第1ユニット 第2回研究会報告(2011年)

井上円了による『理論vs実践』というパラダイムの中の仏教思想

第1ユニットは、2011年10月26日(水)、白山キャンパス1号館1409教室にて第2回研究会を開催し、ライナ・シュルツァ客員研究員による「井上円了による『理論vs実践』というパラダイムの中の仏教思想」と題された報告がなされた。シュルツァ氏によれば、井上円了の思想は、精密さよりも視野の広さにその特徴がある。本発表では、かかる円了思想を正しく評価すべく、その思想を概括的に発表された。

井上円了の思想を表す標語として、「護国愛理」がある。「護国」は実践に関わるものであり、「愛理」は理論に関わるものとして整理できる。この両者の関係を明らかにすることによって、円了思想の意義も明らかになることになる。

「愛理」による真理の探究が護国に役立つということから、円了は護国愛理が一つであると述べる。しかし同時に、円了は理論偏重の哲学や大学に対して不満を抱いていた。真理へと向上するだけではなく、そこから実践へと向下していかないならば、それは生きた学問ではなく「死学」に過ぎないのである。

円了思想の実践的意義は、その仏教思想からも見出される。円了は、仏教において理論は煩悩を滅するための方便であると指摘した。理論は、実践のための手段でもあるのである。この関係を明らかにすることに、仏教哲学の現代的課題があるのではないか、とシュルツァ客員研究員は指摘した。「諸法無常」や「因果論」といった理論的考察から、いかに人々の安心・幸福が導き出されるのかといった問題への考察が、仏教哲学のこれからのテーマになるという見通しが語られた。

その後、円了の仏教思想の意義に関して活発な討議が行われ、円了の思想を現代に活かす方途が探られた。