第1ユニット 第5回研究会報告

第1ユニット第5回研究会「井上円了と日本の哲学」

2013年12月11日、第1ユニット第5回研究会が開催された。講師に国際日本文化研究センター教授の末木文美士氏を迎え、「井上円了と日本の哲学」という題目で報告をいただいた。

末木氏は、最初に、西周の哲学を特徴づけ、それに対比させる形で井上円了の哲学の特徴を取り出していった。末木氏によれば、西周は、必ずしも哲学を重視せず、従来の儒学・仏教に批判的であった。そこには、日本の伝統に対する近代的なヨーロッパの学問の優越が見られる。一方井上円了は、日本の知的伝統に、哲学と呼ぶにふさわしい価値があることを積極的に認めていた。また彼は、はっきりと哲学が他の諸学に対して優位の立場にあることを打ち出していたのである。アカデミズムの哲学が、文学部の中に埋もれていくようなその後の動向に対して、単なる専門知を越え得るものを哲学に見ていたのが、井上円了なのである。

井上円了は、日本の伝統、特に仏教を、哲学と同じように真理を究明するものとして考えていた。このように哲学と仏教を捉えるとき、彼が書いたものを見る限り、仏教と哲学の区分が曖昧であるという問題点を抱えてしまうことになる。しかし、円了は別の箇所では、哲学と仏教について、領域が違うのではなく方向性が違うのであると述べている。この方向性の違いから哲学と仏教の違いを考えていくことは、今日でも有効な考え方ではないかと、末木氏は指摘した。

井上円了は、井上哲次郎と共に、日本の知的伝統が哲学としての意義を有することを強調した。末木氏は、輸入哲学や流行思想の限界が明らかになっている今日では、彼らにまで溯って考え直す必要があるのではないかと問題提起した。また、細分化した宗派として仏教を捉えるのではなく、活物として仏教を捉えた井上円了の仏教論は、現代にも大いに意義があるのではないかとも指摘した。

以上のような発表の後、質疑の時間が設けられ、熱のこもった討議が行なわれた。平日にもかかわらず、参加者が20名を越え、非常に盛況な研究会となった。