第3ユニット 第3回研究会報告

スィク教に見られる共生思想―インド研究調査報告

2011年12月20日(火)、国際哲学研究センターの三澤祐嗣RAにより、2011年9月16日~26日に行われた同センター橋本泰元研究員による研究調査「インド・パンジャーブ州アムリットサル市を中心にした、中世ヒンドゥー教改革者ナーナクの共生思想研究及びスィク教聖地の実地調査と資料収集」に同行した際の報告として、「スィク教に見られる共生思想―インド研究調査報告」と題する発表がなされた。

スィク教は、開祖ナーナクがヒンドゥー教やイスラーム教と異なる道を示し興したものである。ムガル朝という強力な国家の庇護のもと発展していくが、次第に弾圧を受けるようになりスィク教団は武装化していくこととなった。このような歴史的・思想史的流れが、史跡の写真などを交え説明された。

次に、調査したスィク教の寺院グルドワーラーについて写真を交えて紹介された。そこに共通する特徴について説明し、いかなる人でも、少しの注意を払えば受け入れる寛容さがあると論じた。最後に、近・現代に起こった2つの事件、イギリス軍ダイアー准将による非武装のスィク教徒市民の虐殺とインディラー・ガーンディー首相暗殺事件およびそれに続く暴動について紹介し、その重大性について指摘した。

出家を否定し、在俗して慎ましく生きることを説いたスィク教の思想は、寺院の造りなどから分かるとおり寛容さがよく表れていたが、一方では、強力な一神教であり、強固な組織でもあった。彼らの堅固な組織力は影響力が大きくなればなるほど新たな軋轢を生む要因ともなり、過激派が存在することもふまえ、今後の彼らの動向は注目すべきであると結論づけた。その後、質疑応答では、スィク教徒の武装化と不殺生の問題や後代の形式化、聖典の擬人化などについて議論され、理念的には素晴らしいことを説いているが、現実との異なる要素が存在することを指摘し、共生問題の難しさを再認識して締めくくられた。