交換型経済と分配型経済は一長一短

と、ここまで読まれますと、分配型の経済は人間的で理想的なシステムである一方、交換型の経済は他人の不幸など無関係の、冷酷な経済システムという印象を持たれると思います。実際にそうなのですが、しかし、その見方は一面にすぎません。それぞれの経済システムには、それぞれの長所と短所があります。これまで述べたことは「交換型経済の短所」と「分配型経済の長所」でした。では、「交換型経済の長所」と「分配型経済の短所」を考えてみましょう。

① 交換型経済の利点

交換型経済すなわち市場経済の長所には、高い生産効率や早い技術の進歩があります。その原動力になるのが、いわゆる「市場原理」です。なぜ市場経済では高い生産効率を実現できるのでしょうか。それは、試行錯誤(トライ&エラー)を繰り返すことによって、より効率的な生産主体が、独占的に生産を担うようになるからです。

例えば農産物を生産する場合を考えてみましょう。最初は数多くの農家が、それぞれに農産物を生産しています。それぞれの農家はそれぞれにやり方が異なるので、生産効率の悪い農家も生産効率の高い農家もあります。農家全体で見ると、平均値としての生産効率はそれほど高くありません。市場経済の場合、生産効率の高い農家があるとすれば、この農家は、他の農家よりも多くの農産物を生産できますので、市場において、より安く農産物を売ることができます。同じ品質であれば、市場では安い商品の方が良く売れます。すると、生産性の高い農家の農産物の売り上げが増加し、生産性の低い農家は売り上げが減少して、生産性の低い農家は廃業するでしょう。すると廃業した農地を生産性の高い農家が取得し、生産性の高い方法で生産をするようになります。このようにして市場経済では、生産性の低い主体が淘汰され、生産性の高い生産主体が生き残り、独占的に生産を行うことによって、農家全体として高い生産性を実現します。

生産効率だけではありません。よりニーズにマッチした製品もまた、市場原理によって登場してきます。例えばスマホの市場には、初めは多くの企業が参入するでしょう。しかし市場では、より消費者のニーズにマッチした商品が売り上げを伸ばしますので、消費者のニーズを捉え切れなかった企業は倒産します。ただし、最初から消費者ニーズを的確に把握できることはありません。そこがトライ&エラーであって、新規に市場に参入する企業数が多ければ多いほど、ヒット商品を生み出す可能性は高くなりますし、トライ&エラーが少なければ、優れた商品はなかなか登場してこないでしょう。そして、より商品開発力の高い生産主体が独占的に生産を担うことで、より多くのすぐれた製品を生産することができます。

こうした市場原理は、利用できる資源の量が少ない場合はとりわけ有効です。資源の量が少なければ、それだけ高い利用効率が求められるからです。効率の悪い生産主体、ニーズの低い商品に資源を配分するのではなく、より生産効率の高い生産主体や優れた商品を生産できる主体に限られた資源を分配する方が、より多くの成果を得ることができます。

これは「敗者を容赦なく切り捨てる」「市場弱者は淘汰される」という、非常に冷酷な行為があって初めて可能になることであって、つまり、他人が生きようが死のうが知ったことではない、赤の他人が集まった自己責任社会だからこそ可能だ、とも言えるわけです。ところが、これが人々の共同体の社会となると、そんなことはできません。

配型経済の欠点

一般に共産主義あるいは社会主義の社会では、生産主体は政府、つまり「国営」になります。そうなると、市場経済のように複数の企業が競争を行うことはありません。そのため、トライ&エラーの機会が非常に少なくなります。生産技術にしても商品開発にしても、何が正解であるかは、誰にもわかりません。多数のチャレンジの中から、結果として優れたモノが生き残ることが進歩を促進するので、チャレンジの数が少なければ、技術の進歩はなかなか進まないわけです。分配型の経済は共同体なので、生産性の低い生産主体、顧客ニーズの低い生産主体であっても、生産現場からご退場いただくのが難しい。また、過去の共産主義では、そもそもご退場いただくためのシステムが欠落していたのではいかと考えられます。「競争=悪」と考えたり、「成果とは無関係な悪しき平等主義」によって、効率性が損なわれたのでしょう。

また、国全体が一つの巨大な国営企業になると、そこには巨大な「官僚組織」が生まれます。官僚は前例主義であって、新しいことにチャレンジすることはありません。また、内部の権力闘争・利害調整に多くのエネルギーが費やされるようになり、国民のための資源配分の最適化であるとか、成果物の最適配分であるとか、利便性の向上であるとか、そんなものより、省益や出世などが優先されるようになります。また人間関係のしがらみがシステムの運営にゆがみをもたらします。つまり生産と分配が、恣意的に操作されるようになります。一言で言えば、官僚制は「必ず腐敗します」。それは旧ソビエトや中国共産党で明らかでしょう。日本の官僚も同じと考えられます。

なお、価格決定における市場の役割は非常に重要であって、市場抜きに価格を決めることはほとんど不可能です。価格を設定しなければ、貨幣を用いた分配システムは機能できません。市場原理(需要と供給のバランス)を無視して価格を決定すると、物価は安定しますが、必ず過不足が生じてしまいます。とりわけ希少品の分配は難しくなり、抽選でもしないかぎり不可能でしょう。分配型経済であっても、市場を無視することはできないと考えられます。

このように、交換型経済にも分配型経済にも長所と短所があります。ですから、交換型経済あるいは分配型経済のどちらかに偏ることなく、それぞれの長所だけを生かし、短所をカバーするように両方のシステムをバランスよく利用することが、人々に高い満足度をもたらすと思われます。

>続き~ 現代における共同体としての企業