ベーシックインカム動画・第2話ナレーション

第2話 ベーシックインカムの思想史と定義

はっはー、私は、ばらまきマンだ。今回は、ベーシックインカムの思想的な歴史と定義について考えてみよう。というのも、ベーシックインカムは、人工知能やロボットの進化に対応するために、最近になって、にわかに登場してきた考えじゃないからだ。まずはその思想的な歴史から眺めてみよう。

①ベーシックインカムの歴史

ベーシックインカムは、どこかの偉い学者先生が「ベーシックインカムとはこういうものだ」と定義したことから始まった考え方ではない。かなり昔の時代から、様々な人がベーシックインカムに近い考え方を、それぞれの立場から主張し、それに関連した社会運動も行なわれてきたんだ。その際には必ずしもベーシックインカムという言葉は使われていない。保証所得、国民配当、負の所得税など、論者によって様々な名称が使われていた。

山森亮(とおる)先生の著書「ベーシックインカム入門」を参考にして、ベーシックインカムの主な思想史から幾つかをピックアップして、年表にまとめたのが次の表だ。

ベーシックインカムに通じる最も初期の考えは、今から200年以上前に、トマス・ペインの著書に登場したという。トマス・ペインはコモンセンスを書いたことで有名なアメリカの思想家だ。

彼は、そもそも土地はすべての人の共有の財産であると考えた。そして、その土地が一部の地主によって所有されていることが、貧困を招いているとした。そこで土地の所有者に地代を請求し、それを財源として、すべての人におカネを配るべきだと主張した。それは人間の権利、自然権に属するものだと考えた。

20世紀に入ると、ベーシックインカムの考え方は人々の間で広がりを見せるようになる。有名なところでは、1920年頃、イギリスのCHダグラスが主張した「国民配当」の考えがある。

当時の時代は、貧富の格差や劣悪な労働環境が大きな社会問題となり、共産主義運動が活発に行われていた時代だった。ダグラスは労働者に十分な所得の行き渡らないことが社会問題の原因であると考え、すべての国民に無条件でおカネを給付するべきだと主張した。

当時の時代は、貧富の格差や劣悪な労働環境が大きな社会問題となり、共産主義運動が活発に行われていた時代だった。ダグラスは労働者に十分な所得の行き渡らないことが社会問題の原因であると考え、すべての国民に無条件でおカネを給付するべきだと主張した。

その根拠として、彼は「文化的な遺産」という考えを主張した。つまり、世の中に生み出される富は、単に企業や個人の活動によって生み出されているのではなく、これまでの歴史の中で社会に積み上げられてきた、ノウハウやインフラのような様々な過去の文化的な遺産に元に生み出されていると主張した。

その遺産は特定の個人や企業に属するのではなく、それら文化の担い手である国民すべてに属している。だから、その遺産の配当として、すべての国民がおカネを受け取る権利を有すると考えた。これが国民配当だ。

またノーベル経済学賞を受賞したことで知られる経済学者、ミルトン・フリードマンが、1960年頃に「負の所得税」の考えを主張した。

負の所得税とはなにか?普通、所得税といえば、所得の一定割合を税金として引かれる。負の所得税とは、一定の所得を下回る貧困な世帯からは、税金を取るんじゃなくて、逆におカネを支給するという考えなんだ。

たとえば、生活に最低限必要な年間所得を200万円とすると、200万円を超える額の所得には課税され、税金を支払うことになる。しかし、所得が200万円を下回ると、下回った額に応じておカネが支給される。所得が低い人ほど多く支給されるので、貧困問題は解決できるというわけだ。負の所得税はベーシックインカムと違って、すべての人におカネを給付する制度じゃないけれど、類似した考え方と言える。

歴史的に、ベーシックインカムが、大きな社会運動として主張されたことがある。それは1960年から70年代にかけて、アメリカをはじめ複数の国で行なわれた。

それらの運動の中で、キング牧師は「保証所得」の考えを提唱した。キング牧師は、人種差別の撤廃を求めた公民権運動で有名なアメリカの活動家だ。

彼は、世界から貧困を消し去るためには、全ての人におカネを給付すれば良い、と主張した。シンプルでわかりやすいね。また、彼の考えた保証所得の支給額は、最低の生活を保障する額ではなく、社会の中間の生活水準を目標とした額であり、また、経済規模の拡大に伴って、支給額は増え続けるべきであると考えた。

今日の技術的失業問題に通じるかたちで、ベーシックインカムを主張したのは、アメリカの経済学者だった、ガルブレイスという人だ。1970年ごろのことだ。

彼は、生産技術が進歩するほど生産活動に必要とされる労働力が減ることに着目し、将来における失業者の増大を予見した。失業が増加すると、失業を減らすために必要以上に生産や消費活動が行なわれて地球環境が破壊されると考えた。そしてその対策として、雇用と所得の分離の必要性、つまり労働とは無関係に所得を保障する必要性を説き、権利としてのベーシックインカムを提唱した。

このように、ベーシックインカムに通じる考えは、かなり以前から主張されてきた。そして今日、人工知能による失業問題がクローズアップされるようになって、再び注目を集めてきた。そして、それらは一般化され、「ベーシックインカム」と多くの人が呼ぶようになった。これがベーシックインカムの思想における歴史的な流れなんだ。

②ベーシックインカムの定義

ベーシックインカムは、一言で言えば、国民におカネを配る政策だ。しかし、配ると言っても考え方はいろいろある。ではベーシックインカムの定義はどんなものだろうか。

実のところ、ベーシックインカムには厳密な定義はないんだ。というのも、先ほど歴史を説明したように、ベーシックインカムは多くの人の考え方が寄り集まって、自然発生的に生まれた概念だからだ。とはいえ、一般に共通した認識はある。

一般にベーシックインカムの定義として、広く受け入れられている考え方は、次のような内容になるんだ。

①定期的に一定額の現金が政府から支給される。

②すべての個人に対して無条件に支給される。

③支給額は生活に最低限必要とされる金額。

といったところだ。人によって違いはあるが、基本的にはこうした内容が共通して含まれている。それぞれの項目を、もう少し詳しくみよう。

①定期的に一定額の現金が政府から支給される。

現物支給やクーポンじゃなくて、あくまで現金だ。もちろん、そのおカネの使い道はそれぞれの自由だから、何に使ってもかまわない。遊びに使ってもいいし、資格取得のために使ってもいい。そして、そのおカネは政府が支給する。

②すべての個人に対して無条件に支給される。

支給は家族単位じゃなく、個人単位で支給され、赤ちゃんからお年寄りまで、年齢に関係なくすべての国民に支給される。あるいは、貧乏な人、お金持ちの人といった所得の違いによる支給の違いはなく、すべての人に同じ金額が支給される。

③支給額は生活に最低限必要とされる金額。

支給される金額の大きさは、健康で文化的な生活を送ることのできる、最低限の所得だ。おカネが足りなくて、毎日もやししか食べられないとか、趣味や娯楽をまったく楽しむ余裕がないとか、そういう貧困な生活は、ベーシックインカムとは言わないんだ。

以上、これら3つが、ベーシックインカムの一般的な定義になるんだ。とは言っても、ベーシックインカムの考え方は、主張する人の目的や立場によって違いがある。

というのも、先ほど説明したように、歴史的に様々な立場の人が、それぞれの目的によってそれぞれにベーシックインカムの考え方を主張してきたからなんだ。だから、同じ「ベーシックインカム」であっても、その立場によって主張する内容は別々のタイプが存在する。ベーシックインカムの考え方は一種類だけじゃない。

では、主張する立場や目的によって、ベーシックインカムにどんな違いがあるのか、それは次回に考えてみよう。今日はここまで、べーしっく!