なぜ失業するのか、どう解決するか

2016.1.6

(ねこ)

なぜ失業が発生するのかにゃ。

(じいちゃん)

現代社会において失業の発生する原因は複雑じゃ。そのため原因がわかりにくい。じゃから失業の発生する根本的な原因をまずは考えることが重要じゃと思う。では根本的な失業の原因は何か?それは生産性の向上じゃよ。

(ねこ)

失業は生産性の向上が原因なのかにゃ。どうしてなのかにゃ。

(じいちゃん)

モデルを使って簡単に説明してみよう。例えば100人の人から成る社会があるとする。その社会では毎日100個の食料が必要とされる。一人の人が一日8時間労働して1個の食料を生産できたとすると、100人で100個の食料を生産できるから100人の人々は誰も飢えずに済むのじゃ。生産性について言えば、一人が1個の食料を生産するから生産性は1になる。

そこでもし生産方法の進歩などで生産性が2に向上するとどうなるじゃろうか?一人の人が8時間労働して2個の食料を生産できるのだから、50人の人が働けば、50人×2個=100個となり、社会が必要とする食料の生産は賄える。となると残りの50人は働く必要がなくなる。そして現代社会では働かない人には分配が行われないので、失業した50人は飢えることになる。これが失業じゃ。

(ねこ)

ふにゃー、えらく簡単な話にゃ。世の中はそんな簡単じゃないにゃ。それだけで失業が説明できるとは思えないのにゃ。

(じいちゃん)

ほっほっほ、確かにそうじゃが、そう焦るな。失業には別の原因もある。それを説明する前に、生産性の向上によって発生した失業問題を解決するためにはどうするか?その根本的な方法を考えてみよう。その方法は3つじゃ。

(1)全員の労働時間を半分にする

1人当たりの労働時間が8時間なので、これを半分の4時間にする。すると生産に必要な人数が倍になる。すると100人全員が4時間働いて100個の食料を生産することになり、失業者が居なくなる。

(2)失業した50人で衣類の生産を行う

失業した50人が8時間労働して100着の衣類を生産する。この100着の衣類を100人に分配し、生産された100個の食料も100人に分配すれば、失業者は居なくなり、人々が受け取る物資が二種類に増える。

(3)労働しない残り50人にも食料を分配する

社会全体で見れば、働く人数が50人の場合でも必要な食料数100個の生産はされている。なので残り50人にも食料を配分すれば誰も飢えることはない。

現代社会で行われている失業対策も、基本的にはこれと同じ派生形じゃ。たとえば(1)の場合は労働時間の短縮やワークシェアリングと呼ばれる手法がこれにあたる。(2)は新たな産業を生み出すことであり、そのためには新たな需要を作り出したり、技術革新による新商品の発明などがある。

(ねこ)

(3)はどうなのかにゃ?そんな話は聞いたことが無いにゃ。

(じいちゃん)

年金がそれにあたると考えておる。たとえば先ほどの例で言えば働いている50人が生産年齢人口であり、働いていない50人が高齢者や若年者だと考えることができる。つまり必要な生産を生産年齢人口で賄うことが出来るのであれば、働いていない高齢者にも年金としてそれが分配されるわけじゃよ。どうじゃ?簡単じゃろ。

(ねこ)

う~ん、逆に説明が簡単すぎて良くわからない気もするにゃ。もう少し詳しく説明して欲しいのにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな、まず(1)は労働時間の短縮じゃ。たとえば法定労働時間を短縮すれば人手が多く必要となるから企業の求人数が増え、失業者が減少する。もちろん失業者がいないときにこれをやれば、社会全体で生産される財(商品やサービス)の量が減少するからまずい。またワークシェアリングも同じじゃ。一人でやっていた仕事を別の人にも分ける事をワークシェアリングというが、分けた人は仕事がその分だけ減るのだから労働時間が短くなる。

(2)は新しい産業の創出じゃ。たとえば携帯電話など情報端末がそうじゃ。技術革新によって低コストで高性能化された製品が開発され、それが需要を生み出した。いままでに無かった商品の生産が開始されることで、その生産のために新たに人手が必要とされるようになれば、求人が増えて失業者が減る。先ほどの例では食料の生産しかしていなかった人々が、新たに衣類の生産を始めることで失業が解消された。それと同じじゃ。そのためには人々の需要を喚起したり、新たな商品を開発するための技術革新が求められておるんじゃ。

(3)は分配政策じゃ。その例は年金制度じゃ。年金財源が騒ぎになっておるが、あれは本質論とはまるで無関係じゃ。本質的には生産年齢人口で日本社会全体が必要とする財(商品やサービス)の生産を賄うことが可能かどうかが問題じゃ。もし可能ならそれは分配で解決できる。そして、もし失業率が高止まりして解消しないのであれば、定年退職の年齢を引き下げて60歳とか55歳とかにするのじゃ。すると生産年齢人口が減少するため人手不足となり、失業が解消される。ただし日本の場合は少子高齢化によってすでに生産年齢人口が減少しつつあるため、その影響とのバランスが重要となる。

ただし、貨幣市場経済システムの元では失業問題が複雑化しているため(1)~(3)の政策判断が難しい。これもおカネが絡んでおるから複雑なんじゃ。

(ねこ)

おカネが絡むと難しくなるのかにゃ?

(じいちゃん)

そうなんじゃ。貨幣市場経済システムの場合は「不況による失業」という、別の失業があるからじゃ。たとえば、最初の例で言えば、50人が食料を生産して50人が衣類を生産することで失業が解消されたわけだけど、もし人々が「衣類はいらない」と言い出したらどうなるか?50人は再び失業してしまう。つまり需要が不足すると失業が増加するんじゃ。ではなぜ需要が減るのか?一般的に考えて衣類が必要なくなることはあり得ない。しかし人々におカネが無かったらどうなるか?欲しいと思っても買えない、だから需要が無くなるのじゃ。不況になると世の中のおカネが回らなくなり、人々の給料が減ってしまう。これが需要を減少させて失業を生んでおるのじゃよ。

つまり、貨幣市場経済システムの元では、生産性が向上して失業するだけではなく、おカネが回らないから失業する場合が多い。これが問題を非常に複雑にしておるのじゃ。

(ねこ)

困ったもんだにゃ。

(じいちゃん)

まったくその通りじゃ。しかも失われた20年ではそれを放置しておった。こうしたことを考えてみると、失業問題を考える時は、おカネが回らないために発生している失業と、そもそも生産性の向上によって発生する失業をきちんを分けて考え、それぞれに対策が必要なことがわかるのじゃ。そして失業問題に関してまず最優先なのは、世の中のおカネが回らないことで発生しておる失業問題を解決することじゃ。これがいわゆるデフレ脱却に該当する。そのうえで、生産性の向上による失業対策と少子高齢化による人手不足のバランスを検討する必要があるのじゃよ。そうした優先順位を無視してすべての政策を同時に講じれば、社会構造に不必要な歪みをもたらすリスクは避けられんじゃろう。

にもかかわらず、現在は経済政策に関するマスコミや識者の主張は百家争鳴でわけがわからん。根本的な原因を理解して、そこを原点として分析してゆかなければ混乱するだけじゃと思う。年金問題も解雇規制の問題も移民問題も、すべてそこに関連してくる。

だが、体系的、総合的にそんな事を考えておる奴らは誰もおらん。何か問題が発生すれば、ワーッとマスコミが集まってきて騒ぐ、別の問題が発生すれば、またワーッとマスコミが集まってきて騒ぐ。まさにマスコミによる愚衆政治のような様相じゃと思うのじゃよ。