ブラック企業は経済にプラスか?

(ねこ)

巷ではブラック企業という言葉がはやっているにゃ。ブラック企業を批判する人がいる一方で、ブラック企業を擁護する話もあるにゃ。ブラック企業は経済にとってプラスの面がある的な話にゃ。本当かにゃ。

(じいちゃん)

それは嘘じゃ。ブラック企業はデフレのあだ花じゃ。腐敗した土壌に育つ毒の花じゃ。

(ねこ)

ブラック企業はデフレが育てたのかにゃ?デフレがブラック企業を生んだのかにゃ?

(じいちゃん)

その通りじゃ。デフレがブラック企業を生み育てたのじゃ。なぜじゃろうか?バブル景気の頃、日本の景気は絶好調じゃった。じゃから日本にはブラック企業などなかった、というか、そんな企業はすぐ淘汰されておったろう。なぜなら、日本国中が「人手不足」だったからじゃ。どこの企業も人が足りず、少しでも高い賃金を払って社員を採用しようとした。安い賃金で長時間労働など課そうものなら、たちまち社員は他の企業へ転職してしまう。だからブラック企業は社員が誰もいなくなって倒産してしまうのじゃ。ところがバブル崩壊後、日銀の狂ったデフレ容認政策により日本の景気は15年ものデフレ不況へ突入。失業者が溢れ、その結果として企業は「ブラックな労働条件」でも社員を集める事ができるようになったのじゃよ。

(ねこ)

ということは、昔の会社は高い賃金を払わなければならないから大変だった、デフレの今は安い賃金で労働者を採用できるから会社は楽になったのかにゃ?

(じいちゃん)

それは違うのじゃ。景気が良いときは、労働者に支払う賃金が高いかもしれんが、景気が良い分だけ売り上げや粗利益が十分に確保できる。じゃから賃金を払うのに四苦八苦という状況ではない。じゃから景気が良くなると賃金は高くても企業の経営は楽なのじゃ。逆に今のようなデフレ不況だと売り上げが伸びず、粗利益の確保も難しくなり、赤字ギリギリでの経営となる。そうなると、いくら賃金が安くともそれを支払うのは大変な事じゃ。単純に賃金が安ければ企業が楽になるとは言えんのじゃ。

(ねこ)

じゃあ、なぜブラック企業がどんどん成長するの?

(じいちゃん)

ブラック企業の強みは「ブラックである事」じゃ。つまり、従業員に安い賃金で長時間労働を強いる。すると安い価格で良質の商品やサービスを供給することが出来る。価格競争力が高まるのじゃ。デフレで多くの消費者はおカネが無い。すると消費者はより「安い商品やサービス」に反応しやすくなる。そしてブラック企業の提供する、安い商品が売れるようになる。一方、ブラックではない企業はブラック企業に勝てない。人件費を削ってダンピングしているような会社に太刀打ちできるはずがないからじゃ。もし、好景気で人々が溢れるほどおカネを持っていたら、必ずしも安い商品が売れるとは限らない。日本のバブルの時代では、むしろ「高い商品」が好まれていた。価格より質が重視される傾向があったのじゃ。

じゃが日銀による金融政策の失策がもたらした15年以上も続いたデフレ不況により、日本人はすっかり「ケチ」になり、質より価格を重視するようになった。こうなるとブラック企業の独壇場じゃ。人件費を削って安く商品を提供するブラック企業が業績を伸ばし、人件費を厚く処遇する企業は競争に敗れて倒産する。ブラック企業はデフレを利用して優良な企業を倒し、着実に成長する。そういう寸法じゃ。

(ねこ)

とんでもないにゃ。まさに「悪貨が良貨を駆逐する」の典型だにゃ。しかし、中には「ブラック企業が雇用を生み出している」「ブラック企業が無かったらだれが失業者を採用するのか?」という話もあるにゃ。

(じいちゃん)

ブラック企業は雇用など生み出さない。確かにブラック企業は失業者を採用しておる。じゃが、そのブラック企業が安い商品で市場シェアを奪う事で、競合他社が敗退し、失業者が生まれるのじゃ。つまり「プラスマイナス・ゼロ」なのじゃよ。社会全体の失業者を減らしているわけでは無い。それどころか、その業界における「賃金水準」を確実に押し下げ、人々に分配されるカネの量を減らす。つまり社会に循環するおカネの量を減らす。ブラック企業は「デフレを促進する」のじゃ。

本当の意味で雇用を増やすとは、今までなかった需要を生み出すこと、そして需要の総量を増やす事で成し遂げられる。ブラック企業のように、限られた需要を奪って成長する行為は、不毛に過ぎんのじゃ。

(ねこ)

でもブラック企業に勤める社員からは「わが社はブラックじゃない、満足している」という主張も聞かれるにゃ。どうしてなのかにゃ?

(じいちゃん)

それがブラック企業の究極の手口じゃからだ。これは一種の「洗脳」じゃ。神がかり状態になった人間は極限状態でも苦痛を感じない、むしろ恍惚とした快感に浸るのじゃ。昔、オウム真理教という新興宗教がパソコンショップを経営しておった。その店員が秋葉原で来る日も来る日もビラまきをしておった。休むことなく宣伝文句を唱える声はかすれ、その必死の姿は異様じゃった。じゃが本人は幸福じゃったじゃろう。

人間は意識ではなく、むしろ無意識、潜在意識に強くコントロールされる。それは現代の心理学では良く知られたことじゃよ。こうした無意識下における記憶は暗示と呼ばれる。それはフロイトのいう「超自我」でもある。超自我は意識より上位にあるため、暗示が我々の行動だけでなく、意識すら支配することを忘れてはならんのじゃ。簡単に言えば、いかに従業員に「暗示」を与えるか、それに成功すれば、従業員は「これは自らの意思です」と称して、潜在意識に刷り込まれた暗示に従って考え、行動する。

(ねこ)

お、恐ろしいにゃ。暗示で人間の意識がコントロールされるなんて、「意思」は過信できないにゃ。

(じいちゃん)

左様じゃ。ちなみに、このような暗示合戦をマスコミが日常的に読者に仕掛けておる事も忘れるな。

(ねこ)

じゃあ、ブラック企業をやっつければ日本は良くなるのかにゃ。

(じいちゃん)

残念ながらそうではない。ブラック企業が生まれるのは「貧困な経済的土壌」、つまりデフレに問題があるのじゃ。デフレを解決しなければ、ブラック企業はやっつけてもやっつけても出てくる。デフレが続く限り、ブラックである企業ほど「儲かる」からじゃ。じゃから、ブラック企業を駆逐するには取り締まりをするより、デフレを脱却し、景気を良くすることが効果的じゃ。するとブラック企業は自然消滅する。

(ねこ)

にゃるほどブラックな企業に個別に対応するのではなく、社会のシステムを変革することで根本的な問題解決を図る方法なのにゃ。社会システムの変革こそがこれからの政治に求められるのにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃ。そのためには国民がもっと社会のシステム、金融のシステム、資本主義のシステムを理解し、その功罪を見極めることが大切なのじゃ。