国債発行・買いオペとバランスシート

2016.6.29

(じいちゃん)

今回は国債発行および買いオペレーションとバランスシートの関係を考えてみよう。これを理解すると、この考えを元に通貨発行、インフレ、財政ファイナンス、ヘリマネなど多くの事が理解できるようになる。

(図E-1)まず国債の発行の意味じゃ。銀行が国債を購入することは、銀行がおカネを政府に貸すことを意味しておる。そして実際、バランスシートでもそのようになる。上段は銀行が貸付金を貸し出して預金5000万円を発生した場合じゃ。そして下段は銀行が国債5000万円を買って資産に計上し、預金5000万円が計上された状態じゃ。どちらの場合も、預金が発生するから信用創造じゃ。ただし国債の場合、「民間銀行が国債を買う時に預金を発生させるわけではない」点が普通の貸し出しとは違う。この流れは説明がややこしいので省略するが、結果的に言えば、銀行(※)が国債を買うことで預金が発生することになる。この事から、次の事が理解される。

①国民の預金で国債を買っているのではない

通説では「国民の預金で国債を買う」と言うが、実際にはそうではない。正確に言えば「銀行が国債を買うことで国民の預金が発生する」。つまり本当の順番は逆なのじゃ。ただし帳簿の最終形態はどちらも同じなので通説に騙されてしまう。それがわかると、新聞・マスコミ・御用学者の主張する「国民の預金が減ると国債を買えなくなる」という話はウソだとわかる。実際には銀行が国債を買えば買うほど国民(および企業)の預金は増加する。一方、預金が増加すれば銀行が日銀に預け入れなければならない準備金の金額が増加する。そのため、国債を大量に購入すると銀行の保有する現金(マネタリーベース)が不足することになり、やがて国債は買えなくなる。しかし今日、日銀の量的緩和によってマネタリーベースの総量は緩和前3倍以上に増加しておるので、銀行に国債を買う気があればいくらでも買える状態じゃ。国債を買うおカネが無くなる心配はまったくない。

②国債発行によって預金通貨(マネーストック)が増加する

銀行が政府から国債を買うと信用創造によって預金通貨が発生する。そのため世の中に出回るおカネ(マネーストック)が増加する。マネーストックが増加するとインフレを引き起こす可能性がある。一方、銀行が国債を買うことで満足してしまうと、銀行が民間企業への貸し出しを減らす可能性もある。貸し出しが減るとマネーストックが減り、デフレを引き起こす可能性がある。つまり、失われた20年の間、国債の発行でマネーストックが増えたにも関わらず、企業への貸し出しが減ってマネーストックが減り、相殺された結果インフレにはならず、むしろデフレになったわけじゃ。

(図E-2)ところで銀行ではなく、非金融機関が国債を買った場合は信用創造にはならない。だから預金は発生せずマネーストックは増加しない。少しややこしいが説明しよう。誰かが銀行に50万円の預金を持っていたとする。この人が政府から国債を買おう思う。普通の預金取引なら以前に説明したように、預金の名義を政府に変えれば良いが、基本的に政府は銀行預金での取引はしない。じゃから国債はあくまで現金で買うことになる。そのため、現金(紙幣)50万円を引き出して政府に支払い、国債を買うんじゃ。基本はこうして買うが、実際には紙幣じゃなく振り込みで買うじゃろう。その場合は金融機関が現金(日銀当座預金)の振り込みを代行することになる。繰り返すが、紙幣も日銀当座預金もどっちも現金じゃ。

さて、この場合は預金はまったく発生していない。銀行の現金(日銀券または日銀当座預金)が政府に移動しただけじゃ。このように、民間非金融部門(家計、個人投資家、一般企業など)が直接に国債を買っても世の中のおカネ(マネーストック)は増加しない。このような購入方法だと、通説のとおり、個人の預金が減ると国債を買うおカネがなくなる。つまり銀行が買う場合と個人・企業が買う場合は根本的に会計の仕組みが違うんじゃ。新聞マスコミ御用学者はこの考え方が、ごちゃまぜになっとる。

(図E-3)次に「世の中のおカネは国債が元になっている」という話をしよう。先ほどは、銀行が国債を買うことによって世の中のおカネ(マネーストック)が作られることを説明した。ただしその元になっているのは現金(マネタリーベース)じゃ。現金がなければマネーストックは逆立ちしても増加しない。では、その現金はどのようにして作られるのじゃろうか?以前に説明したように、現金は「銀行への貸出金」として信用創造で作られる。もう一つは国債の購入によって作られるのじゃ。前置きが長かったが図を見てほしい。日銀が資産として国債を計上すれば、負債として日銀当座預金(または日銀券:いずれも現金)を発生できる。つまり国債によって現金が発行される仕組みなのじゃ。これは極めて重要じゃ。

日銀が国債を保有することで現金(マネタリーベース)が発行され、その現金を民間銀行が利用して国債を購入し、世の中におカネを供給する(マネーストック)。ということは、もし政府の国債をすべて償還したら(政府の借金をすべて返済したら)、世の中のおカネの大部分が消滅することになる。実に馬鹿げたシステムじゃが、これが現代の金融の基本システムなのじゃ。ワシはこれを知った時、あまりのバカバカしさに驚愕した。しかし新聞マスコミ御用学者はこの金融の仕組みを当然だと思っているらしいから、現状は変えられん。ゆえに、馬鹿げていることを十分に理解したうえで国民は金融政策を考える必要がある。でなければバカバカしいことに巻き込まれるだけじゃ。

(図E-4)日銀による買いオペレーション(買いオペ)を考えてみよう。日銀が世の中のおカネを増やす方法として、前回は「金利政策」を説明したが、「オペレーション(公開市場操作)」という方法もある。世の中のおカネを増やすには買いオペレーションが実施される。買いオペとは、日銀が現金を発行し、その現金で銀行の保有している国債を買い取る方法じゃ。この方法は今日日銀が行っている量的緩和の手法と同じじゃ。まず、日銀の国債買い取り前の状況(上の図)をモデルでみてみよう。民間銀行は資産として国債1000万円を保有しておるとする。そして貸付金5000万円と合わせて、合計で6000万円の預金を計上している状態じゃ。

次に日銀による国債の買い取りを考えてみよう。①日銀が銀行から国債を買い取って、それを資産に計上する。②計上した国債1000万円を元に日銀当座預金に1000万円の現金を発生させる。③この1000万円は民間銀行に国債の代金として振り込まれる。このようにして、銀行の資産では国債が1000万円減ってかわりに現金(日銀当座預金)が1000万円計上されるので、国債と現金を交換したようなものじゃ。

そして、銀行にとっては手持ちの現金が増えるので、これを準備金として利用すれば企業などへの貸し出しを増やすことが出来るというわけじゃよ。なお、日銀が国債を買うと市場では国債の需要が増えるため国債が値下がりして国債の金利が低下する。すると企業などへの貸し出しの金利も引きずられて低下することになり、金利が下がって借り手が増え、世の中のおカネが増えるわけじゃ。

さて、日銀が国債を買い取っても、その時点では世の中のおカネは一円も増えていない。なぜなら世の中のおカネ(マネーストック)は預金じゃが、貸し出しが増えたわけではないので預金量は変化しない。あくまで増えたのは銀行の中の現金じゃ。つまり銀行のマネタリーベースが増えただけなんじゃ。新聞・マスコミ・御用学者の中には「日銀が国債を買い取るとハイパーインフレになる」と騒ぐ向きもあるが、間違いじゃ。日銀が国債を買い取って現金を発行しただけでは、世の中のおカネは一円も増えないのでインフレにはならん。このマネタリーベースを元に、企業や個人がどんどん借金をするようになればインフレになる。

以上より、

①日銀が国債を買い取ると現金(マネタリーベース)が発生する

日銀が銀行から国債を買うと現金が発行されるので、銀行のマネタリーベースが増加する。しかしそれだけでは銀行の貸し出しは増えないので、日銀が国債を買っても世の中のおカネが増加するとは限らない。ゆえに、日銀が現金を発行して銀行から国債を買ったからと言ってハイパーインフレにはならない

②銀行が国債を買い取ると預金(マネーストック)が発生する

銀行が政府から国債を買うと(間接的に)信用創造によって預金通貨が発生する。そのため世の中に出回るおカネ(マネーストック)が増加する。

③国民の預金で国債を買っているのではない

国民の預金で国債を買うのではなく、銀行が国債を買うことで国民の預金が発生しているのが実態。だから「国民の預金が減って国債を買えなくなる」という話はあり得ない。一方、国債を買うためには銀行に十分な現金(マネタリーベース)が必要なので、マネタリーベースが減ると国債を買えなくなる。量的緩和によってマネタリーベースは膨大にあり、国債が買えなくなることはない。

④国債をすべて返済すると世の中のおカネの大部分が消える

国債から現金(マネタリーベース)が生まれ、現金から預金(マネーストック)が生まれる仕組みになっている。そのため、もし国債をすべて返済してしまうと、現金の大部分が消え、それにつれて世の中のおカネも消えてなくなる。従って、事実上、国債をすべて返済するのは不可能と言える。

⑤国債を返済したら、別の誰かが借金を増やす必要がある

もし国債をすべて返済したうえで、世の中のおカネ(マネーストック)を減らさないのだとすれば、その方法はある。世の中のおカネは借金から生まれるので、政府が借金を返済した額と同じだけの借金を別の誰かが背負えば良いことがわかる。政府が1000兆円の借金を減らしても、代わりに企業、家計、海外のいずれかが1000兆円の借金をするなら、世の中のおカネの量は維持できる(経済は政府、企業、家計、海外の4部門からなるため)。この先、消費税の増税を続ければ家計の借金が増加する可能性は高い。

正誤(※)

2019.11.24修正 8行目・(誤)日銀→(正)銀行

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