マイナス金利って何だ

2016.1.31

<マイナス金利政策を裏から見る>

(ねこ)

「日銀がマイナス金利政策を導入したと大騒ぎになっているにゃ。マイナス金利政策って何かにゃ。」

(じいちゃん)

「一般の銀行は日本銀行に「日銀当座預金」という口座を持っておる。銀行はこの日銀当座預金の口座に預金を保有しておるが、この預金の金利をマイナスにするのがマイナス金利政策じゃ(銀行が企業や個人に貸し出す金利をマイナスにするわけではない)。なぜマイナス金利にするのか?一部のマスコミではこんな風に説明されておるようじゃ。マイナス金利にすると、銀行が日銀におカネを預けると金利を取られてしまう。それなら銀行は日銀に預けるよりも企業などに貸し出した方が良いと判断するから、貸し出しを増やすだろうというのだ。つまりこの説明によれば「日銀に預けるおカネの金額を減らして、その分を貸し出しに回す」というように聞こえる。

ただし、このマスコミの話は単なる建前じゃ。実際にはウソだと言ってよい。なぜなら銀行がおカネの貸し出しを増やそうが減らそうが、日銀当座預金の預金額はほとんど変化しない仕組みだからじゃ。つまり「日銀に預けるおカネの金額を減らして、その分を貸し出しに回す」のではない。本当は「企業に貸しても貸さなくても日銀当座預金の金額は変わらないから、結局は日銀に金利を取られてしまう。だから貸し出しを増やして、日銀に取られる以上に利息を稼がないと、銀行の利益が減ってしまう。」というのが正しい。

つまり、マイナス金利になると銀行が日銀に金利を取られてしまうから、貸し出しを増やして利息を稼がなければならないということじゃ。「日銀に預けるよりも」などという意味はまるで存在しないんじゃ。

しかも、そもそも銀行は日銀におカネを預けておるのじゃろうか?もし本当に銀行が日銀に預金しているのであれば、マイナス金利になったら、日銀に預けているおカネをすべて引き出して、自分たち銀行の金庫に入れておいた方が良いと考えるはずじゃ。そうすれば金利を取られる心配はないじゃろ。だが現実にはそうならない。不思議じゃのう。つまり形式上は預けている形じゃが、本質的には預けているわけで無いのかも知れんな。」

(ねこ)

「にゃ~、新聞に書いてあることだけじゃあ、本当の事は何もわからないにゃ。マスコミは役人のペーパー丸写しのような、表面的に当たり障りのない記事しか書かないにゃ。」

<日銀当座預金を3つに区分するという意味は?>

(ねこ)

「新聞を読むと、日銀のマイナス金利は「日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用する」というにゃ。一部だけマイナスとは意味がわからないにゃ。同じ預金なのに区別なんか付くのかにゃあ?」

(じいちゃん)

「3つの区分とは、日銀当座預金の金額を①法定準備金(マクロ増加分、マクロ加算残高)、②今まで積み上げた超過準備金(いままでの預金、基礎残高)、③これから積み増す超過準備金(これから積み増す預金、政策金利残高)に分けることじゃよ。そして①は金利ゼロ、②は今まで通り金利0.1%、③はマイナス0.1%とするんじゃ。なお、①②③はそれぞれ複数の呼び方があるため、記事によって書き方が違うので注意が必要じゃ。そういう別称をカッコ内に書いた。じゃが本質的な仕組みを理解したいなら、最初に記載した呼び方の方が理解しやすい。

そして、マイナス金利が適用されるのは「③これから積み増す超過準備金」だけじゃ。じゃから「一部の」という話なんじゃよ。これから積み増すということは、今はまだ無いということ。だから日銀は「銀行への悪影響は少ない」と説明しておる。逆に言えば、これから準備金が積み増しされれば、それに対してマイナス金利の効果があるので「すぐには効果が期待できない」とも言えるんじゃ。ただし、日銀がマイナス金利を公言すれば、市場心理は「景気が回復してインフレになる」と予想する可能性がある。するとおカネを借り入れて投資しようと考える企業が増加することで、景気をけん引する可能性もある。これはコミットメントによる効果じゃな。口先介入みたいなもんじゃ。

と言っても、なんだかわからんじゃろ。日銀当座預金の①②③の違いを理解するのは、なかなか難しいのじゃ。というのも、日銀当座預金を理解するには現在の通貨制度である「準備預金制度」を知らなければならないからじゃ。ほとんどの国民はこの制度を知らないのが現実じゃ。このサイトでもいくつか説明をしておるので(銀行の基本的な仕組み)、それも合わせて読んで欲しいのじゃが、まず通貨制度を簡単に説明しよう。

おカネは日銀が発行すると一般に考えられている。おカネは国立印刷局で紙幣として発行しても良いし、電子的に発行しても良い。いずれの場合でもそのおカネは「現金」と呼ばれるのじゃ。では、その現金はどのようなルートで世の中に流れ出すと思う?」

(ねこ)

「ふにゃ?日銀から一般の銀行に流れて、そこから企業や個人などの世の中に流れ出すと思うにゃ。」

(じいちゃん)

「確かにそうじゃが、日銀から銀行に流れ出す時は、日銀がタダで銀行に現金を配るのじゃろうか?」

(ねこ)

「そんなことしたら、銀行が丸儲けにゃ。う~ん、わからないにゃ。」

(じいちゃん)

「日銀は基本的に銀行へ貸し出しとしておカネを供給するのじゃ。銀行が日銀からおカネを借りるから、タダで銀行に現金が流れるわけではない。日銀が銀行におカネを貸す時の金利が政策金利、以前は公定歩合と呼ばれていた金利じゃ。日銀が銀行におカネを貸す時に紙幣で貸すことはない。ほとんどは電子的なおカネとして貸すことになる。そのおカネが振り込まれる先が「日銀当座預金口座」なのじゃ。日銀が現金を発行して日銀当座預金口座に振り込む。では、銀行に流れてきたおカネはどうやって企業や個人に流れ出すのかな?」

(ねこ)

「そうにゃ、今の話でいえば、銀行が企業や個人に貸し出すことで世の中に流れ出すのにゃ。」

(じいちゃん)

「その通りじゃ。銀行が企業や個人におカネを貸すことで、世の中におカネが流れ出すのじゃよ。このように銀行が貸し付けを増やすことで世の中のおカネが増える仕組みになっておる。逆に言えば、銀行からおカネを借りる企業や個人が居なくなったら、世の中のおカネはすべてなくなってしまうわけじゃ。不思議な仕組みじゃろ?

さて、日銀が発行した現金を銀行が日銀から借りて、その現金は日銀当座預金口座に振り込まれる。では、銀行が企業や個人におカネを貸す時に、その現金が企業や個人の口座に振り込まれるのか?実はそうではない。もし日銀当座預金に振り込まれた現金が、そのまま企業や個人の口座に振り込まれるのであれば、日銀当座預金にあるおカネは減るはずだ。しかし実際には一円も減らない仕組みになって居る。

(ねこ)

「ふにゃにゃ~!、おカネを貸したのに、おカネが減らないってどういうことかにゃ。」

(じいちゃん)

「それは銀行が企業や個人に現金を貸しているのではなく信用を貸し付けているからじゃ。具体的に言えば現金を貸すのではなく預金と呼ばれる信用通貨を銀行が発行し、これを企業や個人に貸し付ける。つまり、「預金は現金を銀行に預けなくても発生する」。なぜ預金が信用通貨と呼ばれるのか?それは「預金と現金をいつでも交換できるという銀行の信用力」に基づいて保証されている通貨代用物だからじゃ。従って預金は正確には通貨ではない。だから預金は1000万円までしか補償されないのじゃよ。

つまり、銀行は銀行の金庫(および日銀当座預金口座)にある現金を信用の裏付けとして、帳簿上で預金を発生しこれを貸し付ける。現金はあくまでも信用の裏付けなので、それそのものを貸すことはない。貸すのはあくまでも銀行の発行した預金(信用通貨)なのじゃ。この仕組みは「信用創造」と呼ばれる。現金を貸すわけではないから、日銀当座預金に入っているおカネの金額が減ることはないのじゃ。そのため、銀行は金庫に保有する現金の金額よりも多くの預金を企業や個人に貸し付けることが可能じゃ。こうして現金が銀行の信用創造によって何倍にも膨らむ現象を「信用膨張」と呼ぶ。

ただし、いくら銀行に信用力があると言っても、銀行の金庫に1万円しかないのに1億円の預金を貸し付けたら大変な事になってしまうじゃろう。そこで貸し出しの制限が必要じゃ。その仕組みが「準備預金制度」と呼ばれる仕組みなんじゃよ。簡単に言えば、銀行が保有している現金の何倍まで預金の貸し出しができるかを決める仕組みじゃ。

銀行は銀行の信用力に基づいて預金を発行し、これを貸し付ける。そのため、貸し付けを増やせば増やすほど銀行の預金の金額は増加する。そこで、銀行の預金の総額に対して、その金額の一定割合の現金を日銀当座預金口座に預け入れなければならないという仕組みを導入する。すると貸し付けによって生じる預金の上限は、日銀当座預金に預けている現金の量によって制限される事になるのじゃ。預け入れなければならない率を「法定準備率」というのじゃ。たとえば準備率が10%だった場合、もし日銀当座預金に預けているおカネが1万円だったとすると、預金の上限は10万円(10万円の10%は1万円だから)となる。つまり、10万円以上のおカネを貸すことはできない。もし準備率が1%なら100万円だ。そして、預金の総額に応じて銀行が日銀に預けなければならない現金のことを「法定準備金」と呼ぶのじゃ。さて、①法定準備金とは、そういう意味じゃ。」

(ねこ)

「難しいのにゃ。じゃあ、日銀当座預金と法定準備金は同じなのかにゃ?」

(じいちゃん)

「正確に言えば同じではない。日銀当座預金に法定準備金を預け入れるのは義務じゃから、預金の一定割合の現金は必ず日銀当座預金の口座に積まれている。しかし、それ以上の金額の現金が日銀当座預金にある場合もある。このように、法定準備金として必要な金額を超えて預けられている預金を「超過準備金」と呼ぶのじゃ。従って、以下のような式になる。

日銀当座預金の金額=法定準備金の金額+超過準備金の金額

そういうわけじゃから、「②今まで積み上げた超過準備金」というのは、この超過準備金の金額に相当するのじゃ。そして「③これから積み増す超過準備金」は、これから増えるかも知れない超過準備金の金額のことじゃな。増えるかも知れんし、増えないかも知れん。まあ、おそらく増えるじゃろうがな。」

<3つの区分の裏事情>

(ねこ)

「なぜ超過準備金が増えるの思うのかにゃ?」

(じいちゃん)

「それは、日銀が銀行の保有している国債を買い入れておるからなんじゃよ。日銀は現金を発行し、その現金で銀行の保有する国債を買い取る。その代金として現金が日銀当座預金口座に振り込まれる。じゃから、日銀が銀行の国債を買い続ける限り、超過準備金は増加することになるんじゃ。マスコミでは「銀行が日銀におカネを預けると日銀当座預金が増える」と解説するが、それは形式的な建前じゃ。実際には預けたくなくても国債を売れば自動的に預けたことになる。

これまでも日銀は量的緩和を強力に推進してきたため、銀行は多くの国債を日銀に売ってきた。そのたびに日銀当座預金口座に現金が振り込まれるものだから、相当に多額の超過準備金が積みあがっておる。それが②「今まで積み上げた超過準備金」じゃよ。その額はおよそ250兆円になる。そして、これには今まで通り0.1%の金利が支払われる。つまりこれからも年間2500億円ほどのおカネがもれなく銀行にプレゼントされるのじゃ。じゃからマイナス金利になっても銀行はほとんど損しない。そんなわけで、いままでは日銀が0.1%の金利をプレゼントするから、銀行は喜んで国債を日銀に売ってきたわけだ。ただし「③これから積み増す超過準備金」はマイナス0.1%の金利となる。この部分は損する可能性がある。」

(ねこ)

「うにゃ、これからの分がマイナス金利だとしたら、国債を売って日銀当座預金に換えたら、逆に金利を取られるから銀行は損するにゃ。そしたら日銀が国債を買うと言っても、どこの銀行も売らないにゃ。」

(じいちゃん)

「それなら日銀が政府から直接に国債を買えば良い。政府が国債発行で調達したおカネを財政政策で使えば、そのおカネは世の中に出回って、いずれ銀行に預金されることになる。そうすると結局は日銀が銀行の国債を買い入れるのと同じように、銀行の保有する現金が増えることになる。政府の発行する国債を直接買えば、国債が買えなくなる心配はまったくないんじゃ。ただし、それをやるとマスコミが「日銀の国債引き受けは禁じ手だー」と大騒ぎするじゃろう。」

(ねこ)

「う~ん、でも、そもそもマイナス金利にするのは何か「おかしい」気がするにゃ。銀行に預けたおカネの金利がゼロならまだわかるにゃ。あるいは預けた手数料というならあり得るにゃ。でも、マイナス金利というのは数学上は当たり前だけど、人間の世界では不自然過ぎると思うのにゃ。そもそもそれは「金利」と呼べるのかにゃ。」

(じいちゃん)

「その通りじゃな。じゃが長くなったので、この件は続きで説明しよう。」

(次回)「マイナス金利 信用通貨制度の終焉」につづく