第3ユニット 第6回研究会報告

「自然の歴史化 環境芸術におけるnarrativeなもの」

2012年3月16日(金)、伊東多佳子氏(富山大学芸術文化学部准教授)により、「自然の歴史化 環境芸術におけるnarrativeなもの」と題する発表がなされた。

環境芸術は、自然環境を主題にして自然を素材に特定の場所に制作するものであるが、近年、その場所や風景の歴史に関わり、その物語を語るようになってきているという。発表では、アンディ・ゴールズワージーの《シープフォールズ(羊囲い)》、ディヴィッド・ナッシュの《トネリコのドーム》と《木製の丸石》を取り上げ、最新の環境芸術のありかたと、環境芸術が主題化する自然環境について考察された。

《シープフォールズ(羊囲い)》は、英国北部カンブリア州に残る多数の羊囲いの遺構を再建するプロジェクトである。それがそこに住む人々を再び風景と伝統、とりわけ牧羊の歴史に強く結びつけることで、歴史的な時間性をもつ自然と人間の関係を知るための一つの指針を示すものになっていると指摘された。

《トネリコのドーム》は、円形に植えたトネリコの木の剪定を10年ごとに繰り返してドーム状の空間を形づくる「生きた樹」による彫刻作品であり、《木製の丸石》は、木から削り出した球体を近くの小川に流して、自然環境の中を移動する様子を記録し続ける作品であり、どちらも30年以上続くプロジェクトである。それらは明らかに誕生から死までの時間の流れ、すなわち「自然の歴史性」を体現していると指摘された。

2人の環境芸術は、自然と文化の歴史が複雑に絡み合っており、それらをばらばらに切り離して経験することが不可能なことを示すものであり、現代の自然がもはや調和と秩序の中で循環する存在ではなく、死すべき運命の中に歴史を持つ人間と同じように、不可逆的な時間のうちに歴史を有する存在だということに気づかせてくれると氏は指摘された。そして、私たちは、大急ぎで自然と人間の関係に対する実際的な思索を前に進めなければならないと結論づけられた。

その後、環境芸術だけでなく現代美術のあり方についても活発な議論が交わされた。