第二章 輸出大国の悲劇

人々の懸命の努力で高品質で低価格な商品を大量生産できるようになった砂漠のオアシス国家。しかし、輸出ばかりして輸入しなかったこの国は、やがて砂漠の猛烈な砂嵐に見舞われることに。

■ 輸出大国の栄光、なぜか人々は貧乏

「ご、ご主人様、目的地はまだなんですか?はああ、宇宙ステーションさえあるような時代に何で砂漠を徒歩で移動しなきゃならないんです。私には「きん斗雲」という術があるんで、ご主人様だけ歩いて行ってくださいよ。ていうか、なんでご主人様だけラクダにのってるんですかぁ。」

「ばか者、物語には雰囲気が必要なのだ。しかもこれは修行の一環だ。砂地を歩くことで足腰を強化しバランス感覚を養うことができる。経済にとっては何よりバランス感覚が重要なのだぞ。」

「いえいえ、体のバランスが取れても、経済なんかぜんぜん理解できないんですけど、まったく。」

「もう少しだ、あの丘の上に上れば町が見えるだろう。」

「あれ、丘の向こうに何か黒い煙のようなものが無数に立ち上ってますね。」

「おお、目的地のオアシス国家クロジに着いたぞ。」

「またしても安易なネーミングの国ですね。うわ~、こりゃすごいや。丘の上から見下ろすと、すごい工場群ですね。」

「そうだ、クロジの国は世界最大の輸出大国だからな。この国は砂漠のオアシス国家だから、資源は何も無いんだ。エネルギー資源も、鉱物資源も、食料資源も輸入に頼っている。だから人々が必要とする商品を国民に供給するには、輸出で外貨を稼いで、その外貨で資源を輸入しなければならないんだ。」

「よっぽど稼いでいるんでしょうね、製品がトラックでどんどん出荷されて行きます。すごい活気ですね。」

「ああ、だがはじめからそうだったわけじゃない。砂漠の何にもなかった国の人たちが苦労して技術力を高め、勤勉に働いた結果として今があるんだ。はじめは必要な資源を輸入するための外貨を稼ぐ目的だったが、安くて高品質の商品が評判になって全世界で商品が売れまくり、資源を買うより商品を売る量のほうが遥かに多くなったんだ。今では、狂ったように外貨を稼ぐようになった。いまやクロジは世界最大の貿易黒字国家なんだぜ。」

「へ~、そんなに外貨を稼いでいるのなら、人々はよぼど贅沢な暮らしをしてるんでしょうね。うらやまし~。・・・・あれ、そのわりに町並みはパッとしませんね。海外のブランド品を身につけている人はほとんど居ませんし、輸入車もほとんど走っていない。家はみんな小さくて、まるでウサギ小屋のようです。」

「ああ、外貨は稼いでも、資源以外の輸入はほとんどしないからな。海外から様々な商品が入ってこないから、外貨を稼ぎまくっているわりには人々の生活は質素なんだ。そもそも輸出で外貨を稼ぐ本当の目的は何だと思う?」

「へ?、いや、おカネがたくさんあれば良いかな~って感じでしたけど。」

「おカネは持ってるだけじゃ意味がない。稼いだ外貨で海外の様々な商品を輸入して、それで人々の生活を豊かにすることが輸出の目的だ。ところが売るばかりで買おうとしないから、外貨はたんまりあるけれど、生活物資が貧弱で「豊かな消費生活」とは程遠い状態にある。カネを持ってるだけじゃあ、豊かでもなんでもない。国民の豊かさは持ってるカネの量じゃなくて、消費する生活物資の量で決まるんだ。確かにカネを持っていれば豊かになった気分になるが、気分に誤魔化されているだけだな。外貨を稼ぐだけでは人々は決して豊かになれない。」

「へえ。じゃあ、余った外貨はどうするんですか。」

「外国の商品を買わずに、外国の不動産を買い占めたり、絵画のような文化財を買ったりして顰蹙をかっている。外国であらゆるものを買い占めているから、クロジの国にやってくる外国人は、クロジの国の人々はよほど金持ちで贅沢な暮らしをしてるのかと思ったら、みんなウサギ小屋に住んでいるのでビックリするわけだな。」

「ところで、輸出してる企業は外貨で代金を受け取るわけですよね。基本的に稼いだ外貨はどうしてるんですか?まさか外貨をそのまま社員の給料として支払うわけにはいかないし、国内での取引にも使えませんよね。」

「おう、外国為替市場で自国の通貨と交換するんだ。円とドルの関係で言えば、手持ちのドルを売って円を買えばいい。その買った円で社員に給与を払ったり、新たな生産設備に投資したり、銀行に借金を返したりすればいい。」

「そうか、外貨を売って自国通貨を買えばいいのか。でも貿易黒字大国ということは、輸出が多いんだから外貨、たとえばドルがどんどん手に入るわけですよね。するとドルが増えるから、手持ちのドルを売って円を買いたい人はたくさんいるわけですが、逆に手持ちの円を売ってドルを買いたい人はほとんど居ないですよね。すると、円が不足して円の価格が高騰するんじゃ・・・・・。」

「そのとおりだ。だから円が高騰するのは必然なんだぜ。ところが円高になれば輸出品は値上がりして売れなくなり、貿易黒字国は行き詰まってしまう。そこで政府が介入することになる。つまり、中央銀行、たとえば日銀が円をバンバン刷って、その円でドルを買い取る。すると市場に円が供給されるから円の相場は低下するってわけだ。そんでもって、買い取ったドルは「外貨準備金」になるって寸法だ。バブル期にドルをバンバン買い取ったため、その当時は日本の外貨準備高が世界一になった。」

「へえ~、でも円をバンバン刷ったらインフレになるんじゃないの?」

「インフレ論者に言わせるとすぐにそうなるが、バブル期を見てもわかるように、円を刷ったからと言って激しいインフレにはなっていない。なぜなら平行して経済規模も拡大したからだ。経済規模が拡大すると取引に必要なカネの量が増えるから市場に吸収されてしまう。円をバンバンすったらインフレになると言うが、そんな単純な事にならない。それどころか、円をバンバン刷ったおかげで日本は空前の好景気に突入した。そして今は中国がそうなっている。クロジの国もその最盛期なんだ。」

「カネをバンバン刷って好景気になる・・・なんかバブールの国に似てますけど、どういうことなんですか?」

■ 輸出だけで経済が成り立つおカネのマジック

「輸出で外貨を稼ぐ本当の目的は、稼いだ外貨で海外の様々な商品を輸入して、それで人々の生活を豊かにすることにある。だから本当は稼いだ外貨を使って輸入を増やさなければ人々は豊かになれるはずがないのだが、実は輸入を増やさなくても人々が豊かになれる仕組みが輸出にはあるんだ。」

「外貨を政府が買い取って、その代わりにカネをバンバン刷って供給するんですね。」

「そうだ。貿易黒字で手に入れた外貨を買い取って、代わりに自国の通貨を市場に流す。そして外貨はそのまま貯め込まれる。ちなみに固定相場制だと取引の過不足分は政府が全額提供するから、これが極端に大きくなる。そうしないと貿易の決済ができないからだ。だからほぼ固定相場制の中国の外貨準備高が世界最大になるのは当たり前なのだ。そして放出される元の金額も半端ではない。当然バブルを引き起こしている。砂漠のオアシス国家クロジの政府も外貨をどんどん吸収し、その交換として自国のカネを大量に放出し続けている。そしてそのカネが人々に流れ込むことで人々の購買力を高める。高まった購買力は内需を刺激し、国内の経済を活性化し、国内生産力と人々の所得も拡大し、経済規模の拡大とともに人々の生活は豊かになる。つまり、外貨を使って外国から商品を輸入しなくとも、外貨との交換でバンバン刷ったカネが人々に行き渡ることで経済が活性化して生活が豊かになる。貿易黒字にはバブル経済と同じように、人々にカネを流し込む仕組みがあるのだ。」

「貿易黒字も結局はカネを刷って人々に撒いてるだけなんですね。そのカネが内需を刺激して経済が成長する。バブルと同じなんですね。」

「そのとおりだ。日本人の多くは、ものを作って輸出するから「貿易黒字=善」で、資産ころがしであぶく銭を作り出すから「バブル経済=悪」とみなす傾向がありがちだが、どちらも「カネを作っている」点で同じ穴のムジナだな。「貿易黒字=善」というのは、ものづくりを神聖化したがる日本人の幻想にすぎない。確かにものづくりはすばらしい。だがそれと貿易黒字はぜんぜん別のことだ。」

「そうですねぇ、ものを作るのは創造的で良いことだから、バブルとは本質的に違うと主張する人が多そうです。確かにやってることはまるで違いますけど、共通点もあるんですね。」

「しかもさらに突っ込んで考えてみろ。外国に商品を輸出して獲得した外貨を政府が買い取って、かわりに自国の通貨を印刷して企業に渡す。それならいっそのこと、外国に輸出しないで政府が商品を買い取って、代金として通貨を印刷して企業に渡しても同じじゃねえのか。で、買い取った商品は使わないから埋め立て処分にする。あるいは破壊してリサイクルする。穴を掘って埋める経済対策と同じ原理だな。穴を掘って埋める作業をした人におカネを支払うことが有効需要を生み出して経済を活性化するって、あれとおなじこった。」

「ええ~、商品を作って、ただ捨ててしまうんですか?」

「外国に捨てるのか、自国のゴミ捨て場にすてるのかという違いがあるだけだ。ナンセンスに感じるが、カネの動きからみると成り立つ。まあ、極端な話だ。それほど現在の経済ってのは矛盾だらけなんだぜ。」

「ところで政府が貯め込んだ外貨は本当に貯め込んだままなんですか?」

「実際のところ日本はアメリカの国債を買ったりしているから、ただ貯め込んだだけじゃなくて、いちおう運用してることになる。しかし、アメリカの国債なんか買ってもカネを死蔵しているのとほとんど同じだな。何しろドルが暴落すればすべてパーだ。しかし中国は一味違う。やつらはカネの無意味さを理解し、カネじゃなく、モノを手に入れようとしている。世界の資源を買いあさっている。アフリカなど地下資源の豊富な国にどんどんカネをばら撒いて、鉱山をがっちり押さえている。日本人は紙切れを後生大事に握ったまま不況の泥沼に沈んでいくが、カネよりモノが重要であることを理解している中国人は生き残る。中国4000年の戦乱の歴史の中で、おカネの価値を維持することの無意味さはすでに彼らの遺伝子に組み込まれているのだろう。話が横道にそれちまったな。」

「カネに対する無知とは恐ろしいことなんですね。どれだけ苦労しても努力しても、すべて一瞬で吹き飛ばされてしまうのか。あれ、行く手に怪しげな人影が・・・・。ご主人様、気をつけてください。」

「(謎の人影)ふっふっ、いい気になるのもこれまでだな。俺は通貨の番人だ。お前は神聖にして侵すべかさざる領域に足を踏み入れようとしている。おろかにも我々の警告を無視した某国の大統領がどうなったか、お前も知っておろう。危険思想は芽のうちに摘んでおかねばならんのだ。」

「出たな妖怪め!この孫悟空様が相手だ。ご主人様、私にもようやく活躍の場がめぐってきましたよ。いや~長かったです。自分は孫悟空なのに、このままガンダーラまでずっとボケた役回りしかないのかと思って、夜はやけになって酒ばっかり飲んでたんですが、そんな生活ともおさらば。今日から自分が主人公の物語になるんですね。」

「いや、手出し無用だ。悟空よ、例のアタッシュケースをここへ。」

「へ?ご、ご主人様。そんなすごい武器がこのケースの中に入ってたんですが。全然知りませんでしたよ。それを使うんですね。おおおドキドキしますね。そんなやつ、やっちゃってください。」

「(謎の人影)な、何をちょこざいな。やるならやってみろ。通貨の番人がどれほど恐ろしいか思い知らせてやるわ。」

「ほざけ、この守銭奴野郎が!これを見ろ!最終兵器だ。」

「(謎の人影)うっ、これは・・・・現金じゃねえか。軽く10万ドルはあるな。」

「そうだ、これをお前にやるから見逃してくれ。」

「ええええええ、最終兵器ってカネですかカネ!ご主人様、それって、単なる買収じゃないですか!情けないです。」

「(謎の人影)な~んだ、そういうことなら俺は消えてやるよ。どうせ俺だってカネで雇われてるだけだし、あんたの首にかかってた金額よりぜんぜん多いんで、それ全部で手を打つよ。だが気をつけな、あんたはすでに目を付けられてる。次々に刺客が送られてくるだろう。じゃあな。」

「ふっ、行ったか。あの守銭奴野郎め、口ほどにも無いやつだったぜ。」

「口ほどにも無いのはご主人様の方でしょ。っていうか、どうしてそんな大金があるんですか?それだけのカネがあるなら何もガンダーラなんか行かなくても遊んで暮らせますよ。そうしましょうよ、ガンダーラなんか目指すのは面倒です。」

「だめだ、これは全部ニセ札なんだ。悟空よ、その空になったアタッシュケースを閉じて再び開いてみろ。」

「え、アタッシュケースですか。閉じて、開くと・・・・・。あれ、またお札でいっぱいになっている。何なんですかこのケースは。」

「お釈迦様からいただいた、ありがたいニセ札製造機だ。」

「ちょっと!お釈迦様がそんな非合法なモノ作っていいんですか。私の頭にはまっている呪いの金輪を作って、こんどはニセ札製造機を作るって、どういうお釈迦様なんですか。まったく・・・・・。あれ、なにか、空模様がおかしくなってきましたね。西の空が墨を流したように真っ黒になってきました。」

「ああ、砂嵐が近づいてきている。こいつはやばいぜ、急いで宿を探すんだ。」

■ 貿易の国際分業という幻想

「いや~昨晩はひどい嵐でしたね、ご主人様。風の音がひどくて全然ねむれませんでした・・・・あれ、またロビーに誰もいませんね。」

「おおそうだな、また宿代を払わないですんだ。」

「いや、そうじゃなくて、どうなってしまったんですか?」

「クロジの通貨が高騰して、激しい通貨高の嵐が工業地帯を徹底的に破壊し、町は廃墟と化した。」

「えええええ、ま、またですか。なんで自分たちが旅先で一晩眠ると国が滅びるんですか。自分らは厄病神ですか。私たちにはお釈迦様どころか死神が付いてますよ。ひどい役回りですね。」

「まあまあ、これは俺たちのせいじゃねえ。昨日も話したが、クロジの国が輸出ばっかりしてたから為替市場で通貨が高騰してしまったんだ。それでクロジ国の商品が値上がりして売れなくなり、クロジ国内の企業はみんな為替の安い国に移転してしまった。だから工場も放棄されて荒れ放題だ。」

「だって、政府が介入して外貨を買えば通貨高は防げるんじゃなかったんですか?」

「クロジの隣の超大国ライスカントリーから圧力がかかったんだよ。為替市場に政府が介入することは許さんと。為替介入は自由主義に反する、保護主義的で不適切な措置だから、ただちに中止せよと脅されたんだ。強大な軍事力を持つライスカントリーに逆らえば、砂漠のオアシス国家などたちどころに潰される。世界は軍事力が最終的にモノをいう冷酷な場所だからな。」

「なぜそんなことをするんですか?」

「市場に任せることで資源の適正な配分がなされ、効率的で生産性の高い企業活動を通じて人々の生活を豊かにすると表面的には言っているが、実態はそんな理想的なもんじゃねえ。政府の為替への介入が不可能になると、世界の投機・投資家連中が安心して為替でギャンブルできるようになるってのが本音だ。政府が本気になって為替に介入すると投機・投資家連中は儲からないからな。昔、日本でも投機・投資家連中の仕掛けた円高を、日本が俗に日銀砲とよばれる通貨の大量発行で撃退したものだから投機・投資家連中が大損害を被った。で、恐らくカネの力で裏から手が回って日本政府にすさまじい圧力がかかり、それ以降、日銀砲は禁じ手とされてしまったのだろう。まあ、推測ではあるが間違いあるまい。それ以降、すべてのマスコミ、政治家は口をそろえて市場にまかせればすべてうまく行く、政府が市場に介入する時代ではないと言うようになった。」

「時代・・・・ですか。」

「ああ、彼らの大好きな言葉だぜ。時代、世界の常識、国際協調、先進国の責務などといえば説明した気分になるらしい。実にめでたい連中だ。いずれにしても現代はギャンブルが経済を動かしている。為替、株式、証券、商品先物など賭けの対象は幅広く世界に広がっている。そのギャンブラーとは金融業界、世界のマネーであり、アメリカやイギリスでは国の中心的な産業というわけだ。だから政府が市場に介入することは許さない。そんな理由もあって、輸出ばかりしてきたクロジの国の通貨は高騰する一方で、ついにほとんどの輸出産業は海外へ逃げてしまった。すると、貿易黒字を背景に大量に発行していた自国通貨の流れはピタリと止まり、人々へわたるカネが無くなり、貿易黒字バブルは崩壊した。」

「そんな・・・・。まじめに働き、苦労して技術力を高めたのに、自国の通貨が高くなっただけで最後はこうなってしまうなんて。通貨が高いというだけで、先人たちが努力して開発した技術が簡単に他国へ売り渡され、工場が移転して人々は職場を失い、デフレが経済を衰退させてすべてを失う。人々の苦労は報われない。悲しすぎます。どうしてこんなことに。」

「すべてを市場にゆだね、通貨高を容認した結果だ。クロジの政府が通貨高に対して十分な対策を取っていれば、こんな悲劇は起こらなかったのだ。すべてはカネに原因がある。カネに対する無知と誤解が国を滅ぼすのだ。外圧に負け、単なる紙切れに過ぎないカネの絶対的な価値を維持することに固執し、カネ本来の機能を忘れた為政者により国はいとも容易く滅びる。」

「どうすればこんな悲劇をさけられるんですか?」

「答えは簡単だ。カネをたくさん刷ってばら撒けばいいんだ。そうすりゃ通貨は下落するし、撒いたカネのおかげで国民の購買力が増加して内需も拡大する。この景気刺激策は貿易黒字で通貨高の国だけが使える特典のような政策だ。貿易赤字や通貨の安い国は、やりたくても絶対にできない奥の手なのだ。だがクロジの国はみすみすこの特典を放棄し、すべてを市場にゆだねた。つまり何もしなかった。実に楽な方法だがな。その結果、市場にすべてを食い尽くされ、国は滅んだ。もっと別の「市場にとってカネになる国」を育てるための生餌となったのだ。」

「それって、どこの国なんですか・・・・。」

「まあ、近いうちに立ち寄ることになるだろう。それより、ここにはもっと根本的な問題が潜んでいる。たとえばクロジの国が生産力をどんどん拡大して、世界中のあらゆる商品のすべての需要をまかなう事ができるようになったとしよう。クロジの国が世界のすべての商品を一国だけで生産できる。そうしたら他の国は何をすればいいんだ?何も製造する必要が無くなる。クロジの国だけが生産して、それを他の国が買えばよいわけだ。しかし、買うということはおカネが必要だ。しかし心配はいらない。現代は管理通貨制度の時代だから、カネは刷ればいくらでも出来る。だからカネを刷って、そのカネでクロジの国から商品を買えばよい。恐ろしく馬鹿馬鹿しく見えるかも知れないが、これと似たようなことが現実の世界でも起こっている。中国が安いコストでどんどん生産し、アメリカがドルをどんどん刷りまくり、そのカネで中国から製品を買っている。中国がドルでの支払いに応じ続けている限り、アメリカはカネを刷るだけで商品を買える。アメリカは金融でカネを膨らませるだけで良いのだ。」

「うへ~、無から作り出したカネで実体のあるモノを手に入れるなんて、金融ってすごいですね。」

「だが、クロジの国がすべての商品を製造すると他の国では何も商品を作る必要が無くなってしまう。するとクロジ以外の国ではすべての工場が倒産する。とんでもない数の失業者が生まれ、路頭に迷う。だが案ずることはない。管理通貨制度の時代だから、カネをどんどん刷って失業者に配ればよいのだ。そのカネでクロジの国が作った商品を買えば人々の需要は満たされる。恐ろしく奇抜に聞こえるが、先ほどのアメリカと同じ事をしているに過ぎない。」

「なんだか、わかったような、わからないような・・・・。それにしても、ご主人様、クロジの国だけが作らないで、多くの国で分業すればいいんじゃないんですか?仕事はみんなで分け合いましょうよ。」

「それはできない。なぜなら、為替差があるからだ。製造業は製造コストを下げる目的で、必ず為替の低い国へ移転する。一部の例外を除いてほとんどの産業が為替の低い国へ移転できる。すると分業どころではなく、製造独占になる。為替差により必ずそうなる。利益が最優先である資本主義において国際分業などと言う考えが成り立つのか?ありえない。そのことをいち早く認識したアメリカやイギリスは製造業を捨て、カネでカネをうむ金融を国の産業の柱にすえたのだ。そして、アメリカの住宅バブル崩壊までは、カネを刷るだけで世界の富を欲しいままに出来たわけだ。」

「結局はカネなんですね。カネをどう利用するかですべてが決まってしまうんですね。」

「そうだ。だからカネに無知であることは、裸で猛獣の檻の中を歩き回るようなものだ。まさに日本は裸でぶらぶら歩きまわっているのだが、そんな自覚はないようだ。おまけに「ものづくり日本の復活」とか何とか言ってるが、ものづくり日本が復活しないのは技術力やスタンスに原因があるのではない。すべてはカネの問題なのだ。そしてカネはあくまでも道具であって、その価値にあまり意味は無い。むしろそれを使って手に入れるモノの価値にこそ国を左右するほどの意味があるのだ。」

「ご主人様、このところ、なんだかまともそうな事ばかり言って面白くないですよ。もっと壊れないと。」

「おおきなお世話だ。さて、出発するぞ。」