財政再建すると国民の貯蓄が消える

2015.7.20

(じいちゃん)

ところで「財政再建をすると国民の貯蓄が消える」ことは知っておるかな。もちろんすべての貯蓄が消えるわけではないが、国民の貯蓄は大幅に減ることになるじゃろう。

(ねこ)

財政再建すると国民の貯蓄が消えるなんて新聞に書いてないにゃ。だから誰もそんなこと気が付かないにゃ。本当に財政再建をすると国民の貯蓄が消えるのかにゃ。

(じいちゃん)

財政再建すると間違いなく国民の貯蓄が消えるじゃろう。その理由はこのシリーズでずっと最初から話している「おカネの仕組み」がそのようにできておるからじゃ。世の中のおカネはすべて銀行からの借金(預金)で作られておると説明してきた。じゃから、世の中の借金(負債)の総額と世の中のおカネ(資産)の総額は同じなんじゃ。

(ねこ)

ふ~ん、でもそれが「財政再建で消える国民の貯蓄」とどんな関係があるのかにゃ。

(じいちゃん)

つまり国民の貯蓄は誰かの借金の裏返し、つまり誰かの借金からできておるのじゃよ。それではいったい誰の借金なのか?日本の借金の内訳をみてみよう。借金のうち、1200兆円は政府、1300兆円が企業、350兆円が家計、そして800兆円が外国じゃ。つまり政府の借金1200兆円が国民の貯金を支えておるのじゃ。そして政府が1200兆円の借金を返済すると1200兆円のおカネが世の中から消える。

(ねこ)

にゃー、おカネが消えるなんて初めて聞いたのにゃ。そんなことがあるのかにゃ。

(じいちゃん)

あるある、しかも莫大なおカネが毎日消えたり発生したりしておるぞ。そのおカネが「預金」じゃ。預金とは現金を預け入れたおカネのことではない。それは間違いじゃ。預金とは銀行が個人や企業に貸し付けることで発生するおカネであって、銀行が作り出すおカネじゃ。そのようにして銀行がおカネを作ることを「信用創造」と呼び、銀行が作ったおカネが「預金」と呼ばれる信用通貨なのじゃ。そして預金は個人や銀行がおカネを借りる時に発生するので、個人や銀行が借金を返済すると消えてなくなる仕組みになっておる。

(ねこ)

でも、おカネが消えても、世の中のおカネはたくさんあるのにゃ。

(じいちゃん)

それはおカネを返済する人がいる一方で、新たにおカネを借りる人が同じだけいるからじゃ。つまり世の中のおカネの量は「返済されるおカネの量」と「貸し出されるおカネの量」によって変動する。もし貸し出されるおカネの量よりも返済されるおカネの量が多くなれば、世の中のおカネはどんどん減ってゆく。これが「信用収縮」と呼ばれる現象じゃ。

じゃから、もし政府の債務をすべて返済したら1200兆円のおカネが消えてなくなることになる。すると金融資産が1200兆円減るわけじゃ。日本の金融資産は家計が1650兆円、企業が950兆円、政府が550兆円、外国が500兆円じゃ。このなかから1200兆円が消えてなくなる。家計、企業、政府、海外のどれかの資産が減るとなれば、家計が減る可能性は極めて高い。

(ねこ)

にゃー、だったら家計の資産を減らさないで企業の資産を減らしたらいいにゃ。

(じいちゃん)

企業の資産は950兆円じゃから、すべて無くしても1200兆円には足りないの。しかも財務省と新聞、財界は「消費税を増税して法人税を減税しましょう」と言っておる。法人税を減税すれば企業の資産は減らないじゃろ。ということは、かわりに国民の資産が減ることになる。

(ねこ)

にゃー、だったら政府の資産を減らしたらいいにゃ。

(じいちゃん)

政府は埋蔵金を守るのに必死じゃから無理じゃろ。

(ねこ)

ふにゃー、だったら海外の資産を減らすのにゃ。

(じいちゃん)

海外の資産と言っても、これは海外の人が日本に貸し付けているカネじゃ。それを減らすのは難しいぞ。逆に日本が海外に貸し付けるカネを増やすなら可能かも知れない。これは輸出を増やして貿易黒字をどんどん稼ぐことを意味する。現在の円安が続けばそれもあり得るかも知れん。しかし民主党や共産党が「円安で日本が黒字になるのは近隣(中国と韓国)窮乏化策だ」と言い出すから大変じゃ。

(ねこ)

うう、やっぱり国民の貯蓄が減るしかないのにゃ。政府の借金を減らせば、必ずだれかの貯蓄が減る仕組みになっているのにゃ。

(じいちゃん)

財務省に狙われれば逃げられない。しかも低所得者の貯蓄ほど大きく失われるじゃろう。理由は簡単じゃ。消費税の増税は逆進性が高い。つまり低所得者ほどダメージが大きく、そのぶんだけ貯蓄に回せるおカネが減るのじゃ。低所得者は節約したくても生活必需品の消費を減らすことは難しい。じゃから低所得者は生活のために貯蓄を切り崩すようなる。一方で高額所得者は相対的に負担が少ないし、増税したぶんだけ高額商品の消費を減らせば節約できる。じゃから高額所得者の貯蓄はほとんど減らないと思われる。

結果として、高額所得者の貯蓄は減らず、中・低所得者の貯蓄が消えてしまう。そうして資産格差がさらに拡大するじゃろう。おまけに高額商品の消費が落ちて景気も悪くなる。これが財政再建の結果じゃろう。

(ねこ)

やっぱり消費税の増税は最悪だにゃ。中・低所得者の貯蓄を奪って財政再建するたくらみなのにゃ。しかし財務省・マスコミ連合が「消費税の増税まったなし」を連呼しているにゃ。何か対抗策は無いのかにゃ。

(じいちゃん)

ある。しかしそのためには通貨制度を改革する必要がある。たとえば政府通貨のような「借金ではないおかね」を世の中に循環することで、国民の資産を消さずに財政再建が可能になるのじゃ。書くと話が長くなるので、もし方法を詳しく知りたければ拙著(金融緩和の天国と地獄)を読んでみて下され。やろうと思えば、消費税増税も財政緊縮もせずに財政再建することは可能なのじゃよ。