硬貨と紙幣の違い=政府通貨と銀行券の違い

2015.6.27

(じいちゃん)

おカネには10円や500円などの硬貨と、1000円や10,000円などの紙幣がある。ところで硬貨と紙幣の本質的な違いは何じゃと思う?

(ねこ)

う~ん、わからないにゃ。硬貨は金属で作られているし、紙幣は紙だにゃ。それ以外だと、そうにだにゃ、硬貨は「造幣局」が作ってるけど、紙幣は「国立印刷局」が作ってるのにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな、普通の人はそこまで知っていれば上出来じゃろう。じゃが本質的な違いはもっと別にある。これはいわゆる「偉い人」でも知らない人が多いから、試しに質問してやると面白いぞ。硬貨と紙幣の本質的な違いは「どこが発行しておるか」の違いじゃ。硬貨は政府が発行するが、紙幣は日銀が発行するのじゃ。作っているところは造幣局や国立印刷局じゃが、それは作らせているだけの話であって、発行しているのはそれぞれ政府と日銀なのじゃ。

それが証拠に、硬貨を見てみればよい。硬貨には「日本国」と刻印されておる。つまり日本政府が発行しておるのじゃ。そして紙幣には「日本銀行券」と印刷されておる。紙幣はつまり日本銀行が発行する銀行券ということじゃ。

(ねこ)

へぇ~知らなかったのにゃ、てっきり硬貨も紙幣も日本銀行が発行していると思っていたのにゃ。なんで硬貨は政府が発行して、紙幣は日本銀行が発行するのかにゃ。めんどくさいにゃ。

(じいちゃん)

それにはふか~い訳があるんじゃ。というのも、貨幣と銀行券は歴史的にまったく別の起源から生まれたものだからじゃ。この違いを現代社会ではあっさりと聞き流しておるようじゃが、これはおカネの本質にかかわる重要な違いじゃから、ぜひねこにも知ってもらいたいのう。

(ねこ)

硬貨と紙幣の起源が、歴史的に違うなんて知らなかったのにゃ。てっきり、金や銀が少なくなったから、紙のおカネにしたのかと思っていたのにゃ。不思議なのにゃ。教えてほしいにゃ。

(じいちゃん)

昔のおカネは硬貨じゃった。その当時は紙幣は存在しておらん。たとえばローマ時代にはローマ金貨があって、ローマ帝国つまり政府が金貨を鋳造しておった。また江戸時代では江戸幕府が大判、小判を鋳造しておった。ローマ帝国や幕府は「金山」「銀山」を所有しておったから、そこで金や銀を採掘して硬貨を作るのじゃ。もちろん、政府の役人が作るわけじゃなくて、職人が作るのじゃが。つまり昔のおカネである「硬貨」は基本的に政府が発行しておったわけじゃ。そして作った金貨や銀貨を使って劇場を作ったり、城を作ったりしたのじゃ。ず~っと昔のローマの時代から、硬貨は政府が作ってきた。じゃから今の日本でも、硬貨を政府が発行したとしても何ら不思議ではない。

(ねこ)

なるほどにゃ、だから100円や500円には「日本国」って刻印がされているんだにゃ。それじゃあ、政府が紙幣も発行すればいいんじゃないかにゃ。

(じいちゃん)

確かに日本銀行ではなく、政府が発行する「政府紙幣」という考え方もある。江戸時代には藩が発行した藩札があったり、明治初期の日本では政府紙幣が発行されたこともある。じゃが現代の社会では、なぜか政府紙幣の発行を主張すると大騒ぎになって止められてしまう。まあ、それはそれとして、紙幣の起源について説明しよう。これはちとややこしいぞ。

時代が進んでくると、金貨や銀貨などの貨幣が世の中に普及して、そうした金銀財宝をたくさん保有している「カネ持ち」が登場してくる。こうしたカネ持ちの持っている金貨や銀貨を狙って、強盗を企てる輩も出てくるようになる。こうなると自分の屋敷に金貨を保管しておくのは物騒じゃ。そこで金貨を強力な護衛兵に守られた金庫に預けるのが安心じゃ。そのような要望が増えてくると、強力な護衛兵に守られた「金庫業者」のような商売をする人たちが現れてきたのじゃ。

彼らは、カネ持ちから金貨を預かると、「預り証」を発行して、この預り証をカネ持ちに渡したんじゃ。そしてカネ持ちが金貨を返して欲しいときは、この預り証を金庫業者に持っていけば、引き換えに金貨を受け取ることができたんじゃ。この預り証が紙幣すなわち「銀行券」の始まりだとされておる。

(ねこ)

紙幣の始まりは「金貨の預り証」だったんだにゃ。金貨と交換できる預り証なのにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃ。そしてこの預り証が便利だったのじゃ。というのも金貨は重いし、大量に持ち運ぶのは物騒じゃ。そこで金貨の換わりにこの預り証を持ち歩いて売買を行うようになった。たとえばカネ持ちがお肉を買いに肉屋へ行き、そこで肉を買って預り証で支払うのじゃ。肉屋は好きなときに預り証をもって銀行へ行き、いつでも銀行から金貨を受け取ることができる。そうなると、いちいち銀行から金貨を引き出さなくても、この預り証を使って肉屋が農家から豚を仕入れることもできる。こうして預り証だけで取引が行われるようになり、これが「銀行券」になったと言われておるのじゃ。だから、今でも紙幣は政府ではなく、銀行が発行しておるのじゃ。そして金貨を預かっていた金庫業者は銀行になったのじゃよ。

(ねこ)

面白いにゃ、金庫業者が銀行になって、金貨の預り証が銀行券になった。だから今でも紙幣は銀行が発行しているんだにゃ。なるほど、貨幣と紙幣は起源がまるで違うのにゃ。

(じいちゃん)

こうして銀行券が金貨の換わりにおカネとして使われるようになったが、あくまでも銀行券は金貨と交換できることが原則じゃった。これがいわゆる「金本位制」と呼ばれる制度の最初じゃ。日本でも世界でも、第二次世界大戦より前の時代では、金本位制と呼ばれる通貨制度が主流じゃった。これは、紙幣を発行するための裏づけとして銀行が「金」を準備しておくのじゃ。そして、金1グラムいくら、という感じで紙幣を発行するわけじゃ(例えば1オンス35ドル)。じゃから銀行が保有しておる金の量によって、発行できる紙幣の量が決まる仕組みじゃ。

しかし、国際的な貿易がどんどん盛んになると、貿易の赤字や黒字によっておカネがどんどん海外へ流出する国が現れるようになった。金本位制の場合は、おカネと金を交換できる約束になっておるから、だんだんと金が流出して、国内のおカネが足りなくなってしまい、経済に悪影響が出るようになったんじゃ。それで金と紙幣の交換を停止して、金が無くてもおカネが発行できるようにしたのじゃ。これが「管理通貨制度」と呼ばれる制度じゃ。この場合は、金とは無関係に紙幣を発行できる。金と無関係に紙幣を発行するのであれば、やろうと思えばいくらでも発行できる気がするが、そうではない。

(ねこ)

金とは無関係だけど、何か別のものと関係があるの?

(じいちゃん)

その通りじゃ、管理通貨制度では金の代わりに「国債」が用いられるのじゃ。日本銀行が紙幣(日銀券)を発行する際には、何らかの資産が必要になる。金本位制のときは金が資産だったのじゃった。しかし金が使えなくなったので、代わりに何らかの資産が必要になった。そこで今日では日銀が主に国債を民間銀行から買い入れて、日銀券を発行しておるのじゃ。他にも民間銀行への貸付として日銀券を発行することもある。いずれにしても、銀行券はもともと「預り証」だったわけじゃから、何らかの資産の裏づけがないと発行できない仕組みなんじゃ。それは資産を管理する「帳簿」がそういう仕組みになっておるからじゃ。その帳簿が「バランスシート」なのじゃが、まあそれはいずれ説明しよう。

それに対して、政府が硬貨を発行する場合は、裏づけとなる金は必要ないし、国債も必要としない。考えてみると昔のローマ帝国や江戸幕府が硬貨を発行する際には、裏付けとなる資産は必要なかったわけじゃ。もちろん、昔の金貨は金そのものに価値はあったがのう。じゃから現在の政府が硬貨を発行する際にも裏づけは当然ながら必要ないわけじゃ。

(ねこ)

なるほど、結局のところ、硬貨は昔から国や政府が発行していたから「政府通貨」なのにゃ。政府通貨を発行するには裏づけは必要ない。それに対して紙幣は銀行が発行していたから「銀行券」なのにゃ。そして銀行券を発行するには裏づけとなる資産が必要なのにゃ。う~ん、こんな基本的なことも学校では教えてくれないにゃ~。

(じいちゃん)

まあ学校では教えたくないこともあるのじゃろう。なお、銀行券にしても政府通貨にしても、その発行を決める権限は最終的に「政府」にあるはずじゃ。なぜなら民主主義の今日ではおカネを発行する最終的な権限は国民にあるからじゃ。これが「通貨発行権」と呼ばれる国民の権利じゃな。一つの国が一つの通貨を持つのはそのためじゃ。

しかし世界的な大実験がEU(欧州連合)で行われた。これが「ユーロ」すなわち統一通貨じゃ。これによって通貨発行権が国民の主権からはく奪されたのじゃ。まあ、その話は別の機会にしようかの。