ヘリコプターマネーQ&A

2016.3.27

Q:

ヘリコプターマネーって何だにゃ?最近、ちらほら聞かれるようになったにゃ。

A:

ヘリコプターマネー(以下ヘリマネ)は「通貨を発行して財政政策を行う」という政策手法じゃ。財政政策には公共投資や社会福祉、教育、国防など、あるいは国民に給付金を支給する政策があるが、そうした財政政策は基本的に税収を財源として行われる。しかし景気変動などで税収が不足する場合は国債を発行することで、一部の財源を政府が借金して調達することもある。じゃが日本も世界の国々も政府が膨大な借金を抱えておる。じゃから借金をするのではなく、通貨を発行して財源にすべきとの考えがある。これがヘリマネじゃ。ただしヘリマネという言葉は使う人によって意味が少し変わる場合がある。

ヘリマネの考え方はずっと昔からあるのじゃが、マスコミや識者が「ヘリマネは禁じ手だ」とレッテルを貼り続け、話題にすることも避けられてきたんじゃ。じゃが深刻な不況に苦しむ欧州でECB(ヨーロッパ中央銀行)のドラギ総裁がヘリマネを「興味深い」と発言したことで、欧米ではちょっとした騒ぎになっておる。日本はマスコミがほとんど無視しておるから、まだまだ認知度は低いんじゃが。

Q:

ヘリコプターマネーの意味は使う人によって少し違うの?

A:

財政政策にもいろいろやり方があるからのう。たとえば通貨を発行して国民に給付金として支給するやり方をヘリマネと言う人もいるし、おカネを刷って公共投資を行う事をヘリマネと言う人もいるし、その両方を指す人も居るんじゃ。ただし「通貨を発行して財政政策を行う」という意味では同じじゃ。なかには、日銀が現在行っている量的緩和をヘリマネと勘違いしている人までおるが、これは違う。

Q:

ヘリコプターマネーと量的緩和の違いは何かにゃ?

A:

日銀の量的緩和の場合は通貨(現金)を発行して民間銀行から国債を買い取っておる。じゃから通貨を発行している点ではまったく同じじゃ。じゃが量的緩和で発行された現金は民間銀行の金庫(日銀当座預金口座)に振り込まれる。これを利用して民間銀行が企業や個人におカネを貸すことで通貨が世の中に流れだす。じゃから、誰かが借金をしない限り、おカネは金庫に眠ったままで、まったく世の中に流れださんのじゃよ。じゃから日銀は必死になって金利を下げ、おカネを貸そうとしているんじゃ。

一方、ヘリコプターマネーの場合は通貨を発行してそれを財源として政府が財政政策を行う。たとえば公共事業の業者におカネが支払われたり、介護施設の充実におカネが使われたり、年金や給付金として国民に支給されたりする。つまり、誰も借金しなくともおカネが世の中に流れだすというわけじゃ。これだと金利を下げなくとも必ず世の中におカネが流れ出す。マイナス金利にする必要も無い。

量的緩和とヘリマネのもっとも大きな違いは「後々、おカネが減るか減らないか」にある。どういうことか。量的緩和で世の中におカネが増える場合、そのおカネはすべて「借金」じゃ。借金は返済しなければならんので、いずれ返済されて消失してしまうおカネじゃ。借りたおカネが返済されることで世の中のおカネが減ることを「通貨収縮」と呼ぶ。一方でヘリマネのおカネは返済する必要が無いので、発行されたおカネが消えることは無い。つまり、量的緩和は通貨収縮の可能性があり、ヘリマネは通貨収縮の可能性はない。

Q:

通貨が収縮すると問題があるの?

A:

通貨が収縮すると世の中のおカネの量が減るので、一般にデフレ不況となる可能性がある。じゃから例えば米国の金利が上昇したり、中国の景気が悪くなると、おカネを借りる人がますます減って通貨収縮が始まり、不況に逆戻りする可能性がある。一方、ヘリマネのように通貨が収縮しなければ景気は悪くなりにくいが、逆に景気が良くなり過ぎてインフレになる可能性がある。ただし国内外の経済構造や経済状況によって一概には言えない場合もあるんじゃ。そこがややこしいところじゃ。なお、ヘリマネの場合でも通貨を収縮させる方法がある。それが増税じゃ。増税すれば通貨を減らすことができる。

Q:

ヘリコプターマネーは国債を増やすって聞いたけど、本当なの?

A:

ヘリコプターマネーによる通貨の発行方法には大きく2つのやり方があるんじゃ。一つは日銀が国債を直接買い取る方法(日銀の直接引き受け)、もう一つは政府コイン(政府通貨)を発行する方法じゃ。国債を増やさなくてもヘリマネは可能じゃ。10兆円のヘリマネを考えてみよう。

一つ目の方法は、政府が新たに10兆円の国債を発行し、その国債を日銀が買い取って資産に計上する。その見合いとして負債に10兆円の現金を計上して、おカネを発行するんじゃ。この場合は確かに国債を増やすことになる。つまり政府はいずれ日銀に借金を返す必要がある。しかし、日銀は政府の銀行じゃから、ず~っと借りっぱなしでも文句は言われない。たとえば無利息10年国債を、10年ごとに借り換え続ければ、政府は事実上返済しないことになる。永久国債を発行すれば、そもそも返済の必要もない。つまり通貨収縮は起こらない。政府が日銀に借金を返済した段階で通貨が収縮する。そのためには増税が必要じゃが、それは景気が過熱した時を見計らって行なえばよいじゃろう。

二つ目の方法は、政府が10兆円コインを発行し、そのコインを日銀に預金することで日銀の資産に計上する。その見合いとして負債に10兆円の現金を計上しておカネを発行するんじゃ。この場合は政府が日銀にコインを預けたわけじゃから、政府の借金はまったく増えない。もちろん日銀に返済する必要もない。国には通貨発行権という国民の主権があるので、おカネを発行できる。実際、現在でも500円、100円などの貨幣は政府が発行するので、政府が10兆円コインを発行しても問題ない。この方法はオバマ大統領が2013年に提案した方法じゃ。実際には実行されなかったが、この時は禁じ手だとか、狂っているとかマスコミから叩かれまくった。しかし、このどちらの方法でも帳簿上はまったく何の問題もないんじゃ。要するに、この考えを「受け入れるか、受け入れないか」の問題じゃ。

Q:

ヘリコプターマネーでハイパーインフレになると騒ぐ人がいるけど

A:

それは間違いじゃ。たとえば市場に国債を売って10兆円の財政支出をしても、ヘリマネで10兆円の財政支出をしても、インフレになるリスクはほとんど同じじゃ。なぜなら、借金して10兆円のおカネを使っても、おカネを刷って10兆円のおカネを使っても、市場に流れ込むおカネの量はまったく同じ金額だからじゃ。おカネが増えるからインフレになるのではない。おカネが使われるからインフレになるんじゃ。もしヘリコプターマネーでハイパーインフレになるというなら、国債を発行してもハイパーインフレになるはずじゃ。すでに日本は1000兆円も国債を発行しておるので、とっくにインフレになっておるはずじゃ。つまりハイパーインフレ説はウソじゃ。もちろん、国民一人あたり一億円を配ったらハイパーインフレになるじゃろ。それは極論じゃ。要するに「やりかた次第」なんじゃよ。

Q:

ヘリコプターマネーは日銀の損失になるの?

A:

政府コインを使っておカネを発行する場合は、どう考えても日銀の損失にならない。我々が銀行に預金するのと同じじゃからな。我々が銀行におカネを預けて銀行が損することは無い。日銀が国債を引き受けた場合も損失にはならないが、日銀が国に貸したおカネが返済されないという点を執拗に追及する人がおる。これで日銀のバランスシートに穴が開くというのじゃ。無意味な批判じゃが、こういう批判を避けるためには、政府コインを発行して日銀に預金する方が良いじゃろう。

Q:

政府10兆円コインは10兆円の価値が無いという話があるにゃ

A:

そもそもおカネに価値などない。おカネとは何か?そもそも物々交換が不便じゃから、交換の媒体として発明されたものじゃ。じゃから昔のおカネは貝殻とか石とか、価値のないモノじゃった。最近はビットコインまで出現した。あれこそまったく何の価値もない。じゃが、そのおカネは交換に使われることで価値を生み出すんじゃ。おカネに価値があるのではなく、おカネを使うことで価値が生み出される。もし政府が10兆円の支出を行えば、それが経済活動を引き起こして10兆円の価値が生み出されることになる。それが真相じゃ。

今回はここまでじゃ。

「ヘリコプターマネーの参考リンク集」

[FT]ヘリコプターマネー擁護論 日本でも有効(日経新聞)→お勧めの記事

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1307A_T10C13A2000000/

空から金のヘリコプターマネーにわかに注目-中銀直接引き受け可能か(ブルームバーグ)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-03-23/O4H16G6K50XV01

ヘリコプターマネーの有効性(大和総研コラム)

http://www.bank-daiwa.co.jp/support/dir_column/2016/0226_2296.html

コラム:ヘリコプターマネーの悲劇=佐々木融氏(ロイター)

http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-tohru-sasaki-idJPKCN0WQ0RJ

※ロイターはヘリマネに極めて強い反対の論陣を張っているようです。

コラム:ヘリコプターマネー、ECBの選択肢となるか(ロイター)

http://jp.reuters.com/article/markets-saft-idJPKCN0X509O?pageNumber=1