ベーシックインカム動画・第5話ナレーション

ベーシックインカムの導入方式

2019.8.23

私は、ばらまきマンだ。これまでのお話では、ベーシックインカムの基本的な考え方について説明してきた。では、実際にベーシックインカムを実現しようと考えるとき、ベーシックインカムをどのような手順で社会に導入すれば良いのだろうか。ベーシックインカムの制度は、これまでの私たちの社会にはなかった、まったく新しい制度だから、ベーシックインカムを導入すると問題が発生するかも知れないと懸念する人もいるだろう。今日は、ベーシックインカムの導入方法について考えてみよう。

ベーシックインカムの導入に際して、心配されることは幾つかあるが、その例を挙げてみよう。

①働く人がいなくなって社会が維持できなくなる。

②財源が足りないので、大幅な増税が実施される。

③社会保障が廃止されるので、かえって生活が貧しくなる。

他にもあるけれど、よく聞かれる心配はこの3つがあるだろう。

では、こうした問題を引き起こすことなくベーシックインカムを導入するにはどうすればいいだろうか。実は、そんなに難しいことじゃないんだ。それは、いきなりベーシックインカムとして高額な金額を国民に支給するのではなく、徐々に支給する金額を増やしてゆく方法を取ればいいんだ。

ベーシックインカムの導入法

①小額スタート方式

例えば毎月1万円をすべての国民に給付する「給付金制度」からスタートするわけだ。毎月1万円ではベーシックインカムとしては不十分な金額だけれど、例えば毎月の支給額を毎年1万円ずつ増やしていけば、10年後には毎月10万円の支給額になるはずだ。もちろん、物価や社会に与える影響を見ながら毎年の増加額を増やしたり減らしたりして、調整する必要はあるだろう。そして、この導入方式であれば、先ほど示された懸念事項に対応することも可能なんだ。

例えば、このように小額からスタートすれば、ベーシックインカムの制度が導入されたからといって、いきなり働かなくなる人が増えることはない。支給額が増えるにつれて、徐々に働かなくなる人が増えるので、社会に急激な混乱をもたらす心配はないんだね。その間にもロボットや人工知能が徐々に普及してくるから、人手不足で経済が動かなくなる恐れもない。

また、毎月1万円の支給に必要な政府の予算は年間およそ15兆円だ。この程度であれば、政府がおカネを発行するだけで十分に賄うことが可能だ。現在の世の中のおカネの量はおよそ1000兆円なので、15兆円といえばおカネの増加量は1.5%程度に過ぎない。この程度のおカネは、政府が発行して国民に給付しても何ら問題はないと考えられる。

実際、世の中のおカネは今でも年間3%以上増え続けており、しかも、高度成長期やバブル経済の当時は年間10%近くも世の中のおカネが増えていたんだ。しかも今の日本は「デフレ」といって、おカネが足りない状況にある。だから、毎月1万円や2万円のおカネを国民に給付するには、おカネを発行するだけでよく、そのために、わざわざ増税をする必要はないと言えるんだ。

そしておカネを給付すると景気が良くなるから、増税しなくても税収が増えるし、企業の利益や国民の所得が増えれば、ベーシックインカムのための増税も受け入れ易くなるだろう。そうすれば、財源についても徐々に方向性が見えてくるのではないかと思うんだ。つまり、最初から増税するのではなく、始めは国民におカネを配って経済活動を活性化し、税収が自然に増える中で、財源を検討すれば良い。

ところで、毎月1万円や2万円を国民に給付したところで、そんな程度の金額では、社会保障の代わりになるはずがない。つまり、ベーシックインカムを徐々にスタートしても、社会保障制度は今のままと同じような仕組みが維持される必要がある。

ただし、社会保障制度とベーシックインカムの二重取りになるから、不公平じゃないか、と思う人もいるだろう。だから、社会保障で支給される金額を、ベーシックインカムの分だけ、少し減額するという考えはあり得るだろう。しかし、あくまでも社会保障の制度そのものは現行のまま維持されることになる。

実際のところ、ベーシックインカムは世界にも前例のない制度なので、社会にどんな影響を与えるか予測が難しいと思う。だから、いきなり高額のベーシックインカム制度を導入するのではなく、小額からスタートして状況を見ながら、着実に増額し続けることが現実的な導入方法ではないかと思うんだ。

ベーシックインカムの導入法

②年金子供手当てスタート方式

もう一つの導入方法として、すべての高齢者に給付する「年金」と、すべての子供に支給する「子供手当て」からスタートする方式が考えられる。高齢者と子供はそもそも労働人口ではない。働かなくても良い年齢の人たちなんだ。だから高齢者と子供にベーシックインカムを給付したところで、働かない人が増えるという心配はないし、それによって社会が維持できなくなる心配もまったくない。

それどころか、高齢者の生活がベーシックインカムによって完全に保障されるのであれば、国民の老後の生活に対する不安は解消されるため、若い頃からおカネを貯め込む必要はなくなり、消費が伸びて景気が良くなる可能性がある。

例えば現在の国民年金制度と統合して、1人当たり毎月15万円から20万円程度を、無条件にすべての高齢者に支給する。今の国民年金のおよそ2から3倍の支給額だ。保険料はそのままで、足りない財源は先ほどと同じように、通貨の発行で賄う。支給対象者が年齢的に限定されるため、先ほどよりも必要とされる予算は少なくて済むと思われる。

また近年は「子供の貧困」と呼ばれる、家庭が貧困なために十分な食事が取れない、あるいは必要な教育が受けられない、といった社会問題が生じている。こうした状況は、すべての子供に「子供手当て」を支給することで解決することができる。

子供手当てについては、制度の導入初期段階においては、年齢に応じて増額することもありだと思う。例えば赤ちゃんの頃は毎月3万円で、小中学生になったら5万円、高校大学は学費も考えて毎月10万円、といった具合だ。大学を卒業する年齢である22歳までを支給期間とする。

また、子供手当ては少子化対策としても効果が期待できる。今日の社会では、子供の養育に必要な費用はとても大きい。それが家計の負担となって、子供の数を増やしたくない人も多いはずだ。逆に子供を持てば持つほど、子供手当てによる家計の収入が楽になるなら、子供を育てる労力が増えたとしても、子供を増やそうとする人が出てくるだろう。

年金と子供手当からスタートし、これをベーシックインカムに向けて徐々に拡大してゆく。例えば、年金については支給年齢を現在の65歳から徐々に引き下げる。64歳支給開始、63歳支給開始と言う具合に、徐々に早い年齢から年金が受け取れるようにする。支給開始年齢の引き下げは、人工知能やロボットのような生産設備の増加と平衡して行われるなら、働く人が減ることによって経済活動が低下する心配はない。最終的にはすべての年齢で年金が支給されるようになると、これがベーシックインカムになるわけだ。

つまり、制度を導入して最初のうちは「若い人は我慢して働いてくれ」というわけだ。とはいえ、順調に年金の支給開始年齢を引き下げることができれば、やがて40歳から年金が支給される、40歳定年といった社会も早期に実現できるだろう。40歳なら、まだまだ色々なことにチャレンジできる年齢だ。

40歳が定年になったら、第二の人生として、本当に自分のやりたいことに挑戦する人がどんどん増えるだろう。65歳を過ぎても働かなければ生活できない「一億総活躍社会」など、ナンセンス以外の何ものでもないよね。人工知能やロボットの飛躍的な増加によって、人間の労働力が必要ない時代になるのだから当然だ。

もちろん、65歳を過ぎても賃金労働に従事したい人は、それも自由だ。賃金労働に生き甲斐を見出す人が居たとしても、別に不思議はないよね。ただし「すべての人が、すべからく賃金労働に従事しなければならない」という社会は、未来の社会にあっては不自然なんだ。

というわけで、今回はベーシックインカムの導入方法について、二つの案を説明した。いきなり完全なベーシックインカムを導入する方法もあるけど、様々な懸念もあることから、自分は、そうした点にも配慮して、ベーシックインカムを小額の給付金からスタートして、毎年徐々に支給額を引き上げる方法や、支給年齢を高齢者や子供に限定したところからスタートして、支給年齢を徐々に引き下げる方法を説明した。

他にもアイディアはいろいろあると思うから、是非、みんなにも考えて欲しいと思うんだ。それじゃあ、今日はこれまで、ベーシック!