消費税率100%でも年金は破綻する

2014.12.31

<どれほど増税しても社会保障費は出てこない>

(ねこ)

なんかのTV番組で、自民党の議員が「社会保障のためには消費税上げるしかないでしょう」とか、自信満々に断言してたけど、増税すれば社会保障費の財源は確保できるのかにゃ?

(じいちゃん)

一時的には可能じゃが、すぐに行き詰るじゃろ。そしてまた増税するが、やがて必ず行き詰る。論理的に考えると、ハッキリ言って、何度増税しても社会保障費を補う事は不可能じゃ。何度も増税を繰り返し、いつまでたっても社会保障費は不足する。つまり「社会保障を消費税で支える」という発想は、最初から破綻しておる。増税を生きがいにしとる財務省の思うつぼじゃな。

(ねこ)

ふにゃ~恐ろしいにゃ。なんでそんな事になるのかにゃ。

(じいちゃん)

それは現在の経済システムに「弱点」があるからじゃ。その「弱点」を見て見ぬふりして、増税でごまかそうという国会議員や官僚の魂胆が、やがて取り返しのつかない事態を招くことになるじゃろう。

<「労働者=消費者」という関係式で成り立つ通貨循環>

(じいちゃん)

現代の経済は通貨循環の上に成り立っておる。どういう事か?ワシら労働者の多くは企業で働いておる。労働者が企業で働いて様々な財(商品やサービス)を生産しておる。そして、その代価として企業から給与という名目で通貨を得ておる。その労働者は手にした通貨を使い、企業において生産された財を購入することが出来る。その時、労働者は消費者となる。労働者=消費者じゃ。

従って、おカネの流れをみると、おカネはまず給与として労働者に渡り、次に労働者が企業の生産した財を購入することで企業におカネが戻る。このようにして、おカネは企業と労働者の間を循環し、その循環に乗って、国民に財の分配が行われておるのじゃ。実際には仕入費用とか光熱費とかいろいろあるが、それらも含めて国全体としてみると、そういう事になるのじゃよ。

この場合、企業が生産した財(商品やサービス)がすべて売れるためには、基本的に労働者に支払われる賃金の総額が、生産した財の総額と同じにならなければならない。当たり前じゃな。労働者=消費者じゃから、生産した商品をすべて買い取るために十分なおカネを給料として払わなければ、商品は売れ残る。

もちろん、実際には「利息」や「配当」というかたちで、株主などの資産家にもおカネが流れるので、労働者に支払われる給料の総額は、生産した財の総金額より少なくなるのが実情じゃがな。

(ねこ)

そうなのにゃ。生産された財の量と同じだけのおカネが、企業から労働者すなわち消費者に対して支払われるのにゃ。それで経済が回るのにゃ。

<高齢化により、「労働者数<消費者数」という関係が通貨循環を麻痺させる>

(じいちゃん)

ところで、高齢化が進むと労働者の人数が減ってゆく。一方、高齢者は労働者ではないが、消費者じゃ。高齢者は働かなくても消費する。すなわち、高齢化にともない、労働者の人数より消費者の人数の方がどんどん多くなってゆくのじゃ。労働者の人数が減るので、そのままでは財の生産が間に合わなくなってしまう。だから生産力を維持するためには一人あたりの生産力、すなわち「労働生産性」を高める必要がある。そのために高度な機械化やロボットの導入が検討されておるようじゃ。これは当然の考え方であり、人間の代わりに機械が労働すれば生産力の低下を防ぐことは可能じゃ。しかし、別の問題が発生する。

先にも話したように、企業が生産した商品が残らず売れ、国民に分配されるためには、企業から消費者に対して、生産した財の量に見合うだけのおカネを流さなければならない。実際には、労働者に対して「給料」としてそれが支払われているのじゃ。しかし、高齢者は労働者ではない。じゃから企業から高齢者におカネが流れる仕組みは基本的に存在しない。

従って、高度な機械化やロボット化で生産力が維持されたとしても、高齢者におカネが流れないため、せっかく生産された商品を高齢者は買う事が出来ず、企業が生産した商品も売れ残る事になる。すなわち、企業と消費者の間の通貨循環が崩壊して経済がマヒし始めるのじゃ。

(ねこ)

うにゃ~、なんなのにゃ~。ところで、税金で社会保障費をまかなうって話はどうなってるのにゃ。

(じいちゃん)

企業が労働者に流している給料の一部を抜き取り、それを高齢者に流す。それが「税による社会保障財源」の事じゃ。従って、全人口に占める高齢者の割合が増えれば増えるほど税は重くなる。労働者に過度な重税を課すことなく「税による社会保障」というシステムを成立させるためには、企業が労働者に対して支払う給与の割合を、高齢化に伴ってどんどん増やす必要がある。

なぜなら、おカネは労働者に対してのみ支払われるため、高齢化に伴って労働者の割合が減少すればするほど、税によって高齢者へ流れるおカネの量は減少してしまうからじゃ。もし、高齢者に流れるおカネのすべてが税である場合、高齢者に流れるおカネを増やす方法は「増税」か「労働者の給料を増やす」ことの二つしかない。

もし、労働者への給料を増やさなければ、ひたすら増税を繰り返すしか方法は無くなる。さて、企業は生産性の向上に伴って、労働者の給料を、高齢化の進展に見合うだけの割合で増やすじゃろうか?そんなわけないじゃろ。現にこれまでも機械化によって生産性が年々向上しているにも関わらず、バブル崩壊後の国民の給与水準は下がり続けておる。賃金が上昇しないのだから、増大する社会保障費を賄うためには増税以外に選択肢はなくなる。かくして増税地獄の始まりじゃな。ほくそ笑む財務省。

このように、どれほどロボットが導入されて企業の生産性が高まっても、労働人口の割合が減る限り、「必ず財源が不足する仕組み」になっておるのじゃよ。繰り返す、「必ず財源が不足する仕組み」になっておる。じゃから消費税をいくら増税してもムダじゃ。

(ねこ)

増税地獄はいやだにゃ~、喜ぶのは財務省だけなのにゃ。やめてほしいのにゃ。

<企業から高齢者におカネが流れる仕組みが必要(直接・間接)>

(じいちゃん)

この問題を真面目に考えておる国会議員や官僚など一人もおらんじゃろう。やる事と言えば福祉切り捨てと増税だけじゃ。本当に腹が立つのう。最近発見された「頭の悪くなるウィルス」に感染しとるのじゃろ。

もちろん、今すぐただちに通貨循環が崩壊するという話ではない。年金の積み立てもそれなりにあるし、年金運用による高齢者への通貨の流れも存在しておる。ただし、通貨循環を妨げるようなメカニズムが存在する以上、長期的には問題がボディーブローのようにじわじわ効いてくる。それを意識した将来ビジョンを今から描き出して徐々に準備しておかねばならん。問題が顕著化してから騒いでも遅いのじゃ。

この場合、企業から高齢者におカネが流れる仕組みを確立する必要がある。つまり生産サイドから消費サイドへのおカネの流れじゃ。それは直接でも間接でも構わん。とにかく生産サイドと消費サイドの通貨循環を維持しなければ市場経済は成り立たん。もちろん、モノを直接分配する配給経済に移行するというのであれば話は別じゃが、しかし変化が大きすぎて人々が対応できんじゃろ。では、具体的にどうやって企業から高齢者におカネを流す仕組みを構築すれば良いじゃろうか?

①高齢者が株主・債権主になって配当を得る

高齢者が株主になって配当金を企業から受け取れば、企業から高齢者への通貨の流れができる。実際に、現在の年金事業はこれをやっておる。年金事業者は積み立てた年金で株式や債券を買い、企業からの配当を受け取って高齢者へ流しておる。しかしこれでは、おカネの無い高齢者には通貨が流れない。その場合は政府が株式をどんどん保有して、その配当を利用する方法があるじゃろう。「政府が株を保有するのは良くない」という輩がおるが、消費税で国民からむしり取るより余程よいと思うがの。

とはいえ、配当だけですべての高齢者が十分に生活できるほど企業からおカネが流れるわけでは無い(資産家は別として)。個人年金のベースは、結局のところ個人が積み立てたおカネが中核になっておる。そのため、もし、すべての年金が「積立方式」になれば、全国民がおカネを使わずせっせと貯蓄して、ますます貯蓄過剰となる恐れもある。それに加え、年金を株の運用などに頼る場合、景気が良いときは配当があるが、景気が悪くなると配当はなくなる。含み損も生じる。景気の影響に左右される財源は良くないと思うのじゃ。

②企業に課税して、高齢者に流す

通貨循環のメカニズムから言って、企業に課税して高齢者に流す仕組みが最も合理的じゃ。高齢化にともなって企業から消費者に流れるおカネが減ると経済がマヒする(デフレになる)ので、税を用いて強制的に循環を維持するわけじゃ。企業にとって酷に聞こえるかもしれんが、逆にそうしないと通貨循環が停滞してデフレ不況が悪化し、企業経営が成り立たなくなるんじゃ。ただし、これが成り立つ条件はあくまでも「機械化・ロボット化に伴う生産性の向上」が順調にすすんだ場合であり、かつ、その生産性の向上のペースに課税の割合が適合しなければならん。あまり拙速に企業への課税を強化すれば、企業の生産活動に悪影響を及ぼすこともありえるじゃろう。

③政府が発行通貨を高齢者に流し、企業から税として回収する

ワシが最も良いと考えておる方法はこうじゃ。政府が政府紙幣を発行する、もしくは日銀引き受けにより通貨を確保する。その通貨を年金として高齢者に流すのじゃ。高齢者はそれを用いて企業から財を購入することができる。すると企業の売り上げが増加して企業の収益が増大するので、そのままではバブルとインフレが高進するじゃろう。それを防止するためには世の中に流したおカネを回収する必要がある。そこで、「福祉税」のようなかたちで企業の利益に課税し、それによって政府の発行した通貨を市場から回収するのじゃ。

消費者に通貨を流すことで消費を維持・拡大する事により企業の利益も拡大する、と同時に企業に課税することで税収を増やす。これによって、企業にダメージを与えることなく、財源を確保することが出来る。同時に、通貨供給の増加は基本的に税収全体を底上するので、税収は潤沢になる。その税収で確保した通貨を再度、高齢者に流すことにより、市場における通貨の循環量を維持する。高齢化対応に伴う政府の新規通貨の発行量は、インフレ率によりコントロールする。インフレ率にリンクすることで、生産性の向上との関連性を確保する。

この方法は、基本的に、「高齢化による労働人口の減少」と「機械化や技術開発による生産性の向上」という二つの因子から生じる通貨の循環障害を、税を用いて補正する方法じゃ。もちろん、従来型の積み立て年金も併用すれば良いじゃろう。

(ねこ)

面白いのにゃ。でも、そんなにうまくいくのかにゃ。

(じいちゃん)

それはわからん。じゃが、高齢化に伴う通貨の循環障害を解消する方法は、これ以外にないと思う。もちろん、もっと優秀な経済学者の先生が、生産サイドと消費サイドをつなぐ別の通貨循環ルートを確立できるというなら、それでも良いのじゃ。じゃがそんな話は聞いたことが無い。いずれにしろ「通貨循環モデル」が重要じゃ。

通貨供給によるインフレを心配する人もおるじゃろ。しかし若干インフレ傾向になったとしても、高齢化の進行でデフレ不況になるよりましじゃし、この政策を実施すれば高齢者が無年金になって貧困化する心配も無くなるはずじゃから、多少のインフレは良しとすべきと思っておる。

また、この政策により通貨循環の拡大が生じて景気が良くなるため、人手不足が深刻化するじゃろう。すると安易に外国人労働者の受け入れに走る危険性もある。これでは生産性の向上に結び付かない。

<社会保障は税制よりも生産力が重要>

(じいちゃん)

通貨発行による年金財源の確保は、生産性の向上を伴わなければ、通貨の供給によっていたずらにインフレになるばかりじゃ。本質的に社会保障の持続性にとって最重要なのは「生産性の向上」じゃ。とにかく生産力が高ければ国民を養うことが出来る。もし、ワシのアイディアに致命的な問題が生じるとすれば、それはおそらく「生産性の向上がうまくいかない場合」に生じると思う。生産性が着実に向上するなら、通貨循環のルートは設計次第でどうにでもなると考えておる。既得権益の猛反発を恐れなければ簡単な事じゃ。

ところで、このメカニズムが稼働すれば、明らかに「現代の資本主義の枠」を超える事になる。また、越えなければ他に方法は無いじゃろうと考えておる。すでに資本主義の成立条件は限界に達しつつある。世界の既得権益集団は、典型的な資本主義のシステムがまだ有効である途上国を引き込むこと(グローバル化)で、何とか現体制の延命を図ろうとしておるが、すでに現在の経済体制はゾンビと化しておる。

マスコミによって刷り込まれた固定概念だけでワシの話を聞いても、狐につままれたような気分にだけなるじゃろう。経済の根幹を形成する通貨循環の話すらマスコミでは触れようとしないからの。マスコミが決して触れない「国家のバランスシート」「銀行の信用創造」「通貨循環」は、現代の経済の本質を読み解くうえで極めて需要じゃが、それゆえ、腫物に触るように国民の意識から遠ざけられておる。ここに問題の本質が潜んでおるからじゃ。しかしそこから逃げていては、問題は永久に迷宮入りとなる。

そして、一つだけ確実に言える事は、「消費税をどれほど増税しても、社会福祉の財源の問題は、何一つ本質的に解決しない」ということじゃ。マスコミは欺瞞に満ちておる。