まとめ:パンデミックに強い社会の実現

最後に、パンデミックに強い経済社会を作り上げる基本的な方針(達成目標)について簡単にまとめてみました。もちろん、すでに述べてきたように、これは未来の社会においても必要になることです。

① 生産の自動化

生活必需品の生産が自動化され、人間の労働に依存しない社会を実現する。

人間が労働しなくとも、生活必需品が自動生産され、すべての人々がタダでそれらの生活必需品を得ることができるなら、仮にコロナウィルスよりも危険な鳥インフルエンザのような感染症が流行した場合でも、人間は家に引きこもって、ワクチンや治療薬が開発されるまで活動を自粛することができます。これは人工知能や完全自動生産によって実現することが可能であり、未来の社会においては必然的に実現されるものと考えられます。つまり、それらの技術開発を、より加速させることが重要です。

② 基礎給付金の支給

すべての国民が生活必需品をタダで手に入れることができる基礎給付金を支給する。

仮に生活必需品が自動生産できるようになったとしても、自動生産された財を買うためのおカネを国民が持っていなければ、何も買うことはできません。これまでの社会では、労働の代価としておカネが支給されてきましたが、労働が不要な時代になると、労働の代価としておカネが支給されることはなくなり、人々は無所得となります。従って、労働の有無にかかわらず、自動生産された財の量に応じて、人々におカネが支給される仕組みが不可欠になります。もちろん、自動生産ではなく手動生産された商品(ハンドメイド品)を人々が交換し合うために、これまでと同じような「労働の代価」という考え方が同時に存在するでしょう。自動生産された商品は低価格であり、人間の労働を伴って生産されたハンドメイド商品は、高額な貴重品となるでしょう。

なお、労働の有無にかかわらず、おカネがタダで支給されたとしても、あくまでも市場経済の仕組みによって取引されているため、そこには常に競争や淘汰が存在し、市場の機能が維持されます。より顧客ニーズに合った低価格の自動生産を実現する企業が勝ち残ります。

③ 外需型から内需型経済(循環型社会)へ

海外への輸出・観光需要などに依存することなく、国内で生産し、国内で消費する経済を基本とする社会を実現する。過度のグローバリズムからの脱却によって、自己循環型の社会を実現する。

人工知能や完全自動化技術の進化によって、海外で生産することの意味はどんどん少なくなっています。簡単に言えば、人件費の安い中国で生産せずとも、人間よりはるかに労働コストの低い人工知能ロボットがあれば、日本で生産してもコストは同じです。わざわざ中国で生産した財を、輸送エネルギーを浪費して輸入する必要はありません。もちろん、日本のような地下資源の乏しい国は、まだまだ海外からの資源の輸入に頼らざるを得ないのですが、最終的には国内で使用した資源を100%リサイクルする完全循環型社会が実現されるでしょう。これは地球環境にもやさしい社会です。完全に実現するまでには相当な時間を要するでしょうが、そうした大きな方針のもとに粛々と改革を進めるべきでしょう。

海外への経済依存度が低くなれば、海外からウィルスが持ち込まれるリスクが軽減されますし、それよりさらに重要な利点として、海外で経済危機が発生しても、日本への連鎖危機が最小限に抑えられる点があります。グローバリズム経済の連鎖崩壊に巻き込まれることがなくなります。つまりバブル崩壊や自然災害によって海外で生じた経済危機にも強くなります。

④ 国債のさらなる発行(または政府通貨制度)

国債のさらなる発行により預金通貨を発行し、国民の所得を引き上げる。国債はすべて日銀が買い入れることで国債に関する問題の大部分を無効化する。もしくは国債の発行によらず、政府通貨によって通貨を発行する。

自由社会では、おカネを貯め込む行為も自由です。そのため、おカネが一部の資産家によって貯め込まれてしまうと、世の中を循環するおカネの量が不足し、生産された財が人々に十分に行き届かなくなってしまいます。これがデフレです。どれほど人工知能や完全自動生産が進歩して潤沢な財が生産されたとしても、人々がおカネを持っていなければ、何も買うことはできません。ですから、おカネがどこかに貯め込まれてしまう以上、おカネを常に増やして国民に配り続けなければなりません。

現代の通貨制度では、おカネは銀行から借金しなければ発行されません(信用創造)。ですから、政府がおカネを発行するためには、銀行から借金をしなければなりません。仮に日銀がおカネを発行する場合でも、誰かが日銀から借金をしなければなりません。そういうシステムになっていますので、国債のさらなる発行が欠かせないのです。あるいは政府が借金をすることなく通貨を発行することもできますが、それが政府通貨(現行では100円や500円等の硬貨がそれにあたる)と呼ばれるものです。ただし、高額な政府通貨の発行には法整備が必要と考えられるので、現行法のままで最も簡単なのが国債の増発というわけです。そして、それらの国債を日銀がすべて買い取ることにより、金利上昇や国債のデフォルト、あるいは将来世代へのツケといった問題はすべてまとめて消滅し、残される課題はインフレのコントロールだけになります。問題が単純化され、コントロールが容易になることは間違いないでしょう。

なお、基礎給付金、ベーシックインカムにご興味のあるかたは、ぜひ拙著「最強のベーシックインカム」(シバブックス)をご購読ください。お願いします。

「最強のベーシックインカム」のご紹介ページへ