第1ユニット 第8回研究会報告

「井上円了の相含論とスピノザ主義」

2013年3月14日、東洋大学白山キャンパス6号館第3会議室において、国際哲学研究センター第1ユニットは、小坂国継客員研究員(日本大学教授)をお招きして研究会を開催した。発表題目は、「井上円了の相含論とスピノザ主義」である。発表者による要旨は以下の通り。

井上円了の「相含論」は清沢満之の「有限無限論」や西田幾多郎の「純粋経験説」とともに、井上哲次郎のいう「現象即実在論」の系譜に属している。円了の相含論というのは基本的には宇宙の本体である一如と現象との間の相含(象如相含)を説くものであるが、それは同時に物的現象とその本体である物如、心的現象とその本体である心如との間の相含関係(体象相含)を、さらには物如と心如、物的現象と心的現象との間の相含関係(如々相含・象々相含)を説くものである。この意味で宇宙の本体と現象は重々無尽の相含関係にある。しかしそこでいう相含の意味も多様である。それを大きく分ければ因果関係と並行関係とに分類することができるだろう。同じく相含といっても、原因のなかに結果が含まれるという意味の相含と、結果のなかに原因が含まれているという意味の相含ではその意味内容が異なるし、物如のなかに心如が含まれ、物象のなかに心象が含まれる(その逆も含めて)という意味での相含ではその視点や力点が異なっている。

こうした関係はスピノザの哲学における実体と属性と様態の関係にきわめて類似しているといえるだろう。一如と現象との関係は実体と様態との関係に、物如と心如の関係は属性である延長と思惟との関係に、物的本体と物的現象(心的本体と心的現象)との関係は延長と物体(思惟と精神)との関係にそれぞれ対応している。またそうした関係は動態的でなければならないが、それが静態的に叙述されている点、いいかえればもともと弁証法的な関係にあるものが自同律的に叙述されているという点でも符合している。このように見てくると円了哲学とスピノザ主義は、実体(一如)の内在性、物心の並行論、体用論理的な性格、非弁証法的・自己同一性の論理等々において、あるいは何よりも宗教的自覚の論理であるという点で親縁性を有している。無論、実在を無的なものと考えるか有的なものと考えるか、不断の活動と考えるか永遠の静止と考えるか、等々の多くの相違点を含んではいるが、基本的には円了哲学はスピノザ主義の一形態であるということができるであろう。

発表の後、熱のこもった討議が交わされた。研究会には20名を超える参加者があり、盛況な研究会となった。

なお研究会の動画は、http://www.youtube.com/watch?v=n14cCpAFHJUで視聴することができる。