量的緩和は日銀の国債の引受けで一石三鳥

2016.2.22

(じいちゃん)

「量的緩和は国債を日銀が直接引き受けで行うべきじゃ。それを財源とすれば大規模な財政支出が可能となり、金融緩和も同時に達成することが出来る、しかも最近の円高傾向に対しても円安効果が期待できる。まさに一石三鳥の政策じゃ。」

(ねこ)

「どういうことかにゃ?」

(じいちゃん)

「日銀は量的緩和政策において民間銀行が保有している国債を買い取っておる。この国債は過去に銀行が政府から買い入れたものじゃ。そして量的緩和では銀行から国債を買い取る際に買い取り代金として現金を発行し、この現金で銀行から国債を買い取っておる。そして日銀が発行した現金は銀行のいわば金庫に入ることになる。量的緩和政策では、銀行の金庫の現金を元にして企業や個人におカネを貸し出すことで世の中のおカネが増えることを期待するわけじゃ。

ところが現在の世界経済の状況を見ると最悪の状況じゃ。米国の金利引き上げによる途上国経済の減速が心配される中、中国のバブル経済がいよいよヤバイ局面を迎えつつあるらしい。中国政府は相変わらず強気の発言を繰り返しているが、輸出も輸入も大幅に減少しており、特に輸入は10%を超えるマイナスが続いておる。さらに、ここにきてにわかに円高が進行し、株価や原油などの資産価格も下落し、バブル崩壊に近い様相を示しておる。おまけにシリア情勢はまったく先が見えず、中国も南シナ海を中心に不穏な動きを繰り返している。

こんな状況では、銀行から積極的におカネを借りて投資しましょう、なんて呑気なことを考える企業などおらんじゃろう。ついに日銀はマイナス金利まで導入したが、世界的な危機が解消しない限り、マイナス金利に触発されておカネを借りる企業は投機筋くらいのもんじゃろ。なにしろ借りたおカネの金利がゼロでも元本の返済はあるわけじゃから、安易に借りれば首を吊ることにもなりかねんのじゃよ。」

(ねこ)

「日銀が国債を直接買い取ると、銀行から買う場合と何が違うのかにゃ。」

(じいちゃん)

「現在の量的緩和では日銀が銀行から国債を買い取るから、日銀が発行した現金はすべて銀行の金庫に入る。もし日銀が政府から直接に国債を買い取ると、日銀が発行した現金はすべて政府の金庫に入るんじゃ。すると政府はそのおカネを使って景気対策のための財政支出を行うことが可能になるんじゃ。こんな不安な世界情勢じゃと民間主導で経済を回復軌道に乗せるのは相当に困難じゃ。こういう場合は政府支出を増やして景気を刺激するのが常識だとされ、つい最近もIMFやOECDが各国の財政支出を増やす必要性に言及した。

ところが日本の場合はすでに公的債務が1000兆円を超えておるから、おいそれと財政支出を増やすことが出来ない状況なんじゃ。そこで日銀が国債を直接引き受けることで財政支出のためのおカネを調達するのじゃ。」

(ねこ)

「日銀が直接国債を買っても、国債が増えるんじゃないかにゃ。」

(じいちゃん)

「確かに国債の発行残高は増えることになる。じゃが日銀が保有している国債は実質的に返済する必要が無い借金なんじゃよ。もし日銀が保有する国債が満期になった場合でも、政府が借り換えのための国債を発行して差し替えれば返済しなくて良いからじゃ。もちろん民間が保有している国債なら借り換えなどできない。日銀が政府の銀行だからできることじゃ。

つまり、日銀が国債を直接引き受ける場合は、政府の借金が増える心配をすることなく、政府支出の財源を確保することが可能なのじゃ。」

(ねこ)

「なるほど、日銀の保有する国債は政府の借金としてカウントする必要がないのにゃ。ところで銀行の保有する国債を買い取らないで、代わりに政府から国債を直接買い取ったときも、金融緩和の効果はあるのかにゃ。」

(じいちゃん)

「あるのじゃよ。日銀が発行した現金は政府の財政支出を通じて、世の中の企業や個人に支払われるわけじゃ。すると、そのおカネは最終的に銀行に預けられることになる。銀行が人々から預かったおカネは銀行の金庫に入るから、結局のところ量的緩和と同じなんじゃよ。どっちの場合も銀行の金庫の中のおカネが増えるから、これを元にして企業や個人への貸し出しを増やすことができる。

なお、日銀が銀行から国債を買い取る場合と日銀引き受けの何が違うかと言えば、銀行から買う場合は銀行の帳簿にある預金の総量は増えないが、国債引き受けの場合は預金の総量が増える。銀行にとっては、預金が増えると預金者に支払う利息が増えるので困る側面もあるが、なにしろ預金金利はほぼゼロじゃ。影響はないじゃろ。

ついでに言えば、通貨の量と為替相場には非常に強い関連があって、通貨の量を増やせばほぼ間違いなく通貨安になるんじゃ。もちろん短期的な誤差は投機などの動きで必ず生じるが、長期的には必ず通貨量の多い通貨が安くなる。日銀の行っている量的緩和のペースは2016年で年間80兆円じゃ。例えば日本のGDPは約500兆円じゃから、とんでもない金額だとわかるじゃろう。このうちすべてと言わなくとも、たとえば40兆円を日銀引き受けにして、それで財政支出するとGDPが500兆円+40兆円=540兆円になり、単純に考えると8%も経済成長することになる。さすがにちょっとやり過ぎじゃな。ところで財政支出は何も公共事業、土木工事とは限らん。国民に給付金として配っても、それは財政支出じゃ。内需を拡大する手段はいろいろある。」

(ねこ)

「すごいにゃ、日銀が政府から国債を直接買えば、財政支出もできるし金融緩和にもなるのにゃ。景気が回復するし、金利も下がって投資も増えるし、ついでに円高も軽減されるのにゃ。日銀が国債を買うなら、銀行から買わずに政府から直接買うべきだにゃ。なんでそうしないのかにゃ?」

(じいちゃん)

「それは「日銀の国債直接引き受けは禁じ手ダー」という古臭い岩盤常識(固定観念)を唱えるマスコミや識者が大勢いるからじゃ。この古臭い岩盤常識を打ち破らない限り、日本経済のデフレ脱却と本格的な経済成長は難しいじゃろう。そもそも、国債引き受けがどんな理由で禁じ手なのかさっぱり意味が解らん。財政規律がどうこう言っておるが、規律を守れば経済が良くなるなら誰も苦労などせんわい。前回説明したように、通貨を増やしたからといって、ハイパーインフレになる可能性も低い。」

(ねこ)

「マスコミは岩盤規制とか言葉遊びが大好きだけど、マスコミの頭の方が岩盤なのにゃ。」

(じいちゃん)

「左様じゃな。岩盤だのポピュリズムだの決められる政治だの、国民を誘導するために自分たちの都合の良いように言葉をイメージとして使っているだけじゃ。誘導は朝日新聞だけでなく、すべてのマスコミで行われていると考えるべきじゃ。日銀引き受けが絶対に正しいとは言わないが、ぜひ自らの頭脳を駆使して考えていただきたいものじゃ。「おカネとは何か、どのように作り、どのように使うべきか。」