ケインズ経済の最大の失敗とは?

2016.2.14

(じいちゃん)

「ケインズ派の経済政策における最大の失敗は借金によって財政支出したことにある。もし通貨発行によって財政支出していれば政府の借金の問題は生じなかったのじゃよ。」

(ねこ)

「ふ~ん、どういうことなのかにゃ。」

(じいちゃん)

「ケインズが活躍した当時は世界大恐慌後の只中で、デフレ不況があまりに長期かつコントロール不能な状態だった。その当時も今と同じように金融政策が行われ、金利はゼロになったが、まるで景気は回復しなかった。そこでケインズは政府が財政支出を行う事で人々の雇用を生み出し、人々に賃金を与えることで需要を増やして景気を回復すべきだと主張したんじゃ。そしてそれは実際に景気回復の効果があったのじゃ。

ただし、この考え方には一つ難しい問題があったんじゃ。それは財政支出を行う時の財源じゃ。現在の税制では税金は所得や消費などに課せられるため、景気が悪くなると税収が減少するという問題が生じてしまう。しかし財政支出が必要となるのは景気が悪い時じゃ。つまり一番おカネが必要な時に税収が減ってしまう。そこで税収で不足する財源を埋め合わせるために国債を発行して財政出動を行うことにしたわけじゃ。」

(ねこ)

「でも、それを繰り返したから政府の借金が1000兆円にもなってしまったのにゃ。」

(じいちゃん)

「その通りじゃな。しかしこれは想定外のことじゃった。というのも、本当は政府が財政出動して景気が良くなれば政府の借金を返済できるはずじゃった。つまり景気が良くなれば税収が増えるから、仮に借金して財政支出しても返済できるはずなんじゃ。ところが1990年代の日本のバブル崩壊の影響は極めて大きくて、いくら財政支出を増やしても一向に景気が回復しなかった。失われた20年じゃな。

なぜ財政出動しても景気が良くならなかったのか?それはバブル崩壊の影響であまりにも多くの企業が借金を抱えていたため、多くの企業はその借金を返済することにやっきになっていたからじゃ。つまり政府が財政支出して景気を刺激したおカネの多くが、借金の返済に消えてしまった。結果的に、政府がどんどん借金しておカネを投入し、そのおカネを企業が借金返済に使ってしまったわけじゃ。そして企業の借金がなくなった代わりに、政府が膨大な借金を抱える事になった。」

(ねこ)

「にゃんだそりゃ、それじゃあいくら財政支出しても砂漠に水を撒くようなものだにゃ。景気が回復するはずないにゃ。」

(じいちゃん)

「そうなんじゃよ。それでも政府は財政支出を続けた。というのも企業が借金の返済を終えれば、企業が投資を行うはずだから景気が回復するだろうと考えるのが普通だからじゃ。ところが企業は借金を返済し終えてからは、今度はおカネを貯め込み始めた。なんと稼いだ利益を使わないで貯め込み始めたのじゃ。これは富裕層も同じじゃ。つまり政府が財政支出で使ったおカネが企業や金持ちの資産としてどんどん貯め込まれた。その結果、政府の借金はさらに拡大して天文学的な大きさになり、逆に企業や資産家の金融資産も天文学的な大きさになった。

そして、とうとう政府の借金をどうするかが大問題になってしまったのじゃ。今までの流れを見ればわかるように、政府が借金して投入したおカネを企業と資産家が貯め込んだわけじゃから、当然ながら企業と資産家の貯め込んだ資産に課税して政府の借金を返済すべきだとわかるじゃろう。ところがマスコミや財政再建派の識者は「国民から取れ」と主張しておる。それが消費税の増税じゃ。とんだ茶番だとわかるじゃろ。」

(ねこ)

「消費税の増税はとんでもない詐欺行為なのにゃ。でも、確かにこんなことになった原因は、政府が借金して財政支出をしたからにゃ。じいちゃんが言う様に、おカネを刷って財政支出をしていたらこんな事には成らなかったのにゃ。でも、おカネを刷って財政支出をしていたらインフレになっていたんじゃないかにゃ。」

(じいちゃん)

「それは考えられん。というのも、借金で財政支出をしてもおカネを刷って財政支出をしても、世の中に投入されるおカネの量は同じなんじゃ。つまり同じ金額の需要が生まれるから、物価にあたえる影響は同じなんじゃよ。そして投入されたおカネは結局は企業や資産家が貯め込んでしまう。だからどちらも同じだけの貯蓄が生まれるんじゃ。ということは、どちらの場合であっても、世の中に増えるおカネの量は同じなんじゃ。

では、借金で財政支出を行う場合と、おカネを刷って財政支出を行う場合の根本的な違いは何か?それは政府に借金が発生するか、発生しないかの違いじゃ。厳密に言えば銀行の資産構成にも変化が生じるが、それは国民にとっては実質的に大きな違いではない。それだけじゃ。」

(ねこ)

「にゃんだ!だったらおカネを刷って財政支出をすればいいのにゃ。なんでわざわざ政府の借金を増やして財政支出する必要があるにゃ。バカバカしいのにゃ。そんな借金はカネを刷って返済すればいいにゃ。」

(じいちゃん)

「その通り、もともとしなくても良い借金なんじゃから、そんなものカネを刷って借金を返済すればよい。そして実際に今それをやっておる。それが日本銀行が行っている「量的緩和政策」なんじゃよ。」

(ねこ)

「ふにゃにゃ!どういう意味かにゃ。」

(じいちゃん)

「さっき、おカネを刷って財政支出すると銀行の資産構成が変化すると言ったが、その変化と同じことが量的緩和政策で行われておるんじゃ。具体的に言えば、量的緩和によって銀行の資産を構成している国債が現金に変化する。量的緩和では日銀が銀行から国債を買い取って現金を支払うから、銀行の帳簿上で国債が消えて代わりに現金が記帳されるのじゃ。そして日銀が国債を買い取るということは、政府が国債を買い取ることとほとんど同じじゃ。日銀は政府の銀行じゃからな。こうして借金を消しておる。

実は、国債を発行して政府支出を行うと、銀行の資産において国債が増加する。おカネを刷って政府支出すると、銀行の資産において現金が増加する。これが借金による財政支出と通貨発行による財政支出の本質的な違いなんじゃ。でも国民生活にほとんど関係ないじゃろ?実際、日銀の量的緩和でも影響はほとんど実感しないはずじゃ。つまりほとんど同じなんじゃよ。しかし、この話はバランスシートの仕組みを理解していないと難しすぎるかも知れんのう。」

(ねこ)

「まったく、ちんぷんかんぷんにゃ!。」

(じいちゃん)

「まあまあ。とにかくケインズ主義の最大の失敗は借金して財政支出を行ったことなんじゃ。じゃから借金で首が回らなくなった。そんなことしないで、おカネを刷って財政支出をすればいいのじゃよ。実質的には同じ事じゃから、何もわざわざ政府の借金を増やす必要はないんじゃよ。しかし資産家や投資家が国債で大儲けしているもんじゃから、新聞もマスコミも財政再建の亡者も、通貨発行を禁じ手と称して、無理に国債発行をさせておるわけじゃ。政府に借金を負わせるほど楽な商売は無いからのう。」

(ねこ)

「まったく信用ならない世の中なのにゃ。でも国債は国民が政府におカネを貸しているから、借金じゃない、問題じゃないという話もあるにゃ。」

(じいちゃん)

「確かにそれも一理あるが、政府が借金しない方がいいに決まっておる。それに国民が政府におカネを貸しているとしても、その貸している国民の大部分は間接的に富裕層の人々じゃ。そして国債を返済するために消費税が増税されれば、それは富裕層より低所得層に大きく負担となる。もし増税して借金を返済すれば確実に低所得者ほどダメージは大きくなる。こんな国債は廃止した方が良いのじゃ。

そして、税収で足りない分の財政支出は通貨発行を財源として行うのじゃ。もちろん生産能力を無視して財政支出を行えば、それは国債による場合でも通貨発行による場合でも必ずインフレを引き起こす。じゃからこそ、インフレターゲットを定めて、その範囲内で継続的な通貨発行を行えば良いのじゃよ。」

(ねこ)

「そうにゃ、根本的に国債は廃止した方がいいのにゃ。財政支出はおカネを刷って行うべきだにゃ。」

(じいちゃん)

「ただし、そのまま継続的におカネを刷り続けると、企業や家計の貯蓄が膨張し続ける事になる。人間はおカネをひたすら貯め込む性質があり、しかも無限に貯め込みたがる。じゃから課税が必要なんじゃが、その話はまた今度にしよう。」