通貨制度とは何か (信用通貨と政府通貨)

2016.5.15

(じいちゃん)

マクロ経済の運営ツールについて、今回は通貨制度について説明しようと思う。通貨制度は経済運営に極めて重要なんじゃが、どういうわけか無視されておる。というか、そもそも通貨制度には2種類ある事すら新聞マスコミは絶対に触れない。現行の「信用通貨制度」がまるで永遠不変の原則のように経済運営の前提となっておるが、ここには大きな問題も潜んでおるんじゃよ。

(ねこ)

通貨制度には2種類あるの?

(じいちゃん)

通貨制度には大きく二種類あると考えておる。

①「信用通貨制度」・・・借金によって通貨を作り出す制度

②「政府通貨制度」・・・資産として通貨を作り出す制度

①信用通貨制度

現在の通貨制度はこれじゃ。この通貨制度の最大の特徴は、通貨はすべて誰かが銀行から借りた借金によって生まれることにある。これは本当じゃ。その証拠に世の中の金融資産と金融負債の合計は必ずゼロとなる。この事が極めて重要なんじゃ。この仕組みは本サイトでは何度も説明しておるが、簡単に説明するとこうじゃ。現金は日銀が発行する。しかし発行しただけでは世の中に供給されない。この現金を民間銀行が日銀から借りるんじゃ。そして日銀から借りた現金を元にして、民間銀行が企業や個人に貸し付ける。これによって初めておカネが世の中に流れだすんじゃ。誰かが借りることで世の中におカネが供給されるということは、世の中のおカネはすべて借金から出来ていることになる。逆に言えば、世の中の企業や個人がおカネを借りなければ、世の中のおカネはすべて消滅して経済はマヒする。これはバランスシートという帳簿の性質上、必ずそうなる。

つまり、現代の資本主義経済は「借金経済システム」だと言えるんじゃ。誰かが常に借金し続けなければ経済がマヒしてしまう。今は世界不況でおカネを借りる人が減っている。だから、日銀が必死になって企業や個人の貸し出しを増やそうと金利を下げておるんじゃ。

(ねこ)

誰かが借金しないとおカネが消えて経済がマヒする制度なんて、根本的におかしいにゃ。でも、どうして今まで問題にならなかったのかにゃ?

(じいちゃん)

そこが重要じゃ。高度経済成長期のように経済成長が著しい時代では、投資によって儲けが出る。じゃから銀行から借金して投資する企業や個人がいっぱい居たんじゃ。だから世の中の借金がどんどん増え、それによって世の中のおカネもどんどん増えたんじゃ(信用拡大)。するとおカネの不足によって生じるデフレのような問題は生じない。むしろ借金が多いために世の中のおカネの量も過剰になり、インフレになるんじゃ。だから、経済成長率が高い時代では、資本主義が借金経済システムであったとしても問題にならなかった。

ところが世界経済は低成長の時代となり、投資しても儲からなくなった。こうなると銀行から借金する人がどんどん減る。すると世の中の借金がへるから、同時に世の中のおカネが減少し、デフレとなる。

このデフレは企業や個人が借金をしないから生じている。放置すれば世の中のおカネはどんどん減る(信用収縮)。そこで仕方なく政府が借金するんじゃ。これによって政府の借金が増えるが、世の中のおカネの量は維持できる。この維持されているおカネが家計や企業の貯め込んでいる金融資産=預金なんじゃよ。ところが、財務省が騒ぎ始めた。国の借金ガーじゃ。しかしすでにお分かりのように、政府の借金を返済すると世の中のおカネの量が減るから家計や企業の貯め込んでいる金融資産は激減するはずじゃ。

このように、経済成長率が低下した時代になったため、信用通貨制度の矛盾が明らかになってきたんじゃ。この矛盾をごまかすためにグローバル化が推進されておるとも言える。多くの人は新聞マスコミによって洗脳されておるので、通貨制度はこの信用通貨制度しかないと信じ込んでおる。しかし通貨制度には別の選択肢もある。

②政府通貨制度

歴史的にはこの制度の方が遥かに古い。この通貨制度の最大の特徴は、通貨は借金と無関係に供給される点にある。じゃから世の中の金融資産と金融負債の合計は必ずプラスになる。この事が極めて重要じゃ。つまりこういう事じゃ。先ほどの信用通貨制度の場合、おカネは誰かが借金しないと生まれないため、常に誰かが借金する必要があった。政府通貨制度の場合は誰も借金しなくてもおカネは生まれる。だから世の中のおカネの量を維持するために政府が借金する必要はまったく無い。

具体的な通貨供給のしくみはこうじゃ。まず日銀が現金を発行する。これを政府が財政支出で使用し、インフラや医療・社会福祉などに使う。これで世の中におカネが流れ出す。実に簡単じゃ。ただしこの方法を高度経済成長の時代に行うと大変な事になる。高度成長期にはただでさえ借金して投資する企業や個人が多くて、世の中のおカネが増えているのに、政府が財政支出なんかしたら、おカネだらけになってインフレが激しくなるんじゃ。これが可能なのは先進国が低成長の時代に移行したからじゃ。そういう時代になったんじゃ。

つまり、高度成長の時代と低成長の時代で、同じ通貨制度を使い続ける必然性はない。それぞれに適した通貨制度を選択すべきということじゃ。そして、信用通貨制度と政府通貨制度をミックスして運用することも可能じゃ。時代の変化に合わせて柔軟に対応すべきじゃが、新聞マスコミは必死になって①信用通貨制度を擁護し、②政府通貨制度を批判する。つまり、政府通貨制度の場合は、おカネを発行して財政支出を行なうことによって世の中におカネを供給するが、「それは財政ファイナンスだから禁じ手だー」と言って猛反対する。新聞マスコミが反対する理由はおそらく次のようなことじゃろう。①信用通貨制度は銀行に利益をもたらすが、②政府通貨制度は銀行に利益をもたらさない。つまり銀行の金利収入が減るので銀行権益にからむ人々は猛反対する。世の中はそんなもんじゃよ。

(ねこ)

結局は、カネへの欲望が世界を支配してるんだにゃ。

<余談>

(じいちゃん)

そもそもおカネは制度として生まれたものではない。国つまり政府が誕生する以前から物々交換の媒介として何らかのモノを利用することで、原初のおカネの概念が生まれたんじゃ。古代のおカネは政府が作るわけではないので、黒曜石のような矢じりの原料が使われることもあった。実用品じゃな。つまり実際に使用価値があって、腐らない(価値が保存される)ものがおカネとして利用されていたらしい。

国家が誕生すると、国つまり政府がおカネを発行するようになった。ローマ時代や江戸時代にはおカネは政府が発行しておった。これが「政府通貨」じゃ。多くの場合は金貨や銀貨のような貨幣がおカネとして作られたんじゃ。金や銀は実用品でもある。だから実際に使用価値があるし腐らない(価値が保存される)。そいうものをおカネとしていた。政府は金山や銀山を保有して金を掘り起こし、おカネを作った。そのおカネを使って城や公共の建物を建設したわけじゃ。

こうしたおカネは社会で流通する。するとおカネを貯め込む金持ちが現れたんじゃ。こうした金持ちはしこたま金貨や銀貨を貯め込んだが、こうなると泥棒に狙われる恐れが出てくる。そこで、武装した警備員に守られた貸金庫業者におカネを預けるのが安全じゃ。貸金庫業者は預かった金貨や銀貨の預り証を発行したんじゃ。そしてこの預り証を貸金庫業者に渡すと、いつでも金貨を引き出すことができる。この預り証がのちに銀行券(紙幣)となるんじゃ。たとえば金持ちが金貨1枚の預り証をもって肉屋で肉を買う。すると肉屋はこの預り証をもって貸金庫業者へ行けば金貨1枚と交換できるわけじゃ。じゃから、いちいち金貨を使って売買する必要はないんじゃ。

こうして貸金庫業者は銀行となり、銀行券つまり紙の通貨が生まれた。しかし金や銀と違って、紙のおカネには何ら使用価値はない。なぜ価値があるかと言えば、金や銀と交換できるという信用があるからじゃ。これが「信用通貨」のはじまりじゃな。この信用通貨の問題は、信用がどんどん膨張することにある。金や銀などのモノと違って信用は膨張する。どういうことか。

銀行はおカネを貸して利息を稼ぐ。ところで銀行は預かった金貨を貸すのではなく、預り証である銀行券を貸し出していた。銀行券はそもそも預り証じゃから本来は金貨の量と銀行券の量は同じであるはずじゃ。ところが銀行は保管している金貨の量の何倍もの銀行券を発行して、それを貸し出すようになった。金貨の何倍もの銀行券を発行することを「信用創造」という。この信用創造の仕組みが現在の銀行制度の根本的な仕組みにもなっておる。ただし預かっている金貨の何倍もの預かり証を発行すれば、大勢の人が一度に金貨を引き出しに銀行へ来ると金貨が足りなくなってしまう。これが取り付け騒ぎじゃ。じゃから「銀行券を金貨の何倍まで膨らませてよいか」というルールが必要となる。これが準備預金制度と呼ばれる考えの原点となるんじゃ。現代ではおよそ50倍から100倍程度じゃ。こうしておカネが何倍にも膨らむため、バブル経済を引き起こす根本的な原因となる。

しかし、現代の民間銀行は昔の銀行のように金貨を預かっているわけではない。金貨の代わりに銀行が預かっているのが「現金」じゃ。銀行は預かっている現金の何倍ものおカネを「信用創造」で貸し付けておる。この時に貸すのは銀行券ではなく「預金」じゃ。預金は現金と同等に扱われるので信用通貨なんじゃ。こうして、もともとは「政府通貨」として発行されてきた金貨や銀貨などに代わって、銀行が「信用通貨」を発行するようになったんじゃ。つまり、こうした流れを見ても、通貨を発行する役割が銀行である必要性は何もない事がわかる。銀行がおカネを発行する役割を担うのは、単なる慣習に過ぎんのじゃ。だから、何も信用通貨に執着する必要はない。政府が政府通貨を発行することは自然じゃ。実際、500円や100円のような少額貨幣については日銀ではなく、今でも政府が発行しておる。そして、信用通貨の発行を中止して政府通貨を主体とする通貨制度にすれば、おカネが何倍にも膨らむことがなくなるため、バブル経済は発生しなくなるんじゃ。

こうした話は新聞マスコミには絶対に出てこない。ということは、「通貨制度は強烈なタブー」であって、非常に危険を伴う話じゃ。こんな事を平気で書いておると、このサイトもそのうち閉鎖されるか、ワシが暗殺されるも知れんのう。