財政再建・政府通貨とバランスシート

2016.7.10

(じいちゃん)

財政再建をバランスシートを使って考えてみよう。今回は政府、日銀、民間銀行、家計等の4部門のバランスシートを並べて考える。ややこしいと思うかも知れんが、ここまでの話が理解出来れば難しくない。今回は作図をさらに単純化するため、各部門の資産と負債だけを並べて純資産は省略した(変化しないから)。財政再建とは政府の借金返済つまり国債を償還することにある。国債発行によるバランスシートの関連を図にしてみた。

(図G-1イ)政府が国債を発行し、通常はこれを民間銀行が購入する。仮に①政府が1000兆円の国債を発行して、民間銀行がこれをすべて保有していたとする。これにより②民間銀行では預金が発生する。その預金は③家計等(企業や海外含む)などの金融資産として保有されているのじゃ。すなわち、政府の国債によって家計等の金融資産が生まれている状況がわかる。国債を保有しておるのは民間銀行じゃから、国債を償還する場合は政府は民間銀行へおカネを返済しなければならない。このおカネは国民から税として強制的に徴収されるため、④国民は民間銀行に対して返済義務があることになる。そして、財政再建とは税を通じて国民の金融資産を民間銀行へ返済することだとわかる。返済する際には当然じゃが銀行に利息も支払うから、これが銀行の儲けとなる。

(ねこ)

うにゃ!、こういう話は初めて聞いたにゃ。バランスシートから考えるとそうなのかにゃ。

(じいちゃん)

左様じゃ。新聞マスコミ御用学者はバランスシートの話は一切しない。バランスシートとはストックから見る視点じゃ。一方、税収はストックではなくフローから見る視点じゃ。新聞マスコミ御用学者はいつもストックではなくフローの話をするから、ワシのような話は初めて聞くことになる。

(図G-1ロ)次に、日銀が量的緩和をどんどん進めて、すべての国債を買い切ってしまった場合がこれじゃ。これを説明すると①政府が1000兆円の国債を発行しているが、その国債はすべて日銀が買い取ったので、②すべての国債を日銀が保有している。③日銀が国債を資産に計上すれば負債として現金が発生する。この現金は民間銀行から国債を買い取る際に銀行へ支払った。じゃから③現金が民間銀行に積まれる。④民間銀行に積まれた現金は預金でもある。⑤この預金が家計等の金融資産となっている。

では、先ほどの図と何が違うのか?日銀が国債を全部買い切っても、家計等の金融資産の額に変わりはない。民間銀行では、資産として国債の代わりに現金が積まれただけで、預金や資産の総額に変化はない。最も大きな違いは「誰に政府の借金を返済しなければならないか」じゃ。つまり⑥国民は日銀に対して返済義務がある。当然じゃが、民間銀行はもはや関係ない。国民は税を通じて日銀に金融資産を返済する義務を負うのじゃ。

(ねこ)

へ~面白いにゃ。こんなこと、誰も言わないのにゃ。

(じいちゃん)

まあ、いろいろ解釈の仕方はあるんじゃよ。一つのモノの見方、マスコミの見方だけに縛られてはいかんのじゃ。さて、実際のところ、国債を保有するのが民間銀行であろうと日銀であろうと、国民が金融資産(つまり預金)を取り崩して国債を返済ことに変わりはない。これが財政再建の意味じゃ。ただし両者には大きな違いがある。これは前にも説明したことじゃ。民間銀行には絶対に返済しなければならないが、日銀であれば政治判断で「借り換え」ができる。返した瞬間に再度借りれば良い。もちろん政治判断が必要じゃから、国会、国民の判断が求められるじゃろう。じゃが、借り換えができるのであれば、実質的には返済しなくて良いことになる。従って、日銀がすべての国債を保有すれば、事実上、財政再建したことになるんじゃ。仮に半分を保有すれば、財政再建は半分完了したことになる。ちなみに国債の四分の一はすでに日銀が保有しておるので、財政再建の25%は完了しておる。

(図G-1ハ)事実上、財政再建が完了したと言っても信じられない場合は、日銀と政府のバランスシートを統合(合算)してみることもできる。統合する場合はどうするか。政府は負債として国債を保有し、日銀は資産として国債を保有しておるので、資産と負債の相殺で国債は消える。その結果現金だけ残り、①「政府・日銀」では負債として現金を発行した形になる。日銀が発行しようと政府が発行しようと、現金は現金じゃ。ただし日銀が発行すれば銀行券じゃし、政府が発行すれば政府通貨と呼ばれる。つまり形から言えば、これは政府通貨を意味すると考えられる。

このとき、民間銀行と家計等のバランスシートに変化はない。しかし意味が違う。政府と日銀が別々のときは「政府が発行した国債によって家計等の資産が生まれている」という意味になる。一方、政府・日銀統合では「政府・日銀が発行した現金によって家計等の資産が生まれている」という意味になる。

そして、返済義務はどうなったのか?④今回は家計等の金融資産を政府・日銀に返済する義務があると解釈できる。もちろん、政府が発行したおカネを政府に返済する意味があるとは思えんがのう。

(ねこ)

いろんな意味で驚きなのにゃ。図G-1イ、ロ、ハのどの図を見ても、家計等の金融資産の額はまったく同じなのにゃ。なのに、イは国民が金融資産を返済する義務があるけど、ロは事実上返済の義務なし、ハはそもそも返済する意味がない。う~ん、だったら最初からハが良いとおもうにゃあ。

(じいちゃん)

ワシもそう思うが、恐ろしいことに歴史上、政府通貨を発行した政治家は必ず何者かに暗殺されるらしいからハは無理じゃろう。じゃからロが良いと思うんじゃ。つまり発行済みの国債を日銀が量的緩和ですべて買い切る。そして、新規国債はすべて日銀が引き受ける。新規国債を日銀が引き受けるとは、ヘリコプターマネー=財政ファイナンスのことじゃ。そして図において、ロは財政ファイナンスの状態、イはそうではない状態を示す。しかし両者を比較しても家計等の金融資産はまったく同じというわけじゃ。つまり普通の国債発行も財政ファイナンスもマネーストック(世の中のおカネ)として見た時はまったく同じじゃ。

(図G-2)ちなみに、先ほどの日銀・政府統合の場合、現金を負債として発行しておる。負債と聞けば条件反射的に「借金は返済すべき」という頭の人がいるので別の方法を示してみた。現金を負債としてではなく、純資産として発生させた場合じゃ。バランスシート上はどちらでも何の問題もなく整合する(左右のバランスは崩れない)。通貨を負債とみるか資産とみるかは考え方次第じゃろう。金本位制のように通貨発行量を何らかの実物資産に基づいて制限する必然性が無い限り、どちらでもシステムとして問題なく機能するじゃろうと思う。

以上より

①国債が市中消化された場合、国民は金融機関に返済義務を負う

国債は、銀行、保険会社などがほとんど保有している。そのため国民は自らの金融資産を取り崩して金融機関に返済しなければならない。これが増税の本質的な意味。たとえ税が消費税だろうと、所得税だろうと、金融資産課税だろうと、金融資産を切り崩す結果となる。

②財政再建は金融資産課税が合理的

バランスシートからわかるように、財政再建とは家計等の金融資産を切り崩して国債を償還(返済)すること。じゃから消費税を増税などせず、金融資産そのものに課税して財政再建するほうが合理的で明快。なぜなら政府の負債はストックの問題だから。金融資産課税で国債関連の歳出をすべて補えば、これまでの国債関連の歳出を社会保障財源に振り替えることで社会保障財源は潤沢になる。

③日銀がすべての国債を買い切ると、国民は日銀だけに返済義務を負う

民間金融機関の国債は必ず返済する必要がある。しかし日銀の保有する国債は借り換えができるので、事実上、返済の必要はなく、この時点で財政再建が完了したと言える。もちろんインフレ等の状況によっては、日銀に返済して家計等の金融資産を消滅させても良い。

④日銀がすべての国債を買い切ることは、政府統合で考えた場合は通貨発行と同じ

つまり、国債発行と通貨発行は本質的に同じ意味を持つ。違いは金融機関(銀行など)に利息を払うか払わないかの違い。当然だが金融機関は国債発行を望むことになるが、利息は国民の税で支払われる。

⑤マネーストックから見れば、国債市中消化も財政ファイナンスも同じ

マネーストックから見れば、国債市中消化も財政ファイナンスも同じ。ただしマネタリーベースから見れば違いがある。なお預金準備率を100%にするとマネタリーベース=マネーストックとなり、世の中のおカネの総額は常に中央銀行の発行した現金総額と同じになる(これは100%マネーと呼ばれる考え方)。

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