預金の取り付け騒ぎとバランスシート

2016.6.22

(じいちゃん)

今回は信用創造で作られた預金通貨(預金)の取引と取り付け騒ぎについて考えてみるのじゃ。預金は現金と同等に扱われるが、現金ではない。それは前回の「信用創造とバランスシート」の記事で十分に理解いただけたと思う。では、現金を使わず預金だけで取引が行われる状況を確認してみよう。

(図C-1)は取引前の銀行のバランスシートの状態(例)じゃ。ここでは銀行がA社に3000万円、B社に7000万円をそれぞれ貸し出し、合計で1億円の貸し出しを行っておる。貸出金は銀行の資産なので、左側の資産の部に記載されている。信用貸し出しによって貸し出しと同じ1億円の預金が発生しており、これは銀行の負債なので右側の負債の部に計上される。それぞれの預金はA社が3000万円、B社が7000万円を保有する。こうして、A社とB社が借金することによって預金というおカネが生まれている。世の中のすべてのおカネはすべてこのような借金によって生み出されているんじゃ。

(図C-2)次に、B社がCさんの土地を2000万円で購入したとする。B社はCさんに土地購入代金の2000万円を送金する(振り込む)が、おカネがどこかへ動くわけではない。預金の名義が変わるだけじゃ。資産に計上されている現金は微動だにしない。このような「おカネが動くわけではない」という感覚が極めて重要じゃと思う。送金だの振り込みだの貸し出しだのと言えば、おカネが動くように錯覚する。しかし実際には帳簿の数字が変わるだけなんじゃ。そういうと猛烈に反論が来そうじゃが、一つの解釈方法として、ありだと思う。そして、この感覚が金融の理解を助けてくれる。

とにかく、こうして預金通貨によって支払いができるため、現金を一切動かすことなく(つまり仮に銀行が現金を1円も保有していなくとも)、おカネのやり取りができる。

また、「世の中のすべてのおカネは誰かが借りた借金からできている」と聞くと「そんなはずない、自分は借金していないけど預金を持っている」と思う人が居るかも知れん。ここでCさんを見てほしい。Cさんは誰からも借金はしていないが、預金2000万円を保有している。ただしこの預金の元をたどれば、B社の借りた借金であることがわかる。このように、資産家が保有するおカネも、労働者に賃金として支払われるおカネも、ずっと元をたどると必ずだれかが借りた借金が元になっているんじゃ。

さて、預金の送金については、民間銀行をすべて連結して1つの銀行としたモデルで考えるなら上記の理解で十分じゃ。しかし、実際には多数の銀行があるので、別の銀行口座への振り込む場合もある。このときは現金を動かす必要があるんじゃ。この場合はいわゆる「預金の引き出し」と同じような動きを示す。では預金の引き出しをみてみよう。

(図C-3)Cさんが預金2000万円を引き出してみた。預金を引き出す時は現金として引き出される。銀行の金庫から現金2000万円が引き出されるので、銀行の資産から2000万円が消える(左側)。そして預金が引き出されたわけなので、負債からCさん名義の預金2000万円が消える(右側)。こうしてCさんは現金2000万円をかばんに仕舞い込んで持ち歩くことができる。ちなみに、これを別の銀行へ持って行って預金すると、いまとは逆の操作が行われる。また、別の銀行へ持って行って預金すれば、これは別の銀行口座へ送金したのと同じ動きじゃな。主題から外れるので、詳しくは省略する。

さて、預金を引き出すとき、預金は現金として引き出されるため、「預金は現金である」と思われがちじゃがまったく違う。実際には現金は日銀が発行する現金じゃし、預金は信用創造で作られた預金じゃから起源はまったく別じゃ。言っておることがピント来ないかも知れんが、取り付け騒ぎについて考えると、これを詳しく理解することができる。

(図C-4)たとえば今回の場合、預金は合計で8000万円あるにも関わらず、銀行の保有する現金は準備金も含めて3000万円しかない。もしここで、B社が5000万円の預金を引き出したいと言い出せば、銀行は現金が不足するので引き出し要求には応じられないんじゃ。預金が引き出せない。これが「取り付け騒ぎ」じゃ。取り付け騒ぎは預金者が銀行へ預金の引き出しを求めて押し掛ける騒動じゃが、なぜ預金の引き出しができなくなるかと言えば、銀行の預金よりも現金の量が少ないためじゃ。銀行が信用創造によって保有する現金の何倍もの預金を貸し付けるため、このような事態となる。つまり、現金と預金の起源が同じ(預けた現金が預金である)であれば現金が不足するはずがない。現金と預金はあくまで別なのじゃ。

一般に取り付け騒ぎの原因として、「銀行はおカネを貸し出しているため、貸したおカネが戻ってこないから預金者に支払いができない」と説明されておるが、間違いじゃ。引き出すための現金の量が最初から不足しておるのが原因じゃ。その証拠に、すべての預金者が現金を引き出せる方法がある。

(図C-5)取り付け騒ぎを起こさないためには、貸し出す預金の金額を膨張するのではなく、保有している現金の金額の範囲で貸し出せば良い。例えば図の例で言えば、現金5000万円を保有して5000万円だけ貸し出しを行った場合じゃ。これじゃとすべての預金者が銀行へ押し掛けた場合でも、すべての預金者に現金の支払いができる。すべての預金が引き出し可能ということは、すべての預金は現金に裏付けられており、貸し出しが現金に1:1で裏付けられていることを意味するんじゃ。このとき、現金は膨らまないので、預金準備率は100%となる。これを経済学者アービング・フィッシャーは「100%マネー」と呼んだ。また機会があればこの話もしよう。

以上より重要なことは、

①おカネは動かず帳簿上の数字だけが変化する場合がある

異論はあるじゃろうが、おカネは動くのではなく、帳簿が変化するだけと考えると理解しやすい場合がある。時々「貸した金が順に回って・・・どこへ行くんだ?」と悩んだりするが、それだと頭が混乱する。帳簿では回るも何もない。動かない。動かないと思えば混乱しない。

②取り付け騒ぎの原因は信用膨張にある

銀行は保有する現金の何倍もの預金を貸すため、そもそも預金の引き出しに応じるために十分な現金は最初から持っていない。だからどんな優良銀行でも預金者が一斉に預金の引き出しに押し掛けると即座に閉鎖される。預金準備率を100%に設定すれば、取り付け騒ぎは起こらない。

③世の中のおカネはすべて誰かが借りた借金からできている

たとえ自分が借金をしていなかったとしても、自分の預金通帳の中の預金は、その元をたどると必ず誰かの借金から出てきたおカネである。

「金融政策を説明する」とか言いながら、銀行の話ばかりしておったが、銀行を知らんと金融政策を何も理解できんので我慢して欲しいのじゃ。今回までの説明で、金融政策に関しては「預金準備率操作」の説明だけした。次回はようやく日本銀行の登場なのじゃ。

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