バブル経済とアベノミクス

(ねこ)

日銀がサプライズな規模の金融緩和を打ち出した事にたいして、民主党や左派系の新聞はこぞって「バブルの危険」と主張しているにゃ。バブルが発生するのかにゃあ?

(じいちゃん)

ほっほっほ、間違いなく発生するじゃろ。

(ねこ)

にゃー、それは大変だにゃ。バブルが崩壊してまたデフレに逆戻りにゃー。

(じいちゃん)

これこれ、まだバブルも発生しとらんのに騒ぐでない。ネコは心配性すぎるんじゃよ。そもそもバブルというのは実体経済の成長以上に資産価格がどんどん上昇する現象じゃが、では、どこまで資産価格が値上がりすればバブルなのか、逆にどこまでだったらバブルじゃないのか、そんな基準はないのじゃ。経済が好調になれば資産価格は上昇する。そして資産価格が上昇すると経済が好調になる。そんな基本も考えずに、資産価格が少し上がると、もう「バブルだ」と騒ぐのは過剰反応というものじゃ。

(ねこ)

それもそうにゃ。でもバブルが発生すると良くないのかにゃ。

(じいちゃん)

それは嘘じゃ。古今東西、バブルは好景気と共にあった。そしてバブルこそが好景気を支えていた側面があるのじゃ。これは紛れもない事実じゃ。いや、むしろバブルの無いところに好景気はないと言えるじゃろう。バブルは資本主義経済の宿命であり、むしろ資本主義経済の本質であると言ってもよいじゃろう。

(ねこ)

う~、難しいにゃ。どうしてバブルが宿命なのにゃ?

(じいちゃん)

そうじゃな、バブル景気のしくみについて考えてみるとしようかの。ところで、ネコは日本経済がバブル景気に沸いていた頃の様子を知っておるかな?

(ねこ)

知らないにゃ、ネコのひいひいひいひいじいさんの時代の事にゃ。

(じいちゃん)

バブルは良い時代じゃった。日本国中に活気がみなぎっておった。その当時は中間所得層が非常に多く「一億総中流」などと呼ばれたものじゃ。大金持ちは少なかったが、みんなそれなりにカネを持っていたから消費は旺盛だった。商品はバンバン売れ、多くの人がレジャーに出かけ、夜の街も大賑わいじゃった。

それだけ需要が多いと、それを支える供給も増やさねばならん。それで企業は大忙し、働いても働いても注文が来る。失業者などほとんどおらん。労働者が足りなくて企業は人を集めるのに必死じゃった。労働者の不足が日本の経済成長の足を引っ張るとして、深刻に議論されておった。人手不足から外国人労働者の受け入れも真剣に検討された。人件費の削減のためではない。とにかく人手が足りんかったのじゃ。じゃから年功序列で給与の上がりにくかった正社員よりもパートつまり「非正規雇用労働者」の賃金が高くなり、高い所得と自由なライフスタイルを求めてフリーターなる社会層が生まれた。

(ねこ)

にゃんと、正社員よりもアルバイトの方が給料がたかいのかにゃ。嘘みたいにゃ。

(じいちゃん)

本当のことじゃ。そして庶民がカネを持ち始めると「高級品志向」が始まった。本物が売れ、安物が売れんようになってきたのじゃ。デフレとはまったく逆じゃな。デフレでは質の高い商品よりも値段が安い商品の方が良く売れる。デフレの今は安物の輸入品がどんどん売れるのはそのためじゃ。しかし人間は本当は質が高いものが欲しいんじゃ。カネさえあれば、外国から輸入した安い粗悪品よりも国産の高品質の商品が欲しいのじゃ。高くても体に良い無農薬の食品が欲しいのじゃ。

(ねこ)

でも、日本人は欲が無くなったと新聞に書いてあったにゃ。

(じいちゃん)

欲がないなら、なぜ六本木ヒルズに家賃200万円も出して住む連中がいるのかね?実のところ、欲が無いというのは「精神的逃避」じゃよ。人間は本当は欲しているモノであっても、それが手に入らないとわかると、その価値を無意識のうちに否定するようになる。それが精神分析学でいう「防衛機制」じゃ。それは自我精神を保つための本能のことじゃよ。本当は欲しいのに「あれは無価値なものです。欲しいと思いませんねぇ。」と深層心理が言わせるのじゃ。そして、デフレがあまりに長いと、そのような人がどんどん増え、それが流行と化してしまう。集団催眠のような状態、それが実体じゃ。新聞にはその程度の分析もないのじゃろうな。人間は生まれた時から欲がないのではない、環境がそうさせるのじゃ。じゃから庶民が再びおカネを潤沢に持つようになれば、多少時間はかかっても、価値観は本来の姿に戻ってゆくのじゃ。

(ねこ)

そうにゃ、ネコもおカネさえあればカリカリよりネコ缶がいいのにゃ。グルメにゃ。でも、バブルは架空の経済とか虚実だとか言うにゃ。偽物の経済なのかにゃあ。

(じいちゃん)

まったく逆じゃ。実体経済をみれば、バルブ景気はまさに本物の経済じゃ。バブルの時代に人々は幻覚を見ていたわけではない。実際に仕事をして次々に商品を生み出し、多くの人がそれを手に入れた。そのことは紛れもない事実じゃ。つまり、それだけの財をうみだし、人々を豊かにする力が日本にあったと言う事じゃ。それは虚実などではない。問題とすべきは、それだけの力がありながら、なぜバブルが崩壊するとその実力をほとんど発揮できなくなるのか?という点に尽きるのじゃ。バブルが虚実というのは、財を生み出す「生産」の事ではなく、カネを生み出す「投機」すなわち金融にある。

(ねこ)

どういう意味にゃ?

(じいちゃん)

金融の生み出すカネこそ虚実なのじゃよ。バブルとは資産ころがしそのものじゃからな。たとえば、ネコがワシに100万円で土地を売ったとしよう。1週間後に今度はネコがワシから110万円で土地を買うのじゃ。その1週間後にはワシがネコから120万円で土地をかうのじゃ。これを繰り返すのがバブルじゃ。もちろん、経済紙がそれらしい理屈をつけたり、格付け会社がサブプライムローンにウソまみれの格付けを付けたりするが、実態は資産ころがしじゃ。

(ねこ)

にゃんだそりゃ、バブルはくるってるにゃ。でも不思議にゃ。ネコが売った100万円の土地をどうやったら110万円で買い戻すことができるのにゃ?10万円はどこから出るのにゃ。

(じいちゃん)

銀行からの借金じゃ。もし、手持ち資金100万円のところ10万円を銀行から借りて土地を110万円で買ったとしても、その土地が1週間後に120万円で売れたら20万円の粗利益になる。元金10万円+利息2万円=12万円を銀行返済したとしても8万円の儲けになる。つまりバブルが成長を続ける限り、いくら借金しても「儲かる」のじゃ。銀行も利息目当てでどんどん貸す。しかも、銀行は「信用創造」と言って、現金をもとにして預金をポンポン作ることが出来るから、貸し付けるカネには困らん。

(ねこ)

銀行はおカネを水増しして貸しているのかにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃ。実際には保有している現金の何倍ものカネを貸しておる。じゃから、バブルがどんどん膨らんでも、貸すカネには困らんのじゃよ。民間銀行は世の中にある現金の何倍もの貸付を行う事で、世の中のカネをどんどん増やしておる。いわば「無限輪転機」じゃ。これこそがバブルを支えるカネのマジックじゃ。逆に言えば、民間銀行の無限輪転機が無ければバブルは発生しない。持っているカネを貸しているだけでは、貸すカネがなくなってしまうからの。

銀行の基本的な仕組み 信用創造

(ねこ)

う~、やっぱりバブルは良くないにゃ。金融緩和はやめるにゃ。

(じいちゃん)

これこれ、そういう短絡思考はいかんぞ。それでは経済無知の民主党と同じじゃ。「金融緩和はバブルを引き起こす」という理由だけで「金融緩和は良くない」と考えるのはおかしい。むしろ金融緩和でバブルが発生するメカニズムを放置しておることの方が問題なのじゃ。デフレで世の中を回るカネが不足しておる今の日本では、金融緩和でカネを増やすことは必要なことなのじゃ。もし、それでバブルが起きるというなら、バブルが起きないように工夫することが先決ではないのかな?今は何の対策もなされておらんから、バブルを引き起こす可能性は大じゃ。

(ねこ)

確かにそうにゃ。でも、バブルが発生しないようにするにはどうするにゃ?

(じいちゃん)

根本的にはバブルの原因である「信用創造」を抑制すること。民間銀行が勝手にカネをどんどん作るのをやめさせるのじゃ。じゃが、銀行権益の根幹を揺るがすような、こんなことを正面切って主張すると、駅のホームから突き落とされたり、癌を発症して早死にするとも限らん。ほとんど不可能じゃろう。

(ねこ)

権益の世界は恐ろしいからにゃ。

(じいちゃん)

そう、長生きしたければ変なことに首を突っ込まないことじゃ。じゃから、バブル対策は現実的には対症療法しかない。それは、株式や土地の売買差益(キャピタルゲイン)に強力な課税をする事じゃ。もちろん今はデフレじゃから、はじめから強力な課税をする必要などないのじゃ。しかし仕組みは作っておく。たとえば物価上昇率(インフレ率)などに連動して税率が上がる仕組みにしておくのじゃ。バブルが実体経済を超えて膨らみ続ければ、通貨の過剰供給からインフレが生じると考えられる。インフレになると自動的に税率が上がる仕組みなら、バブルはある一定レベルで抑制がかかるはずじゃ。

(ねこ)

にゃるほど、事前にそういう仕組みがあると、そもそも無茶な売買ができなくなる。

(じいちゃん)

日銀が恣意的に金利などを誘導しなくとも良いのじゃ。目安もないままに日銀がその場その場で判断するから市場が振り回されるのじゃ。あらかじめ「こうなったら税率がこうなるぞ」と言っておけば、セルフコントロールが働くじゃろう。もちろん目安をどれくらいにするかは難しい判断だから、試行錯誤もあるじゃろ。

(ねこ)

他にもあるのかにゃ。

(じいちゃん)

投資減税を行うのじゃ。ある意味、カネの使い道がなくなると博打に走るのじゃ。博打にカネが回るのは必要悪という面もあるのじゃが、基本的には「非生産的」じゃ。やはりカネは生産と消費という「経済の本質部分」に使われることが健全じゃろう。ところで法人税減税の話も出ているようじゃが、それを絡めるのもアリじゃろ。たとえば積極的に投資を行って実体経済に貢献した法人に対しては減税を行うのじゃ。単に利益だけ出している会社まで減税する必要はないじゃろうと思う。そして企業の投資意欲を高めれば、仮にバブルが発生したとしても「単なるバブル」で終わる事はないじゃろう。

(ねこ)

じゃあ、やっぱりバブルになるのかにゃ。

(じいちゃん)

正確にはわからんが、根本的な対策が何もされておらんから、おそらくなるじゃろ。じゃが、経済を回すためにはカネが必要なのじゃ。日本のバブル期の活気はバブルが生み出す大量のカネに支えられておったのは確かじゃ。たとえそのカネが「資産ころがし」で生まれたカネであっても、カネがあれば経済が回る。それが市場経済の仕組みであり、金融資本主義の宿命じゃ。金融資本主義の経済体制が続く限り、バブルは避けられんし、逆に言えばバブルがなければ経済は成長できん。

じゃからと言って、バブルに依存するような経済が健全であるとは言えん。

世界経済は矛盾に満ちておる。

新たな経済の仕組みを考えるべき時代になったのじゃ。

2015.5.29 修正