハンガリーの日本学研究者が交流する有意義な機会を提供した。